[P3-C-0907] 足関節の関節拘縮に対する背屈矯正力の違いがラットヒラメ筋の柔軟性に与える影響
Keywords:拘縮, 筋柔軟性, 矯正
【はじめに,目的】
関節拘縮とは,長期的な関節の不動から関節周囲に存在する皮膚,筋,関節包などの軟部組織が関与した関節可動域の制限である。その中でも筋は関節拘縮に大きく影響している。臨床では,足部のギプス固定などで発生した足関節の関節拘縮に対し,筋の柔軟性改善を図る目的でストレッチングなどの足関節背屈矯正を行う。臨床で行われている足関節の関節拘縮に対する背屈矯正は,主に「①ベッド上臥床や松葉杖などで非荷重の足部に対して背屈矯正を行う場合」「②荷重制限がなく,歩行等が行われている足部に対して背屈矯正を行う場合」の2つのケースが考えられる。
本研究は臨床におけるケース①を想定し,発生した足関節の関節拘縮に対して異なる背屈矯正力を設定し,背屈矯正力の違いが筋の柔軟性に与える影響について検討を行った。
【方法】
実験動物は9週齢のWistar系雄ラット24匹を使用した。6匹のラットは対照群として4週間飼育した。18匹のラットは両後肢を膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位で保持して4週間関節固定を実施した。その後,18匹のラットは固定を除去し,背屈矯正を30gの力で行う30g群(6匹),300gの力で行う300g群(6匹),背屈矯正を行わない0g群(6匹)の4群に分けた。実験期間中,すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌を自由に摂取できるようにされた。
背屈矯正は30g群と300g群の両足部に対して30分間行った。矯正に加える力は正常なラット足関節を最小限の力で全範囲動かせる30g,ラット足部に加わる最も強い力として使用したラット体重とほぼ同じである300gとした。対照群と固定群は背屈矯正を実施しなかった。背屈矯正終了後,全ての群は足関節背屈可動域を測定した。
実験期間終了後,ラットを麻酔下で腹大動脈より脱血して屠殺し,各群左後肢のヒラメ筋に対して筋の引張試験,右後肢のヒラメ筋に対して形態観察を実施した。
引張試験の手順は左後肢大腿骨を切断し,足関節最大底屈位となるよう距骨と脛骨を鋼線で固定して引張試験機に取り付けた。次に,脛骨と腓骨を切断しヒラメ筋のみを伸張した。正常なラットヒラメ筋は足関節最大底屈位から最大背屈位までに10mm伸張する。そのため,本研究では10mm伸張時に必要な張力をヒラメ筋の柔軟性と定義した。
形態観察の手順は右後肢ヒラメ筋を摘出して凍結し,10μm厚で筋線維の横断切片を作製しヘマトキシリン-エオジンを用いて染色後,観察を行った。
統計処理はヒラメ筋の柔軟性について,対照群,0g群,30g群,300g群の間で一元配置分散分析の検定を実施し,有意差を認めた場合は多重比較検定にTukey HSD法を適用した。危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【結果】
ヒラメ筋の柔軟性の平均値および標準偏差は,対照群が0.20±0.06N,0g群が2.18±0.47N,30g群が2.22±0.39N,300g群が1.80±0.85Nであった。統計処理の結果,対照群とその他すべての群の間に有意差を認めた(p<0.05)。また,30g群と300g群の間にも有意差を認めた(p<0.05)。
形態観察では,30g群と300g群で0g群と比較して筋線維間隙の拡大の所見が見られた。これらの所見は30g群と比較して300g群の方がより著明に見られた。
【考察】
関節拘縮に対する矯正力の違いを検討した報告によると,矯正力は弱い方が関節可動域改善に効果的である。しかし,この報告はケース②を想定した動物実験である。本研究のようにケース①を想定して行われた研究は筆者が検索する限り見当たらない。本研究結果は関節拘縮が起こった筋に対し,30g群よりも300g群の方が筋の柔軟性が改善した。関節拘縮が起こった筋の形態は,矯正を行うことで筋線維間の架橋結合が切れ,筋線維間の間隙が拡大することが報告されている。本研究結果は30g群よりも300g群の方が筋線維間隙の拡大が起こっており,筋線維間の架橋結合が切れたことで筋の柔軟性が改善したと考えられる。しかし,本研究は矯正を1回行った直後の結果であり,300gの矯正力を長期的に継続していく矯正期間や,体重以上の矯正力を加えることなどを検討する必要がある。また,筋の柔軟性や筋線維の形態は矯正を加えることで正常な状態へと改善するか検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
発生した関節拘縮に対する矯正は臨床で広く行われているが,治療者の経験に基づく治療が行われがちである。本研究は関節拘縮について,臨床のケース①を想定して定量的な力の矯正を加え,筋への影響を明らかにした。これは根拠に基づく理学療法を行うために必要な基礎的知識となる。
