[P3-C-0938] 登山を想定したトレッドミル歩行での歩行効率と身体負荷の検討
Keywords:登山, 酸素摂取量, ストレス
【はじめに,目的】
近年,登山は健康増進やリハビリテーションツールの一つとして注目を浴びているが,登山者の体力とのミスマッチが原因となって事故が生じている。よって,本研究は登山を想定してトレッドミルを用いた「緩勾配・速い歩行」と「急勾配・遅い歩行」を行い,身体負荷や歩行効率,ストレスに関して比較,検討することを目的とした。研究意義は,安全な登山方法の提供に寄与することとした。
【方法】
対象者は,健常成人男子学生15名(年齢21.2±0.9歳,身長173.3±6.0cm,体重70.7±10.6kg,BMI23.5±3.1)とした。除外基準は,喫煙歴のある者,整形外科的疾患を有する又は既往のある者,呼吸器・循環器系に障害を有する者とした。対象者には,事前に研究の趣旨や安全性を十分に説明し,書面にて実験参加の同意を得た。
運動条件は①勾配5%・歩行速度5.9km/h(以下5%),②10%・4.1km/h(以下10%),③18%・2.1km/h(以下18%),④25%・1.0km/h(以下25%)とした。これらの運動条件は酸素摂取量が全て同じ(18.3[ml/min/kg])であり,一般的登山の身体負荷になるよう設定した(山本らの酸素摂取量予測式:酸素摂取量=0.15S2+0.14SG+0.45S+0.40G+4.23(S:速度[km/h]・G:勾配[%])に一般的登山での平均速度2.1km/hと平均勾配18.0%を挿入)。研究プロトコールは,安静3分-Warm up1分-運動5分を1セットとし,これを運動条件分(4セット)行った。なお,運動条件の選択はランダムにて実施した。
測定方法は,呼吸循環応答のパラメータでは各条件での最終1分間の平均値を採択し,単位移動距離(垂直方向)あたりの酸素摂取量[ml/m/kg]を歩行効率として表した。下肢筋力は,HHDを用いて大腿四頭筋・下腿三頭筋の最大筋力を利き足で2回測定し,最大値を採択した。ストレスは,指標となる唾液アミラーゼ(以下アミラーゼ)を運動前・後に唾液採取紙を用いて採取,計測した。自覚的運動強度は運動前・後にVASを用いて評価した。統計処理は各条件での酸素摂取量およびアミラーゼの比較には一元配置分散分析,post hoc testとしてBonferroniの方法を用い,下肢筋力とのそれぞれの関係性にはPearsonの検定を用いた。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
酸素摂取量は全ての条件間で有意差が認められ,5%で一番高値を示した。歩行効率では10%と25%以外で有意差が認められ,酸素摂取量と同様に5%で最も高値を示した。アミラーゼは標準偏差が大きく全ての条件間で有意差は認められなかった。また,下肢筋力においても各条件における酸素摂取量やアミラーゼ,VASとの相関は認められなかった。
【考察】
ramp負荷法にて算出している予測式を用いた本研究では,酸素摂取量は各条件間で有意な差を示した。一方,定常負荷からの予測式:酸素摂取量[ml/min/kg]=4.69+0.54S2+0.16SGに本研究の設定値をそれぞれ代入すると本研究の結果と類似した傾向となった。よって,その負荷設定によって予測式を使い分ける必要性があると考えられた。また,酸素摂取量と歩行効率では,緩勾配・速い歩行にて最も効率が悪くなった。そのため,身体負荷としては勾配よりも速度の依存性が高いことが考えられた。唾液アミラーゼは,個人差が大きく条件間で有意差はなかった。また,酸素摂取量とアミラーゼにも相関性は認められなかった。そのため本研究では,身体負荷の程度はストレスへの影響は小さいと考えられた。しかし,アミラーゼの計測は環境や時間,恐怖感,疲労度等などの個人的要因に影響を受けるため,より厳格なコントロールが必要であったと考えられた。下肢筋力は急勾配では必要とされる筋活動量が増大すると報告されていたが,全ての測定項目と相関がなかった。よって,登山においては筋力が高いことがストレスや自覚的な負担感を軽減させる要因とはならない可能性があると示唆された。以上より,「どのような勾配か」よりも「どのような速度で登るのか」が登山におけるリスク回避の観点では重要である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
