[P3-B-1128] 当院ホスピス緩和ケア病棟のがん患者における自己効力感評価尺度とQOL評価尺度の関連
Keywords:終末期がん, 自己効力感, QOL
【はじめに,目的】
終末期がん患者が抱える苦痛に,スピリチュアルペインがある。スピリチュアルペインは「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義され,自己効力感を評価して把握することも出来る。また,がんのリハビリテーションは,患者のQOLに重点をおくことが特徴であり,多くのQOL評価尺度が開発されている。自己効力感とQOLの関連を検討した報告は,様々な疾患を対象とした報告を散見する。がん患者において,化学療法中の患者や外来患者を対象とした自己効力感評価尺度とQOL評価尺度の関連を述べた報告は確認されるが,ホスピス緩和ケア病棟に入院している終末期がん患者(以下;ホスピス患者)を対象とした報告は認めない。本研究は,当院のホスピス患者を対象に,自己効力感評価尺度とQOL評価尺度の関連を検討する。
【対象と方法】
対象は,平成26年7月から2ヶ月間で当院ホスピス緩和ケア病棟に入院し,リハビリテーションが処方された患者24名。除外規定として,本調査に同意が得られなかった患者,評価項目に欠損を認めた患者,病状により評価が困難な患者,意思疎通が困難な患者,MMSEで24点未満の患者を設定した。評価項目は,QOL評価尺度としてEORTC-QLQ-C30(以下;QLQ-C30),自己効力感評価尺度としてSelf-efficacy scale for advanced cancer(以下;SEAC)を採用し,事前に使用方法を指導された各担当セラピストが実施した。SEACは,下位尺度として情動統制に対する効力感(ARE)と症状コントロールに対する効力感(SCE)とADLに対する効力感(ADE)に分類した。QLQ-C30は,下位尺度として機能スケール(身体面,役割面,感情面,認知面,社会面)と症状スケール(倦怠感,嘔気・嘔吐,疼痛,呼吸困難感,睡眠障害,食欲不振,便秘,下痢,経済的困難)に分類した。統計処理は,SPSS II for Windowsを使用して,SEACおよびQLQ-C30の総得点ならびに各評価下位尺度をSpearmanの相関係数により分析した。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
除外基準により11名を分析対象とした。QLQ-C30とSEACの総得点に関連は認めなかった(r=0.345 p=0.299)。下位尺度における検討ではAREと呼吸困難感(r=-0.647 p=0.032),ADEと睡眠障害(r=-0.690 p=0.019),ADEと食欲不振(r=-0.651 p=0.030)に負の相関を認めた。SCEとの間には有意な相関は認めなかった。
【考察】
AREは呼吸困難感と負の相関を認めた。先行研究において,情動に関与している前頭前野の活動と呼吸困難感には正の相関が示されており(Higashimoto, 2011),本研究はそれを支持する結果となった。進行がんの患者は,約半数が中等度以上の呼吸苦症状を生じる(Brueraら2000)。呼吸苦症状は,多くのホスピス患者のQOLに影響し,精神的苦痛と関連している可能性が考えられた。ADEは,睡眠障害と食欲不振に負の相関を認めたがQLQ-C30の機能スケールである身体面とは相関を認めなかった。ホスピス患者のADEは,必ずしも身体機能と直結しないことを示す。ホスピス患者に対する理学療法は,身体機能面のみでなく,終末期がん患者の多くが経験する食欲不振と不眠症状を把握し生活リズム形成に取り組む介入を行うことで,ADLの自己効力を向上させる可能性がある。ホスピス患者は,症状が刻々と変化する可能性がある。症状の把握には,多職種連携と情報共有が重要と考えられる。SCEとQLQ-C30の間には有意な相関は認めなかった。ホスピス緩和ケア病棟は,症状コントロールが主な役割である。本研究結果は,症状コントロールのみでホスピス患者のQOLが向上しないことを示唆している。ホスピス患者のQOL向上は,ADLや情動に対するリハビリテーションが必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
