第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学2

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0910] 関節拘縮の発生抑制を目的とした皮膚に対する伸張運動の効果

田坂厚志1, 小野武也2, 沖貞明2, 石倉英樹3, 相原一貴3, 佐藤勇太3, 松本智博3, 大塚彰2 (1.大阪行岡医療大学医療学部理学療法学科, 2.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 3.県立広島大学大学院総合学術研究科)

Keywords:ラット, 皮膚, 柔軟性

【はじめに,目的】
関節拘縮は,発生を抑制することが重要である。これまでに,関節拘縮の発生を抑制するための骨格筋に対する伸張運動の効果について,動物を用いた実験的研究がいくつか報告されている。しかし,皮膚は伸張運動を行うことで柔軟性を維持し,関節拘縮の発生を抑制するかどうかを検討した報告はない。本研究の目的は,関節拘縮の発生を抑制するために皮膚に対して伸張運動を行うことで,皮膚の柔軟性を維持することができるかどうかを明らかにすることである。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雌ラット12匹とした。実験期間は1週間とした。まず6匹は,右足関節に対して最大底屈位で1週間ギプスによる関節固定を行う固定群(6肢)とし,左足関節に対して介入を行わない対照群(6肢)とした。残りの6匹は,右足関節に対して最大底屈位でギプス固定を行い,1日1回固定を除去し30分間連続して足関節背屈方向へ他動運動を行い足関節後面の皮膚を伸張する伸張運動群(6肢)とした。関節固定はラットにペントバルビタールナトリウム(40mg/kg b.wt.)を投与し,深麻酔下にて右足関節を最大底屈位で保持しギプスを用いて実施した。伸張運動群のラットは,深麻酔下にてギプスを除去した後に右下肢が上方の側臥位とし,股関節と膝関節を最大屈曲位で保持して伸張運動を行った。皮膚の伸張運動は,ばね秤を使用し足関節背屈方向へ0.3Nの力が加わるよう他動運動にて行った。1週間後の実験最終日に足関節背屈可動域と皮膚の柔軟性を測定した。足関節背屈可動域の測定は深麻酔下にて実施した。固定群はギプスを除去した直後に測定した。対照群は固定群の測定が終了した後に行った。伸張運動群はギプスを除去し,足関節背屈方向への他動運動を30分間行った直後に測定した。足関節の背屈はデジタルテンションメーターを用いて定量的に行った。測定の過程を垂直上方からデジタルカメラで撮影し,パソコンに取り込んだ後に0.3Nの力を加えている際の静止画を1枚抽出した。静止画は画像解析ソフトを使用して背屈可動域を算出した。背屈可動域は1枚の静止画から3回測定し,その平均値とした。皮膚の柔軟性は,引張り試験機を用いて測定した。採取する皮膚は足関節背部とし,可動域測定が終了した後に足関節最大底屈位で踵部より遠位の位置にA点と,そこから近位へ10mmの位置にB点をマーキングした。採取する皮膚の範囲はA点とB点を含む長さ20mm,横幅4mmとした。皮膚はA点とB点にそれぞれワイヤーを刺入し,ワイヤーの両端部を引張り試験機に固定した。試験開始位置は2箇所のワイヤー刺入部間の距離が10mmとなるように調整した。引張り試験は開始時の伸張距離が0mm,張力が0Nとなるように設定し,1つの皮膚試料に対して1回実施した。皮膚の柔軟性の指標は,引張り試験の開始時から0.3Nの伸張力が加わった際に皮膚が伸張した距離とした。統計処理はKruskal-Wallisの検定を実施し,その結果有意差を認めた場合は多重比較検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
足関節背屈可動域の平均値は,対照群よりも固定群と伸張運動群で有意に低い値を示し(p<0.05),固定群よりも伸張運動群で有意に高い値を示した(p<0.05)。また,皮膚の伸張距離は,対照群よりも固定群と伸張運動群で有意に低い値を示し(p<0.05),固定群よりも伸張運動群で有意に高い値を示した(p<0.05)。
【考察】
本研究では関節拘縮の発生を抑制するための皮膚に対する他動的な伸張運動の効果について,関節可動域と皮膚の柔軟性を調査した。その結果,関節可動域と皮膚の柔軟性は固定群よりも伸張運動群で有意に高い値を示した。皮膚の柔軟性に関する先行研究では,ティシューエキスパンダーを用いて柔軟性を向上させる方法がいくつか報告されている。しかし,ティシューエキスパンダーは皮下に挿入するため外科的な侵襲を伴い,関節拘縮の発生を抑制する目的で使用されないため,体表上から実施する皮膚に対する伸張運動の効果について検討する必要があった。今回我々が行った実験的研究は,関節運動を伴う皮膚の伸張運動が,十分ではないが皮膚の柔軟性を維持し,関節拘縮の発生を抑制することを明らかにした。今後は関節運動を伴わない皮膚に対する伸張運動の効果を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
皮膚に対する伸張運動の効果を明らかにしたことは,関節拘縮の発生を抑制するための運動療法の一助になると考える。