研究意義として安全な登山方法を提案することに寄与できると考えた。
近年,登山は健康増進やリハビリテーションツールの一つとして注目を浴びているが,登山者の体力とのミスマッチが原因となって事故が生じている。よって,本研究は登山を想定してトレッドミルを用いた「緩勾配・速い歩行」と「急勾配・遅い歩行」を行い,身体負荷や歩行効率,ストレスに関して比較,検討することを目的とした。研究意義は,安全な登山方法の提供に寄与することとした。
【方法】
対象者は,健常成人男子学生15名(年齢21.2±0.9歳,身長173.3±6.0cm,体重70.7±10.6kg,BMI23.5±3.1)とした。除外基準は,喫煙歴のある者,整形外科的疾患を有する又は既往のある者,呼吸器・循環器系に障害を有する者とした。対象者には,事前に研究の趣旨や安全性を十分に説明し,書面にて実験参加の同意を得た。
運動条件は①勾配5%・歩行速度5.9km/h(以下5%),②10%・4.1km/h(以下10%),③18%・2.1km/h(以下18%),④25%・1.0km/h(以下25%)とした。これらの運動条件は酸素摂取量が全て同じ(18.3[ml/min/kg])であり,一般的登山の身体負荷になるよう設定した(山本らの酸素摂取量予測式:酸素摂取量=0.15S2+0.14SG+0.45S+0.40G+4.23(S:速度[km/h]・G:勾配[%])に一般的登山での平均速度2.1km/hと平均勾配18.0%を挿入)。研究プロトコールは,安静3分-Warm up1分-運動5分を1セットとし,これを運動条件分(4セット)行った。なお,運動条件の選択はランダムにて実施した。
測定方法は,呼吸循環応答のパラメータでは各条件での最終1分間の平均値を採択し,単位移動距離(垂直方向)あたりの酸素摂取量[ml/m/kg]を歩行効率として表した。下肢筋力は,HHDを用いて大腿四頭筋・下腿三頭筋の最大筋力を利き足で2回測定し,最大値を採択した。ストレスは,指標となる唾液アミラーゼ(以下アミラーゼ)を運動前・後に唾液採取紙を用いて採取,計測した。自覚的運動強度は運動前・後にVASを用いて評価した。統計処理は各条件での酸素摂取量およびアミラーゼの比較には一元配置分散分析,post hoc testとしてBonferroniの方法を用い,下肢筋力とのそれぞれの関係性にはPearsonの検定を用いた。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
酸素摂取量は全ての条件間で有意差が認められ,5%で一番高値を示した。歩行効率では10%と25%以外で有意差が認められ,酸素摂取量と同様に5%で最も高値を示した。アミラーゼは標準偏差が大きく全ての条件間で有意差は認められなかった。また,下肢筋力においても各条件における酸素摂取量やアミラーゼ,VASとの相関は認められなかった。
【考察】
ramp負荷法にて算出している予測式を用いた本研究では,酸素摂取量は各条件間で有意な差を示した。一方,定常負荷からの予測式:酸素摂取量[ml/min/kg]=4.69+0.54S2+0.16SGに本研究の設定値をそれぞれ代入すると本研究の結果と類似した傾向となった。よって,その負荷設定によって予測式を使い分ける必要性があると考えられた。また,酸素摂取量と歩行効率では,緩勾配・速い歩行にて最も効率が悪くなった。そのため,身体負荷としては勾配よりも速度の依存性が高いことが考えられた。唾液アミラーゼは,個人差が大きく条件間で有意差はなかった。また,酸素摂取量とアミラーゼにも相関性は認められなかった。そのため本研究では,身体負荷の程度はストレスへの影響は小さいと考えられた。しかし,アミラーゼの計測は環境や時間,恐怖感,疲労度等などの個人的要因に影響を受けるため,より厳格なコントロールが必要であったと考えられた。下肢筋力は急勾配では必要とされる筋活動量が増大すると報告されていたが,全ての測定項目と相関がなかった。よって,登山においては筋力が高いことがストレスや自覚的な負担感を軽減させる要因とはならない可能性があると示唆された。以上より,「どのような勾配か」よりも「どのような速度で登るのか」が登山におけるリスク回避の観点では重要である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
研究意義として安全な登山方法を提案することに寄与できると考えた。