第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

運動生理学2

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0945] 基本間隔の7%以内のリズム変化は予測に基づく反応運動を遅延させない

高橋優基1, 藤原聡1, 伊藤正憲1, 嘉戸直樹1, 鈴木俊明2 (1.神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科, 2.関西医療大学大学院保健医療学研究科)

Keywords:聴覚刺激, 予測, 反応時間

【はじめに】我々は先行研究において,1500msを基本間隔とした周期的な聴覚刺激の刺激系列の最後の刺激間隔のみを,刺激のリズムが変わったと気づけない1425ms(1500msを5%短縮)または1575ms(5%延長)に変化させても,一定間隔で刺激を呈示したときと比較して筋電図反応時間(EMG-RT:electromyographic reaction time)は遅延しなかった。一方で,明らかにリズムが変わったと気づける1200ms(20%短縮)または1800ms(20%延長)に変化させると,一定間隔で刺激を呈示したときと比較してEMG-RTは有意に遅延した。このことから,基本間隔の前後数10msには予測の範疇に収まるある程度の時間の幅が存在し,周期的なリズムの予測機構が機能することで円滑な反応運動は維持されると考察した。本研究では最後の刺激間隔の短縮を1~20%の範囲で1%ごとに設定し,リズムの変化が予測に基づく反応運動に及ぼす影響について検討した。
【方法】対象はきき足が右の健常者10名(男性8名,女性2名,平均年齢25.5±3.7歳)とした。実験機器はテレメトリー筋電計MQ8(KISSEICOMTEC)を使用した。聴覚刺激はSoundTrigger2Plus(KISSEICOMTEC)で設定した。聴覚刺激の刺激条件は刺激周波数を900Hzとし,刺激強度は対象者が明瞭に聴き取れる適切な大きさに設定した。対象者は端座位で聴覚刺激を合図にできるだけ素早く右足関節を背屈する反応課題を実施し,右前脛骨筋より筋電図を記録した。1500ms間隔の周期的な聴覚刺激を呈示する条件と,この条件のうち最後の刺激間隔のみを1500msの1~20%の範囲で短縮する条件とした。この短縮する間隔は1%ずつ設定し,合計21条件とした。聴覚刺激は1試行につき6~10回連続的に呈示した。試行ごとにこの刺激回数はランダムに設定し,対象者が試行を繰り返しても何回目の刺激で異なる刺激間隔が挿入されるかを予測できないようにした。対象者は21条件を10試行ずつ,合計210試行をランダムに実施した。対象者の疲労を考慮し,課題は5日に分けておこない,1日あたり42試行ずつ実施した。統計処理には反復測定一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,最後の聴覚刺激に対するEMG-RTを21条件間で比較した。有意水準は5%に設定した。
【結果】一定間隔で呈示した条件のEMG-RTは142.4±8.9msであった。1~20%短縮した条件のEMG-RTは1%から順に,141.6±8.6ms,141.9±8.6ms,143.3±5.7ms,146.9±8.9ms,145.4±8.6ms,142.9±7.2ms,147.3±8.0ms,164.2±10.0ms,166.5±7.5ms,165.0±4.8ms,164.7±9.6ms,174.0±12.0ms,175.2±10.7ms,174.8±11.8ms,181.3±8.5ms,182.7±12.5ms,186.9±7.3ms,187.0±9.7ms,186.8±8.3ms,189.3±14.4msであった。21条件間で比較すると,1~7%短縮した条件のEMG-RTは一定間隔の条件と比較して有意差は認めなかった。8~20%短縮した条件のEMG-RTは一定間隔および1~7%短縮した条件と比較して有意に遅延した(p<0.01)。
【考察】刺激間隔が変化する条件は,最初に1500ms間隔の刺激が少なくとも4回呈示されたのちに1485~1200msの間隔に変化する。藤原らは周期的な聴覚刺激に対する反応課題に関して,最初の3回の刺激でEMG-RTが短縮し,4回目以降は予測に基づく反応運動が可能であると報告している。刺激間隔が変化する条件においても,最初の1500ms間隔の周期的な刺激の呈示により,繰り返される刺激の呈示時刻を予測していたであろう。1~7%短縮した条件ではEMG-RTが遅延しなかった。この結果より,周期的なリズムの予測が可能な範囲は,1500ms間隔であれば,その5%である75msにとどまらず,6%,7%である90ms,105msに至るまでの時間の短縮も含まれていると考えた。このことから,基本間隔の7%以内の周期性の変化に関しては周期的なリズムの予測機構が機能し,運動の準備状態が維持されると考えた。一方,8~20%短縮した条件では基本間隔との時間の差が120~300msであり,この時間の差は予測が可能な時間の幅を超えるものであったため,フェイント刺激となったと考えた。河辺らは,予測を生じさせるような刺激を与えながら途中でフェイント刺激を与えると反応時間が遅延すると報告している。このことから周期性の変化が基本間隔の8%以上に至ると,リズムの予測が裏切られ,運動の準備状態が破綻すると考えた。
【理学療法学研究としての意義】1500ms間隔の周期的なリズムを用いてリズミカルな動作を誘導する際,その7%以内のリズムの変化は動作の周期性を乱さないことが示唆された。今後は,リズムが変化して予測が乱された後に連続して呈示される刺激に対する反応運動について検討したい。