第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

運動生理学1

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0935] 心肺運動負荷試験を用いた筋内酸素動態と呼吸循環動態の回復特性について(第2報)

性別差における検証

中村朋博1, 山本裕晃2, 森田正治3 (1.特定特別医療法人弘医会太刀洗病院, 2.特定特別医療法人弘医会福岡鳥飼病院, 3.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)

キーワード:心肺運動負荷試験, 近赤外線分光法, 酸素動態

【はじめに,目的】
運動習慣がない者や高齢者では心肺機能に余力がある時点でも下肢筋の疲労により運動を中止する場合があり,運動療法後に対象者の全身状態が落ち着いても,筋疲労の訴えは妥当な時間を越えて残存することがある。従来,筋疲労の評価としてクレアチニン燐酸や乳酸を指標として測定されており,生体内の酸素分布の測定には,酸素針電極が用いられている。しかし,いずれも組織侵襲を伴う手法であり,測定部位の組織を破壊することを多少なりとも考慮すれば,生理的環境を反映しない可能性がある。最近の知見では,乳酸は疲労物質ではなく,運動パフォーマンスを変容させるシグナルにはならないという報告がある。一方,非侵襲的な筋電図の周波数解析で評価する方法が報告されているが,運動後の回復状態を検知できないなどの否定的な意見もあり,今も尚,筋疲労を定量的・客観的に評価する決定的手段をもっていないといえる。近年,近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy,以下NIRS)が用いられるようになり,筋電図では得ることができなかった運動時及び運動後の局所筋を非侵襲的に酸化的代謝の面から評価できるようになっている。第49回日本理学療法士学術大会において,筋内酸素動態と呼吸循環動態の回復過程に解離が出現することを報告した。前回と同様の運動課題を用いて,性別において筋内酸素動態と呼吸循環動態の回復過程に差異が生じるか検証した。

【方法】
対象は20歳以上の健常成人男女14名(年齢26.3±4.4歳,身長165.2±7.7体重56.7±8.5cm,BMI20.9±1.7)であった。対象筋は利き足側の外側広筋(VL)・前脛骨筋(TA)・外側腓腹筋(GL)とし,NIRS(Spectratech inc.社製OEG-16)のプローブを貼り付けた。呼気ガス分析には携帯型呼気ガス代謝モニターMeta Max@3B(CORTEX社製)を用い,breath-by-breath法にて1呼吸ごとに連続的に測定し,モニター心電図も同時に測定した。ペダリング動作は,フクダ電子社製の自転車エルゴメーター使用した。運動負荷プロトコールは,1分間毎に15W漸増するramp負荷法を用いて,被験者が一定のペダル回転数(60rpm)を保てなくなるか自覚症状(mBS)が最大に至るまで運動負荷を行った後に,10分間の安静座位をとった。データ処理は,NIRSにより得られた生波形を5点移動平均化し,⊿Coxy・Dと⊿Cdoxy・Dの差である⊿Hbtsを求め,3筋群間の運動終了点(⊿Hb0s),回復中期(⊿Hb300s),回復後期(⊿Hb600s)の数値と酸素摂取量(VO2),心拍数(HR)の60,300,600s変化率を男女群別で比較した。統計処理は,性別間の回復特性の検討には,二元配置分散分析を用いて,要因や水準の比較は個別に分析した。

【結果】
男女の3筋群共に回復過程に交互作用は認めなかったが,VLのみ性別の⊿Hbts平均値に有意差がみられ(p<0.05),⊿Hb300sと⊿Hb600s共に男性群に対して女性群が有意に低値を示した(p<0.05)。GLは⊿Hb300sと⊿Hb600sで女性群が高値を示したが,有意差は確認できなかった。VO2は60sで男性が有意に高値を示したが(p<0.05),男女間のVO2の回復過程に交互作用は認めなかった。なお,HRは,性別による有意差は認めなかった。

【考察】
先行研究では,高負荷段階において大腿筋群の筋内酸素レベルが低下する段階から腓腹筋群の動員を確認している。一般的な女性では,男性に比べ運動耐容能力が低いことから,自転車運動の主動作筋であるVLの酸素レベルの低下が早期に出現し,GLの動員を生じた結果として回復段階に影響を及ぼした可能性がある。また,実験中は自転車駆動パターンに特徴的な性差は確認できなかったが,負荷プロトコール継続のためGLなどの下腿後面筋を,男性よりも優位に筋出力していたことが予測される。一方,性別間による筋内酸素動態と呼吸循環動態の回復過程には,特徴的な差異はなく,男女ともに近似した疲労回復の経過を辿るものと予測される。

【理学療法学研究としての意義】
高強度の自転車運動では,女性においては主動作筋だけでなく,補助的に働く筋にも同様に疲労が出現する可能性はあるが,回復過程には性別差はないことが示唆された。したがって,運動後の筋疲労の回復に必要な休息時間は性差がないものと考えられる。