第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

体幹1

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0955] 胸腰部脊椎疾患術後患者における日常生活活動障害と破局的思考の関連性

大坂祐樹1, 伊藤貴史1,3, 朝重信吾1, 古谷久美子1, 星野雅洋2, 大森圭太2, 五十嵐秀俊2, 鶴田尚志2, 山﨑浩司2 (1.苑田第三病院リハビリテーション科, 2.東京脊椎脊髄病センター, 3.苑田会リハビリテーション病院リハビリテーション科)

キーワード:脊椎疾患術後患者, 破局的思考, ADL

【はじめに,目的】
近年,腰痛疾患患者における心理的問題が大きく取り上げられており,日常生活動作(以下ADL)に影響を及ぼすとされている。心理的問題の中でも痛みの慢性化につながる要因として,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向である破局的思考の重要性が言われている。そして,破局的思考の傾向が強いほど痛みが増強し,ADLにも支障をきたすと指摘されている。破局的思考を評価する代表的な指標として,Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)が知られている。PCSはSullivanらによって作成された評価表で,13項目5段階の質問形式からなり,そこからさらに「反芻」「無力感」「拡大視」の3つの下位尺度に分類される。反芻は痛みのことが頭から離れない状態,無力感は痛みに対して自分では何もできないと信じている状態,拡大視は痛みそのものの強さやそれによって起こりうる問題を現実よりも大きく見積もることである。我々の先行研究では,手術を必要とする胸腰部脊椎疾患においては日常生活活動障害と破局的思考の関連が認められている。当院では脊椎疾患などに対し手術療法が多く施行されているが,術後数ヶ月を経過しても痛みが残存している症例も経験する。しかし手術後数ヶ月経過しても痛みが残存している患者に対し,日常生活活動障害と心理的要因の関連についての報告は散見されない。そこで本研究は,胸腰部脊椎疾患術後患者の心理的要因に着目し,破局的思考とADLの関連性について検討することを目的とした。
【方法】
対象は,2012年1月から2014年7月までに当院にて胸腰椎の手術を行った患者776名の内,術後3ヶ月経過時点で痛みの訴えがあり,評価を行うことが可能であった57名とした。除外基準は,立位・歩行が困難な者,下肢に著明な整形外科的疾患を有している者,神経学的疾患を有している者,質問形式の評価表の理解が困難な者とした。対象者の内訳は,男性28例,女性29例,平均年齢(標準偏差)は62.9(13.1)歳であった。疾患の内訳は,腰部脊柱管狭窄症33例,腰椎椎間板ヘルニア7例,腰椎すべり症6例,圧迫骨折4例,変性後側弯症5例,その他2例であった。術式は,椎体間固定術54例,除圧術2例,椎体形成術1例であった。評価項目はPCS,Oswestry Disability lndex(以下ODI)とし,いずれの評価も自己記入式の質問紙を使用した。なお,ODIは世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法のひとつである。統計解析はPCS総得点およびPCS下位項目の点数とODIの点数との関連をみるためにスペアマンの順位相関係数を用いた。なお統計解析の有意水準は5%とした。
【結果】
PCS総得点の平均値(標準偏差)は22.3(10.5)で,下位項目では反芻6.5(4.1),無力感10.6(4.4),拡大視5.1(3.3)であった。ODIの平均値(標準偏差)は19.7(13.6)であった。統計解析の結果よりそれぞれの関連性は,ODIとPCS(r=0.597,p<0.01),反芻(r=0.609,p<0.01),無力感(r=0.504,p<0.01),拡大視(r=0.544,p<0.01)であり,それぞれに相関を認めた。
【考察】
今回,胸腰部脊椎疾患術後患者において,PCSとODIに相関を認めた。またPCSの下位項目である反芻,無力感,拡大視についてもそれぞれ相関を認め,特に反芻との関連が強いことが確認された。この結果から,胸腰部脊椎疾患では術前後問わず,日常生活活動障害と破局的思考との関連が強く,ADLにも影響を及ぼしていることが示された。反芻とは,物事を長い間繰り返し考えることである。そのため,痛みを引き起こす可能性がある行動や活動を回避するようになる。つまり反芻が高い患者では,活動量の低下が考えられ,機能障害だけでなく能力障害も生じると考えられる。胸腰部脊椎疾患では身体機能への治療介入だけでなく,心理的側面からの治療介入も行うことによって,ADLの維持・向上につながると考えられる。今後の課題として,今回は術後3ヶ月時点でのODIとPCSの関連性を調べたが,今後はより長期的な経過を追い,痛みに対する捉え方の変化を調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
胸腰部脊椎疾患術後患者においても心理的要因の関連が認められたため,身体機能だけでなく心理的要因も考慮し治療介入することによって,ADLの向上につながると考えられる。また,痛みに対する破局的思考を把握することによって,より効率的な介入方法の確立が可能となると考える。