第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

体幹・歩行・その他

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0967] 脊柱後弯変形を有する高齢者の足圧分布

佐藤大道1,2, 岡田恭司1, 石澤暢浩3, 齊藤明1, 斎藤功1, 柴田和幸1, 高橋裕介1, 安田真理1, 堀岡航1 (1.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法講座, 2.JA秋田厚生連秋田厚生医療センター, 3.藤原記念病院)

Keywords:後弯変形, 歩行, 足圧分布

【はじめに,目的】
臨床上,脊柱後弯変形は高齢者において頻繁に見受けられる。脊柱後弯変形は一般的にバランス能力や転倒率,歩行能力に関連するとされており,高齢者の運動機能に影響を与えている。また,脊柱後弯変形による脊柱アライメントの変化は重心位置と下肢アライメントに影響を及ぼし,その結果として歩行能力や運動機能の低下が起こるとされている。この重心位置と下肢アライメントの変化は歩行時の荷重パターンにも影響を与えていると考えられるが,脊柱後弯変形を有する高齢者の足圧分布についての検証はなされていない。そこで本研究の目的は脊柱後弯変形を有する高齢者の足圧パターンを明らかにし,歩行能力との関連を検討することである。
【方法】
本研究に同意と協力が得られた64名の高齢者を対象とし,Spinal Mouse(Idiag AG,Switzerland)で安静時立位の脊柱全体傾斜角,胸椎後弯角,腰椎前弯角,仙骨傾斜角を計測した。計測の結果から脊柱全体傾斜角が6°を超過したもの,または腰椎前弯角が16°未満のもの42名を後弯群(男性6名,女性36名,年齢78.1±5.8歳,BMI 23.0±3.2)とし,残りの22名を正常群(男性4名,女性18名,年齢75.0±6.4歳,BMI 24.0±3.4)として分類した。なお,両群ともに独歩が不能なもの,歩行時の下肢痛があるもの,脊椎または下肢の手術歴があるもの,顆間距離が2.5横指を超過しているもの,明らかな下肢の関節可動域制限および筋力低下があるものは本研究の対象から除外した。また,インソール型足圧分布計測システム(F-scanII,ニッタ社)を装着した状態で,10m歩行を快適速度で実施し,歩行パラメータとして(1)歩行速度,(2)歩幅を測定し,足圧分布は部位別の%PFP(歩行時の体重に対する足底の荷重比)を算出した。足底面は踵部,足底中央部,前足部,母趾,足趾の5領域に分け,さらに前足部に関しては第1,2中足骨部(Medial Metatarsal:以下MM),第3中足骨部(Central Metatarsal:以下CM),第4,5中足骨部(Lateral Metatarsal:以下LM)の3つに分類した。各測定項目にける正常群と後弯群の比較には対応のないt検定を用い,危険率は5%とした。また,歩行パラメータと部位別%PFPの関係についてはPearsonの相関係数を求め検討した。
【結果】
歩行パラメータは歩行速度(0.8±0.3m/s vs 1.1±0.3 m/s,p<0.001),歩幅(0.4±0.1 m vs0.5±0.1m,p=0.003)は後弯群が正常群に比べ有意に低値であった。部位別の%PFPにおいては,LM%PFP(24.5±11.2% vs 30.1±11.0%,p=0.041),母趾部%PFP(4.4±3.6 vs 15.1±6.4%,p=0.034),足趾部%PFP(4.2±3.2% vs 9.7±5.4%,p=0.036)で後弯群が正常群に比べ有意に低値を示した。MM%PFPでは後弯群が正常群に比べ有意に高値を示した(42.4±14.5% vs 35.2±9.2%,p=0.043)。踵部%PFP,足底中央部%PFP,CM%PFPでは有意差は認められなかった。歩行パラメータと部位別の%PFPとの相関関係では,歩行速度と母趾%PFP(r=0.559,p<0.001),足趾%PFP(r=0.505,p<0.001)で有意な正の相関が認められた。歩幅と母趾%PFP(r=0.517,p<0.001),足趾%PFP(r=0.520,p<0.001)で有意な正の相関が認められた。
【考察】
後弯群では,LM%PFP,母趾部%PFP,足趾部%PFPが有意に低値を示し,MM%PFPが有意に高値を示した。脊柱後弯変形が歩行時の荷重パターンを内側に偏位させ,なおかつ母趾および足趾への荷重減少を生じさせることを示しており,正常とは逸脱した足圧パターンとなっていた。このことから脊柱後弯変形による脊柱アライメントの変化は足部に影響を与えている可能性が考えられる。また,母趾%PFPと足趾%PFPは歩行パラメータとの相関関係が認められたことから,脊柱後弯変形を有する高齢者では歩行時の蹴り出しが減少することを示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
脊柱後弯変形を有する高齢者に対し,歩行能力改善のための理学療法アプローチは四肢や体幹筋の筋力強化のみならず,歩行時の荷重パターンを意識した治療戦略を行うことが必要であると考えられる。また,脊柱後弯変形に起因した足部アライメントの変化を考慮していくことが必要である。