関節拘縮とは,長期的な関節の不動から関節周囲に存在する皮膚,筋,関節包などの軟部組織が関与した関節可動域の制限である。その中でも筋は関節拘縮に大きく影響している。臨床では,足部のギプス固定などで発生した足関節の関節拘縮に対し,筋の柔軟性改善を図る目的でストレッチングなどの足関節背屈矯正を行う。臨床で行われている足関節の関節拘縮に対する背屈矯正は,主に「①ベッド上臥床や松葉杖などで非荷重の足部に対して背屈矯正を行う場合」「②荷重制限がなく,歩行等が行われている足部に対して背屈矯正を行う場合」の2つのケースが考えられる。
本研究は臨床におけるケース①を想定し,発生した足関節の関節拘縮に対して異なる背屈矯正力を設定し,背屈矯正力の違いが筋の柔軟性に与える影響について検討を行った。
【方法】
実験動物は9週齢のWistar系雄ラット24匹を使用した。6匹のラットは対照群として4週間飼育した。18匹のラットは両後肢を膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位で保持して4週間関節固定を実施した。その後,18匹のラットは固定を除去し,背屈矯正を30gの力で行う30g群(6匹),300gの力で行う300g群(6匹),背屈矯正を行わない0g群(6匹)の4群に分けた。実験期間中,すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌を自由に摂取できるようにされた。
背屈矯正は30g群と300g群の両足部に対して30分間行った。矯正に加える力は正常なラット足関節を最小限の力で全範囲動かせる30g,ラット足部に加わる最も強い力として使用したラット体重とほぼ同じである300gとした。対照群と固定群は背屈矯正を実施しなかった。背屈矯正終了後,全ての群は足関節背屈可動域を測定した。
実験期間終了後,ラットを麻酔下で腹大動脈より脱血して屠殺し,各群左後肢のヒラメ筋に対して筋の引張試験,右後肢のヒラメ筋に対して形態観察を実施した。
引張試験の手順は左後肢大腿骨を切断し,足関節最大底屈位となるよう距骨と脛骨を鋼線で固定して引張試験機に取り付けた。次に,脛骨と腓骨を切断しヒラメ筋のみを伸張した。正常なラットヒラメ筋は足関節最大底屈位から最大背屈位までに10mm伸張する。そのため,本研究では10mm伸張時に必要な張力をヒラメ筋の柔軟性と定義した。
形態観察の手順は右後肢ヒラメ筋を摘出して凍結し,10μm厚で筋線維の横断切片を作製しヘマトキシリン-エオジンを用いて染色後,観察を行った。
統計処理はヒラメ筋の柔軟性について,対照群,0g群,30g群,300g群の間で一元配置分散分析の検定を実施し,有意差を認めた場合は多重比較検定にTukey HSD法を適用した。危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【結果】
ヒラメ筋の柔軟性の平均値および標準偏差は,対照群が0.20±0.06N,0g群が2.18±0.47N,30g群が2.22±0.39N,300g群が1.80±0.85Nであった。統計処理の結果,対照群とその他すべての群の間に有意差を認めた(p<0.05)。また,30g群と300g群の間にも有意差を認めた(p<0.05)。
形態観察では,30g群と300g群で0g群と比較して筋線維間隙の拡大の所見が見られた。これらの所見は30g群と比較して300g群の方がより著明に見られた。
【考察】
関節拘縮に対する矯正力の違いを検討した報告によると,矯正力は弱い方が関節可動域改善に効果的である。しかし,この報告はケース②を想定した動物実験である。本研究のようにケース①を想定して行われた研究は筆者が検索する限り見当たらない。本研究結果は関節拘縮が起こった筋に対し,30g群よりも300g群の方が筋の柔軟性が改善した。関節拘縮が起こった筋の形態は,矯正を行うことで筋線維間の架橋結合が切れ,筋線維間の間隙が拡大することが報告されている。本研究結果は30g群よりも300g群の方が筋線維間隙の拡大が起こっており,筋線維間の架橋結合が切れたことで筋の柔軟性が改善したと考えられる。しかし,本研究は矯正を1回行った直後の結果であり,300gの矯正力を長期的に継続していく矯正期間や,体重以上の矯正力を加えることなどを検討する必要がある。また,筋の柔軟性や筋線維の形態は矯正を加えることで正常な状態へと改善するか検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
発生した関節拘縮に対する矯正は臨床で広く行われているが,治療者の経験に基づく治療が行われがちである。本研究は関節拘縮について,臨床のケース①を想定して定量的な力の矯正を加え,筋への影響を明らかにした。これは根拠に基づく理学療法を行うために必要な基礎的知識となる。