第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

体幹2

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0964] 痛みセンターと連携したリハビリテーションクリニックにおける慢性疼痛患者に対する運動療法の取り組み

鳴尾彰人1, 西上智彦2,3,4, 高橋紀代1, 柴田政彦3,4 (1.篤友会リハビリテーションクリニック, 2.甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科, 3.大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学寄附講座, 4.大阪大学医学部附属病院疼痛医療センター)

キーワード:慢性疼痛, 運動療法, 多職種連携

【はじめに,目的】
これまで,医療機関での慢性疼痛患者の治療は医師主導で行われており,理学療法士の参画は不十分であった。我々は集学的痛みセンターと連携し,運動療法の適応と判断された慢性疼痛患者の紹介をうけ,リハビリテーションクリニックにて運動療法を行う取り組みを始めている。本邦において,このような取り組みの報告はない。今回,この取り組みにおける運動療法の効果を前向きに,ドロップアウト要因については後方視的に分析したので報告する。
【方法】
対象は痛みが6ヵ月以上持続する慢性疼痛患者で,2013年6月から2014年10月に当院を受診した16名(男性5名女性11名,平均年齢49.5±13.9歳)である。これらの症例は痛みセンターにて痛み専門医,理学療法士及び臨床心理士が協同して,過去の診療歴と現在の所見,身体機能,日常生活活動度及び心理社会的因子を評価し,運動療法の適応と判断され,紹介された症例である。当院での運動療法は1回1時間を週に1回,3ヶ月間実施するプログラムを基本に行った。評価項目は,痛みの程度(NRS),疼痛生活障害評価尺度(PDAS),健康関連QOL(EQ-5D),不安抑うつ尺度(HADS),痛みに対する破局的思考(PCS)とし,介入前,3ヶ月後に評価を行った。なお,疼痛部位は頭頚部,背部,腰部,左右上腕・前腕・手,左右大腿・下腿・足の15箇所に分類した。運動療法を3ヶ月完遂した9名については介入前,3ヶ月後での各評価項目をWilcoxon符号順位検定にて比較した。ドロップアウト例については診療録より後方視的に介入期間,ドロップアウト理由を検討した。
運動療法介入は,まずはラポール形成に重点を置き,‘否定を禁忌とし,痛みを理解する姿勢を意識的に示す’関わりを行った。また,3ヶ月間の運動療法のゴールを‘痛みによってできなくなった生活障害の改善’とした。初回評価では身体機能評価に加え,運動により痛みが増悪しない運動プログラム・負荷量を評価し,セルフトレーニングとして提案し,自己決定のもと実施して頂くようにした。週に1回の関わりの中で痛みの変化やADL・IADL変化に対して前向きなフィードバックを行うと共に,セルフトレーニング量の確認と調整を行った。運動プログラムは1)疼痛局所に対するもの2)局所外の様々な運動3)低負荷の全身運動を取り入れるようにし,セラピストが直接触れる徒手的な介入時間を極力減らして行った。施設的関わりとして,来院時間を目標とする生活動作を行う時間に合うように設定し,完全担当制をとり表現の違いによる混乱をきたさないように工夫を行った。
【結果】
3ヶ月間の運動療法によって,痛みの程度及びHADSの抑うつは運動療法前後で有意な差を認めなかったが,HADSの不安,PDAS,EQ-5D,PCSの運動療法後に有意な改善が認められた。ドロップアウトは7名で,介入期間中央値は21日であった。ドロップアウト群と完遂群において年齢平均,男女比,疼痛部位数に有意な差は認められなかった。主訴については完遂群の22%が安静時痛であったのに対し,ドロップアウト群は86%と有意に多かった。ドロップアウトの理由は当施設に対するクレームが2例,通院困難2例,他施設での検査希望1例,不明2例であった。

【考察】
複数の医療機関を経て十分な効果が認められなかった症例においても,痛みセンターと連携して3ヶ月の運動療法を行うことよって,破局的思考,日常生活動作及び健康関連QOLが改善することが示唆された。安静時痛を主訴とする場合,運動療法の目的が‘痛みの改善’に固執してしまい,‘痛みによってできなくなった生活障害の改善’へと痛みの捉え方が変換しにくく,ドロップアウトに至った可能性が考えられる。また,ドロップアウト群の介入期間中央値が21日であったことから,開始初期の関わりが運動療法完遂に重要であり慎重な介入が必要と考えられる。

【理学療法学研究としての意義】
複数の医療機関を経て十分な効果が認められなかった慢性疼痛患者に対して,リハビリテーションクリニックで行った3ヶ月間の運動療法によって日常生活動作や健康関連QOLが改善することを示唆した点。