[P3-C-0913] 膝伸筋の筋出力メカニズムにおける筋収縮連携作用
Keywords:膝伸筋, 筋収縮連携, 短縮速度
【はじめに,目的】我々は,筋間連結(骨格筋同士の連結)が膝伸筋の筋出力に与える影響について調べるために生理学的な力学的実験(in vivo)を行い,筋間連結が膝伸筋筋出力メカニズムに重要な役割を果たしていることを第46~49回の本大会において報告した。これらの研究過程において下肢の解剖学的構造を加味して考慮したとき,膝伸筋の周囲筋が,膝伸筋の筋出力メカニズムに何らかの作用を及ぼしている可能性があることに気がついた。そこで本研究では,膝伸筋に隣接する骨格筋の筋収縮が膝伸筋の筋出力にどのように関わっているのかを調べるために実験を行った。
【方法】実験には20匹のウシガエル(Rana catesbeiana)(体長:134±7 mm)の膝伸筋である大腿三頭筋(ヒトの大腿四頭筋にあたり前大腿直筋および内・外側広筋の3筋からなる)の内・外側広筋を膝伸筋標本として用いた。ウレタンを腹腔内投与して麻酔した後,坐骨神経を尾骨部分から露出させた。カエルを実験バスに固定し,大腿三頭筋腱に取り付けたフックを張力計に固定をした。標本の筋長を適宜変えて十分な強度の電気刺激(60 Hz,0.5 s)を坐骨神経に与えて標本の等尺性強縮張力測定後,最大張力を示した筋長を静止長とした。その静止長において等尺性強縮させた後,荷重を様々に変えて等張性収縮時の短縮速度を測定した。膝伸筋標本は,その上面を前大腿直筋,下面をハムストリングスと筋間連結をしている。膝伸筋標本,前大腿直筋,ハムストリングスへの支配神経分枝を坐骨神経から適宜切断して実験条件を設定した。実験は,(1)大腿部の筋のすべてを同時収縮させた条件(全収縮)(N=5),(2)膝伸筋標本のみ収縮させた条件(標本収縮)(N=5),(3)膝伸筋標本と前大腿直筋を収縮させた条件(標本+直筋収縮)(N=5),(4)膝伸筋標本とハムストリングスを収縮させた条件(標本+屈筋収縮)(N=5)の4条件で行った。実験データよりそれぞれの荷重-速度関係を作成した後,短縮速度および外へ働きかける作用(短縮速度と荷重の積で算出した仕事率)を比較し検討した。荷重(等張性収縮張力)データは各標本の等尺性強縮張力,そして筋の長さ変化データは大腿骨長(大腿骨頭-膝関節面)(BL)でそれぞれ除して正規化した。実験中はSpO2を確認しながら呼吸管理を行った。実験はすべて20±0.5℃の温度条件下で行った。なお,統計処理は一元配置分散分析を行い,post hoc検定はTukey法を用いた。
【結果】短縮速度(BL/s)は,「全収縮」条件が全荷重域に渡って最も速かった。最大短縮速度は,「全収縮」,「標本収縮」,「標本+直筋収縮」,「標本+屈筋収縮」それぞれ4.0±0.5,2.4±0.2,2.7±0.4,3.1±0.7であり,「全収縮」が他の条件と比較して有意に速かった(p<0.01)。どの条件も荷重0.9で急速に短縮しはじめ,重たい荷重域(0.5-0.9)の短縮速度は徐々に増加し,軽い荷重域(0.1-0.5)でその増加率が増大する傾向があった。仕事率は,「全収縮」が全荷重域で他の条件よりも約2倍大きく,荷重0.9で最大1.6になり,荷重が軽くなるに従い直線的に減少した。「標本収縮」の最大仕事率は0.8(荷重0.81),「標本+直筋収縮」は0.8(荷重0.85),「標本+屈筋収縮」は0.66(荷重0.69)であった。
【考察】本研究では,膝伸筋に隣接する骨格筋の筋収縮が膝伸筋出力にどのように関与しているのかを検討するために,膝伸筋とともに同時収縮させる筋の組み合わせを変えて膝伸筋の短縮速度を測定した。その結果,短縮速度は膝伸筋とすべての隣接筋を同時収縮させた条件「全収縮」が他の条件よりも著しく速かった。また,膝伸筋の仕事率に及ぼす影響は同時収縮させた隣接筋により異なっていたが,「全収縮」が膝伸筋出力に著しく影響を与えていた。すなわち,これらは隣接筋の収縮が膝伸筋の短縮速度および仕事率に作用していることを示している。特に「全収縮」条件,つまり大腿部すべての筋が同時収縮したとき,膝伸筋の筋出力メカニズムに大きく関わっていることが明らかとなった。本研究の実験結果は,膝伸筋は負荷が大きくなればなるほど,隣接筋の筋収縮と連携をして,それに対応できるような筋出力メカニズムを構築していることを示唆している。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,膝伸筋の筋出力メカニズムの1つを示した基礎的な事実であり,理学療法臨床場面で考察する上で基礎となるものと考える。
