[P3-C-0894] 健常者における睡眠中の寝返り回数と日間変動の検討
キーワード:睡眠姿勢, 睡眠感, 睡眠時無呼吸症候群
【はじめに,目的】
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は脳卒中発症リスクを高めることが報告されている。また,脳卒中患者の約70%がSASを合併しているとされている(Dyken et al, 1996)。SASの特徴として,睡眠中に寝返りが行われず背臥位の姿勢を保持してしまい,咽頭部の筋が弛緩し気道を塞ぐことで,呼吸が止まってしまうことが指摘されている。その為,睡眠中の寝返り回数減少は重大な問題であり,睡眠中に適切な回数の寝返りを誘導する必要があると考える。しかしながら,健常者においても睡眠中の寝返りの頻度,日間での変動,睡眠感との関係は明らかではない。そこで本研究では,寝返りに関する基礎的な知見を得る為に,健常者を対象とし,睡眠中の寝返りを3日間調査し,睡眠中の寝返り回数の変動,寝返り回数と睡眠感の関係を明らかにする事を目的とした。
【方法】
対象は健常成人8名(男性4名,女性4名,年齢22.9±1.0歳:平均値±標準偏差)とした。採用基準は,20~30歳で日中に勤務を行っている,研究の同意が得られる者とした。除外基準は,睡眠障害の診断を受けている,睡眠薬を服用している,部位に関わらず疼痛を有する者とした。
寝返り回数の測定には,寝返り回数の計測において信頼性が高いことが報告されている無線3次元加速度計(AccStick4,SysCom社)を使用した。サンプリング周波数は0.2 Hzとし,データは夜間臥床中に測定した。加速度計の貼付位置は胸骨前面とし,臥床前に固定した。睡眠環境に関しては,測定日以外の睡眠環境と同様となるように指示した。また,激しい運動や過度の飲酒,睡眠前のカフェイン摂取を行わないように指示した。測定は日中勤務日の3日間を選択し,測定と測定の間には4日以上の間隔を設けた。
加速度計より得られた重力加速度データから,三角関数を用いて重力方向に対する傾きを算出した。その値から,背臥位・右側臥位・左側臥位・腹臥位の4つの姿勢に分類した(sato et al, 2013)。分類の定義は,背臥位姿勢では,重力方向(0°)に対して,加速度計の傾斜が左右に45°の範囲とし。45°を右に超えた姿勢を右側臥位,左に超えた姿勢を左側臥位とした。この側臥位の範囲は,重力方向に対して45~135°および225~315°までとし,136~224°までの姿勢は腹臥位とした。寝返りの判定は,睡眠中に姿勢変換し,かつ30°以上傾きが変化した時を寝返りとし,その回数を記録した。睡眠時間は,起床時に本人が記録した睡眠記録用紙から取得した。また,主観的睡眠感を「起床時眠気」,「入眠と睡眠維持」,「夢み」,「疲労回復」,「睡眠時間」の5つの因子から評価するOSA睡眠調査票MA版を用いた。
データ解析では,寝返り回数を睡眠時間で除した値を求め,睡眠中1時間当たりの寝返り回数を算出した。統計解析は,寝返り回数の日間変動を調べる為に,変動係数を用いた。また,1時間当たりの寝返り回数と睡眠感の関連を調べる為に,ピアソンの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
全被験者の睡眠時間は,1日当たり6.2±1.0時間(平均値±標準偏差)であった。総寝返り回数は1日当たり24±9.8(6―38)回【平均値±標準偏差(最小値-最大値)】であり,1時間当たりの寝返り回数は,3.9±1.6(1.1-6.5)回であった。OSA睡眠調査票MA版の各因子得点は,起床時眠気が14.8±6.0点,入眠と睡眠維持が18.8±7.7点,夢みが23.4±8.5点,疲労回復が15.5±7.2点,睡眠時間が14.3±6.6点であった。
寝返り回数の日間変動について,1時間当たりの寝返り回数の変動係数は24.5±13.1(8.6-47.9)%であった。また,寝返り回数とOSA睡眠調査票MA版の各因子は,いずれも有意な相関を認めなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究の結果から,若年健常者における寝返り回数は個人間に差があること,日間で変動することが示された。寝返りに日間変動がある理由として,温度や湿度など環境などが影響した可能性がある。今後,睡眠中の寝返り回数が,どのような要因に影響を受けるのか,睡眠環境を厳密に規定し,さらなる検討を行っていく必要がある。また,寝返り回数と睡眠感には相関関係がない事が明らかになった。主観的な睡眠感は,睡眠モニターなど客観的な睡眠評価と必ずしも関連しない事が従来から指摘されており,本研究における寝返り回数との関係もそれを裏付ける結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中の予防や合併症としてのSASへの対応は,これから理学療法が介入する余地を有している。本研究は,SASの特徴の1つである不適切な寝返りに対応する為の基礎的な研究として,新しい知見を示した点で意義がある。
