第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

体幹1

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0949] 腰椎圧迫骨折を呈した地域在住女性における腰部深層筋の脂肪浸潤率について

多裂筋・脊柱起立筋・大腰筋を用いた検証

藤本貴大, 松坂佳樹, 吉田聡志 (社会医療法人緑壮会金田病院リハビリテーション科)

キーワード:腰椎圧迫骨折, 腰部深層筋横断面積, 脂肪浸潤率

【はじめに,目的】
脊椎圧迫骨折は,運動器不安定症の診断基準となる疾患に挙げられている。そのため急性期を過ぎれば早期離床と,転倒予防・歩行能力維持改善に努める必要がある。脊椎圧迫骨折患者は,体幹安定性機能改善も重要な課題である。特に,脊椎の分節的安定機能に必要な多裂筋の機能不全は腰痛などの原因ともなり,動作機能低下因子ともなりかねない。近年,急性腰痛患者やヘルニア患者の疼痛部位が腰椎多裂筋に限局的な筋萎縮や脂肪浸潤し機能障害を生じることが報告されている。本研究は,女性腰椎圧迫骨折患者の多裂筋・脊柱起立筋・大腰筋横断面積を計測し脂肪組織浸潤程度を検討することとした。
【方法】
対象は,2013年4月から2014年1月に当院を受診し,医師により単椎体の腰椎圧迫骨折と診断された地域に在住していた女性14名(平均76.4±10.3歳,身長155.1±7.8cm,体重53.4±9.2kg,BMI22.2±3.2)とした。筋横断面積(以下;MCSA)の計測画像は,Magnetic Resonance Imaging(以下;MRI,TOSHIBA社製Vantage Titan 3T)のT1強調画像,Th12/L1,L1/2,L2/3,L3/4,L4/5,L5/S1と各椎体の上下椎体縁から中間位における横断像の計11画像とした。取得した画像は,医療画像ソフトウエアOsiriX5.8.1 32bitを使用し,PC画面上で両側の多裂筋,脊柱起立筋,大腰筋を計測した。多裂筋は,体格による個人差を排除するため体重で除した値も算出した。脂肪浸潤の計測には,Ransonら(2006)の方法を参考に,ImageJ1.47vを使用し各MCSAと閾値処理から求められた除脂肪MCSAを計測し,MCSAと除脂肪MCSAの差からMCSAで除した比率を脂肪浸潤率とした。すべての計測は,2回行いその平均値を使用した。統計処理は,各MCSAの左右差,筋間の脂肪浸潤率をMann-WhitneyのU検定を用い分析した。有意水準を5%未満とした。
【結果】
各MCSAの最大値は,大腰筋でL4/5;7.3±2.9cm2,多裂筋はL5/S1;4.1±1.8cm2,脊柱起立筋はL2中間位;10.1±4.6cm2であった。体重で補正した多裂筋は,L5/S1;0.08±0.03cm2/kgであった。多裂筋を脊柱起立筋で除した値は,L5/S1;1.27±0.82となり,それ以外は1未満(0.18~0.83)となった。各MCSAの左右差は,大腰筋L4/5(右7.02±2.83 左7.59±3.11cm2 P<0.05),多裂筋L4/5(右3.31±1.67 左3.64±1.46cm2 P<0.05),L5/S1(右3.87±1.97 左4.31±1.69cm2 P<0.05)で有意な差が認められた。脂肪浸潤率は,L5/S1で多裂筋25.1±14.3%,脊柱起立筋24.7±22.6%となり,この筋間の脂肪浸潤率に有意差は認められなかった。
【考察】
今回の結果について,腰椎圧迫骨折患者の障害部位に関係なく多裂筋・脊柱起立筋の脂肪浸潤が確認された。多裂筋と脊柱起立筋は,腰椎中間位付近で同程度となり下位で多裂筋が大きくなるとされるが,L5/S1のみ大きかった。生方ら(2014)による20歳代女性における体重で補正した腰椎多裂筋0.14±0.02cm2/kgという報告に対し,その半分程度であった。これらのことから腰部多裂筋は萎縮していると考えられる。一方で,大腰筋は地域在住者70歳代の大腰筋CSA62.5±13.2cm2という報告に対し大差なかった。このことは,腰椎圧迫骨折患者は,大腰筋と比べ多裂筋・脊柱起立筋に形態的変化が生じやすいと考えられた。Pezolatoら(2012)は,これらの筋は姿勢により影響しやすい筋であることを示唆し,本対象患者も受傷前の姿勢が少なからず影響していたことが考えられた。多裂筋・脊柱起立筋の萎縮,脂肪浸潤による筋力低下した状態は,腰椎の分節支持や安定性が不十分となる。そして,骨盤後傾位となりやすく,立位や歩行動作中の静的・動的なバランス能力低下を生じさせる可能性がある。特に,本対象患者の各腰椎MCSAに有意な左右差が認められたため,両側性の制御は困難となり関節保護も十分ではないと考えられた。以上のことから,腰椎圧迫患者には,姿勢改善や運動機能向上のためにも多裂筋・脊柱起立筋の筋力強化,筋再教育は重要と考えられた。本研究では,腰椎圧迫骨折患者の腰部深層筋を検証し障害部位に関係なく多裂筋・脊柱起立筋の脂肪浸潤が認められたが,腰椎圧迫骨折による受傷でどの程度影響しているのかは不明であり今後の課題となった。
【理学療法学研究としての意義】
腰椎圧迫骨折患者における多裂筋・脊柱起立筋の筋萎縮,脂肪浸潤が認められた。関節保護や運動機能向上のためには多裂筋と脊柱起立筋による腰椎安定化能力を高める必要があると考えられ,効果的な運動プログラムの一助となると考えられる。