【方法】実験には20匹のウシガエル(Rana catesbeiana)(体長:134±7 mm)の膝伸筋である大腿三頭筋(ヒトの大腿四頭筋にあたり前大腿直筋および内・外側広筋の3筋からなる)の内・外側広筋を膝伸筋標本として用いた。ウレタンを腹腔内投与して麻酔した後,坐骨神経を尾骨部分から露出させた。カエルを実験バスに固定し,大腿三頭筋腱に取り付けたフックを張力計に固定をした。標本の筋長を適宜変えて十分な強度の電気刺激(60 Hz,0.5 s)を坐骨神経に与えて標本の等尺性強縮張力測定後,最大張力を示した筋長を静止長とした。その静止長において等尺性強縮させた後,荷重を様々に変えて等張性収縮時の短縮速度を測定した。膝伸筋標本は,その上面を前大腿直筋,下面をハムストリングスと筋間連結をしている。膝伸筋標本,前大腿直筋,ハムストリングスへの支配神経分枝を坐骨神経から適宜切断して実験条件を設定した。実験は,(1)大腿部の筋のすべてを同時収縮させた条件(全収縮)(N=5),(2)膝伸筋標本のみ収縮させた条件(標本収縮)(N=5),(3)膝伸筋標本と前大腿直筋を収縮させた条件(標本+直筋収縮)(N=5),(4)膝伸筋標本とハムストリングスを収縮させた条件(標本+屈筋収縮)(N=5)の4条件で行った。実験データよりそれぞれの荷重-速度関係を作成した後,短縮速度および外へ働きかける作用(短縮速度と荷重の積で算出した仕事率)を比較し検討した。荷重(等張性収縮張力)データは各標本の等尺性強縮張力,そして筋の長さ変化データは大腿骨長(大腿骨頭-膝関節面)(BL)でそれぞれ除して正規化した。実験中はSpO2を確認しながら呼吸管理を行った。実験はすべて20±0.5℃の温度条件下で行った。なお,統計処理は一元配置分散分析を行い,post hoc検定はTukey法を用いた。
【結果】短縮速度(BL/s)は,「全収縮」条件が全荷重域に渡って最も速かった。最大短縮速度は,「全収縮」,「標本収縮」,「標本+直筋収縮」,「標本+屈筋収縮」それぞれ4.0±0.5,2.4±0.2,2.7±0.4,3.1±0.7であり,「全収縮」が他の条件と比較して有意に速かった(p<0.01)。どの条件も荷重0.9で急速に短縮しはじめ,重たい荷重域(0.5-0.9)の短縮速度は徐々に増加し,軽い荷重域(0.1-0.5)でその増加率が増大する傾向があった。仕事率は,「全収縮」が全荷重域で他の条件よりも約2倍大きく,荷重0.9で最大1.6になり,荷重が軽くなるに従い直線的に減少した。「標本収縮」の最大仕事率は0.8(荷重0.81),「標本+直筋収縮」は0.8(荷重0.85),「標本+屈筋収縮」は0.66(荷重0.69)であった。
【考察】本研究では,膝伸筋に隣接する骨格筋の筋収縮が膝伸筋出力にどのように関与しているのかを検討するために,膝伸筋とともに同時収縮させる筋の組み合わせを変えて膝伸筋の短縮速度を測定した。その結果,短縮速度は膝伸筋とすべての隣接筋を同時収縮させた条件「全収縮」が他の条件よりも著しく速かった。また,膝伸筋の仕事率に及ぼす影響は同時収縮させた隣接筋により異なっていたが,「全収縮」が膝伸筋出力に著しく影響を与えていた。すなわち,これらは隣接筋の収縮が膝伸筋の短縮速度および仕事率に作用していることを示している。特に「全収縮」条件,つまり大腿部すべての筋が同時収縮したとき,膝伸筋の筋出力メカニズムに大きく関わっていることが明らかとなった。本研究の実験結果は,膝伸筋は負荷が大きくなればなるほど,隣接筋の筋収縮と連携をして,それに対応できるような筋出力メカニズムを構築していることを示唆している。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,膝伸筋の筋出力メカニズムの1つを示した基礎的な事実であり,理学療法臨床場面で考察する上で基礎となるものと考える。