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は脳卒中発症リスクを高めることが報告されている。また,脳卒中患者の約70%がSASを合併しているとされている(Dyken et al, 1996)。SASの特徴として,睡眠中に寝返りが行われず背臥位の姿勢を保持してしまい,咽頭部の筋が弛緩し気道を塞ぐことで,呼吸が止まってしまうことが指摘されている。その為,睡眠中の寝返り回数減少は重大な問題であり,睡眠中に適切な回数の寝返りを誘導する必要があると考える。しかしながら,健常者においても睡眠中の寝返りの頻度,日間での変動,睡眠感との関係は明らかではない。そこで本研究では,寝返りに関する基礎的な知見を得る為に,健常者を対象とし,睡眠中の寝返りを3日間調査し,睡眠中の寝返り回数の変動,寝返り回数と睡眠感の関係を明らかにする事を目的とした。
【方法】
対象は健常成人8名(男性4名,女性4名,年齢22.9±1.0歳:平均値±標準偏差)とした。採用基準は,20~30歳で日中に勤務を行っている,研究の同意が得られる者とした。除外基準は,睡眠障害の診断を受けている,睡眠薬を服用している,部位に関わらず疼痛を有する者とした。
寝返り回数の測定には,寝返り回数の計測において信頼性が高いことが報告されている無線3次元加速度計(AccStick4,SysCom社)を使用した。サンプリング周波数は0.2 Hzとし,データは夜間臥床中に測定した。加速度計の貼付位置は胸骨前面とし,臥床前に固定した。睡眠環境に関しては,測定日以外の睡眠環境と同様となるように指示した。また,激しい運動や過度の飲酒,睡眠前のカフェイン摂取を行わないように指示した。測定は日中勤務日の3日間を選択し,測定と測定の間には4日以上の間隔を設けた。
加速度計より得られた重力加速度データから,三角関数を用いて重力方向に対する傾きを算出した。その値から,背臥位・右側臥位・左側臥位・腹臥位の4つの姿勢に分類した(sato et al, 2013)。分類の定義は,背臥位姿勢では,重力方向(0°)に対して,加速度計の傾斜が左右に45°の範囲とし。45°を右に超えた姿勢を右側臥位,左に超えた姿勢を左側臥位とした。この側臥位の範囲は,重力方向に対して45~135°および225~315°までとし,136~224°までの姿勢は腹臥位とした。寝返りの判定は,睡眠中に姿勢変換し,かつ30°以上傾きが変化した時を寝返りとし,その回数を記録した。睡眠時間は,起床時に本人が記録した睡眠記録用紙から取得した。また,主観的睡眠感を「起床時眠気」,「入眠と睡眠維持」,「夢み」,「疲労回復」,「睡眠時間」の5つの因子から評価するOSA睡眠調査票MA版を用いた。
データ解析では,寝返り回数を睡眠時間で除した値を求め,睡眠中1時間当たりの寝返り回数を算出した。統計解析は,寝返り回数の日間変動を調べる為に,変動係数を用いた。また,1時間当たりの寝返り回数と睡眠感の関連を調べる為に,ピアソンの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
全被験者の睡眠時間は,1日当たり6.2±1.0時間(平均値±標準偏差)であった。総寝返り回数は1日当たり24±9.8(6―38)回【平均値±標準偏差(最小値-最大値)】であり,1時間当たりの寝返り回数は,3.9±1.6(1.1-6.5)回であった。OSA睡眠調査票MA版の各因子得点は,起床時眠気が14.8±6.0点,入眠と睡眠維持が18.8±7.7点,夢みが23.4±8.5点,疲労回復が15.5±7.2点,睡眠時間が14.3±6.6点であった。
寝返り回数の日間変動について,1時間当たりの寝返り回数の変動係数は24.5±13.1(8.6-47.9)%であった。また,寝返り回数とOSA睡眠調査票MA版の各因子は,いずれも有意な相関を認めなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究の結果から,若年健常者における寝返り回数は個人間に差があること,日間で変動することが示された。寝返りに日間変動がある理由として,温度や湿度など環境などが影響した可能性がある。今後,睡眠中の寝返り回数が,どのような要因に影響を受けるのか,睡眠環境を厳密に規定し,さらなる検討を行っていく必要がある。また,寝返り回数と睡眠感には相関関係がない事が明らかになった。主観的な睡眠感は,睡眠モニターなど客観的な睡眠評価と必ずしも関連しない事が従来から指摘されており,本研究における寝返り回数との関係もそれを裏付ける結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中の予防や合併症としてのSASへの対応は,これから理学療法が介入する余地を有している。本研究は,SASの特徴の1つである不適切な寝返りに対応する為の基礎的な研究として,新しい知見を示した点で意義がある。