ホスピス緩和ケア病棟入院患者における自己効力感とQOLの関連を明らかにし,がん終末期のQOL向上を目的とした理学療法を示した。
終末期がん患者が抱える苦痛に,スピリチュアルペインがある。スピリチュアルペインは「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義され,自己効力感を評価して把握することも出来る。また,がんのリハビリテーションは,患者のQOLに重点をおくことが特徴であり,多くのQOL評価尺度が開発されている。自己効力感とQOLの関連を検討した報告は,様々な疾患を対象とした報告を散見する。がん患者において,化学療法中の患者や外来患者を対象とした自己効力感評価尺度とQOL評価尺度の関連を述べた報告は確認されるが,ホスピス緩和ケア病棟に入院している終末期がん患者(以下;ホスピス患者)を対象とした報告は認めない。本研究は,当院のホスピス患者を対象に,自己効力感評価尺度とQOL評価尺度の関連を検討する。
【対象と方法】
対象は,平成26年7月から2ヶ月間で当院ホスピス緩和ケア病棟に入院し,リハビリテーションが処方された患者24名。除外規定として,本調査に同意が得られなかった患者,評価項目に欠損を認めた患者,病状により評価が困難な患者,意思疎通が困難な患者,MMSEで24点未満の患者を設定した。評価項目は,QOL評価尺度としてEORTC-QLQ-C30(以下;QLQ-C30),自己効力感評価尺度としてSelf-efficacy scale for advanced cancer(以下;SEAC)を採用し,事前に使用方法を指導された各担当セラピストが実施した。SEACは,下位尺度として情動統制に対する効力感(ARE)と症状コントロールに対する効力感(SCE)とADLに対する効力感(ADE)に分類した。QLQ-C30は,下位尺度として機能スケール(身体面,役割面,感情面,認知面,社会面)と症状スケール(倦怠感,嘔気・嘔吐,疼痛,呼吸困難感,睡眠障害,食欲不振,便秘,下痢,経済的困難)に分類した。統計処理は,SPSS II for Windowsを使用して,SEACおよびQLQ-C30の総得点ならびに各評価下位尺度をSpearmanの相関係数により分析した。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
除外基準により11名を分析対象とした。QLQ-C30とSEACの総得点に関連は認めなかった(r=0.345 p=0.299)。下位尺度における検討ではAREと呼吸困難感(r=-0.647 p=0.032),ADEと睡眠障害(r=-0.690 p=0.019),ADEと食欲不振(r=-0.651 p=0.030)に負の相関を認めた。SCEとの間には有意な相関は認めなかった。
【考察】
AREは呼吸困難感と負の相関を認めた。先行研究において,情動に関与している前頭前野の活動と呼吸困難感には正の相関が示されており(Higashimoto, 2011),本研究はそれを支持する結果となった。進行がんの患者は,約半数が中等度以上の呼吸苦症状を生じる(Brueraら2000)。呼吸苦症状は,多くのホスピス患者のQOLに影響し,精神的苦痛と関連している可能性が考えられた。ADEは,睡眠障害と食欲不振に負の相関を認めたがQLQ-C30の機能スケールである身体面とは相関を認めなかった。ホスピス患者のADEは,必ずしも身体機能と直結しないことを示す。ホスピス患者に対する理学療法は,身体機能面のみでなく,終末期がん患者の多くが経験する食欲不振と不眠症状を把握し生活リズム形成に取り組む介入を行うことで,ADLの自己効力を向上させる可能性がある。ホスピス患者は,症状が刻々と変化する可能性がある。症状の把握には,多職種連携と情報共有が重要と考えられる。SCEとQLQ-C30の間には有意な相関は認めなかった。ホスピス緩和ケア病棟は,症状コントロールが主な役割である。本研究結果は,症状コントロールのみでホスピス患者のQOLが向上しないことを示唆している。ホスピス患者のQOL向上は,ADLや情動に対するリハビリテーションが必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
ホスピス緩和ケア病棟入院患者における自己効力感とQOLの関連を明らかにし,がん終末期のQOL向上を目的とした理学療法を示した。