第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

がん その他1

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1122] 血液腫瘍患者の基本動作能力の変化と予防的介入の意義

小林大祐1, 國澤洋介2, 武井圭一1, 森本貴之1, 新井健一1, 山本満1 (1.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション科, 2.埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:血液腫瘍, 基本動作能力, 理学療法

【はじめに,目的】
血液腫瘍患者では,化学療法や放射線治療にともなう有害反応や合併症により廃用症候群を生じることがある。そのため,血液腫瘍患者に対する理学療法(PT)は,廃用症候群の予防と改善を図り,日常生活活動(ADL)や基本動作能力の低下を防ぐことが役割の一つである。造血幹細胞移植患者や化学療法を施行した血液腫瘍患者を対象とした報告では,有酸素運動や筋力トレーニングの有用性が示されている。しかし,これらの報告は,身体機能が比較的高い症例を対象としており,身体機能の低下を認める血液腫瘍患者についてのPT介入や基本動作能力の変化については明らかとなっていない。本研究の目的は,入院前のPerformance Status(PS)が0-2と身の回り動作がほぼ自立している血液腫瘍患者を対象に,入院期間中の基本動作能力の変化と予防的なPT介入の対象を明らかにすることとした。
【方法】
対象は2011年3月から2014年8月までに当センターに入院しPTを実施した血液腫瘍患者66名とした。除外基準は,入院前のPSが3-4の者,死亡退院の者,基本動作能力の経時的変化が収集困難であった者とした。対象の属性は,平均年齢が66.3±14.4歳,性別が男性34名,女性32名,がん種は悪性リンパ腫26名,白血病22名,多発性骨髄腫18名,転帰は自宅退院57名,転院9名であった。調査項目は,入院日からPT開始までの日数(開始日数),1日平均のPT単位数(平均単位数)とし,基本動作能力の評価はFunctional Movement Scale(FMS)を用い,診療録から後方視的に調査した。FMSはPT開始日と転帰日の評価値を収集し,転帰日FMS得点からPT開始日FMS得点を引いた値をFMS改善度とした。基本動作能力の変化については,PT開始日の平均FMS得点をもとに群分けを行い,平均未満を低値群,平均以上を高値群として各群における調査項目を比較した。また,先行研究を参考に転帰日FMS得点が30点以上となった割合について比較した。統計学的検討では,各調査項目についてMann-WhitneyのU検定,転帰日FMS得点が30点以上となった割合についてはカイ二乗検定を用い2群間で比較した。解析ソフトは,IBM SPSS ver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
全例におけるFMS得点の中央値(25-75%値)は,PT開始日で24(9-31)点,転帰日で33(23-40)点となり有意差を認めた(p<0.05)。FMS改善度は8(1-16)点であり,77%の対象者に改善を認めた。PT開始日の平均FMS得点は20点,10-14点と25-29点の2つのピークを持つ分布であり,各群の人数は低値群30人,高値群36人となった。各群の転帰日FMS得点は低値群が23(18-29)点,高値群が37(34-42)点,転帰日FMS得点が30点以上の割合は,低値群が20%(6/30人),高値群が89%(32/36人)と有意差を認めた(p<0.05)。その他,各調査項目の群間比較では,年齢,開始日数,平均単位数に有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果から,PT介入が可能であった血液腫瘍患者の基本動作能力は,PT開始時点の動作能力にかかわらず改善傾向を示すことが確認され,入院後の廃用症候群予防や改善に対するPT介入の有用性が示唆された。先行研究では,回復期病棟の入院患者を対象としたADLと基本動作能力との関連について検討し,自宅退院の要因とされるトイレ関連動作の自立におけるFMSのカットオフ値が30点であったと報告している。今回の結果では,PT開始日のFMS得点が20点未満であった患者の80%は,転帰日においてもFMS得点が30点未満で基本動作に介助を要していたことが明らかとなった。このことから,自宅退院を目標とし,身の回り動作を安全に自立して行えることを目的としたPT介入においては,身体機能の回復力や予備力,PTの早期介入や介入頻度も重要であるが,入院前の基本動作能力が低下しないための外来や在宅におけるPT介入が重要であることが考えられた。また,今回の結果では入院からPT開始までの期間については影響を認めなかったが,入院前の身の回り動作や歩行が辛うじて自立していた者では,治療開始や入院による急激な活動量低下を認める者もあり,このような例に対する早期介入や介入頻度についての検討も必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
入院加療を行う血液腫瘍患者の基本動作能力の変化とPT介入のポイントについて検討を行った。本研究の結果を踏まえることで,予防的リハビリテーションの必要性を再確認するとともに,介入すべき対象や基本動作能力が示唆された。