第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

体幹・歩行・その他

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0973] 頸椎回旋位が胸郭形状および胸椎偏位に及ぼす影響

小関泰一1, 平山哲郎1,2, 石塚達也3, 西田直弥4, 小関博久1,5, 石田行知4, 柿崎藤泰4 (1.広尾整形外科, 2.昭和大学大学院医学研究科生理学講座生体調節機能学部門, 3.東京医科大学大学院医学研究科, 4.文京学院大学大学院保健医療科学研究科, 5.東都リハビリテーション学院)

Keywords:頚椎, 胸郭形状, 3次元画像解析装置

【はじめに,目的】
胸郭の配列に関する我々の研究により,その配列に共通点を見出すことができた。その定型的ともいえる胸郭形態が隣接する分節に及ぶ特定の肢位や運動に関しても少しずつ明らかになってきている。臨床上,胸郭形状と頸椎との関係においても法則性のある肢位や運動が観察され,頸椎機能に対する理学療法においてその中枢にある胸郭の形態を指標とし,評価治療を進めており,よりよい結果を引き出すことに成功している。そこで今回は,頸椎と胸郭間の関係を明らかにするために頸椎肢位の中でも頸椎回旋位に着目し水平面上の胸郭形状とそれに関与する胸椎偏位に及ぼす影響について3次元画像解析装置を用いて検討することを目的とした。
【方法】
対象は,呼吸器疾患や脊柱疾患,胸部疾患の既往がない成人男性11名(平均年齢27.3±3.2歳)とした。本研究では,頸椎回旋位における胸郭形状変化および胸椎偏位を明らかにするために安静位,頸椎右回旋位,頸椎左回旋位の3肢位を課題肢位とした。測定肢位は座位とし,呼吸による影響を除外するため安静呼気位にて2秒間静止させた。また,課題肢位は体幹が動揺しない範囲で可能な限り最大域まで行うよう指示した。胸郭形状の計測には,デジタルカメラ(D5100,AF-SDX200mNikon 18-55mm f/3.5-5.6G ED II,Nikon社)8台を使用し,4方向から撮影した。撮影した画像データから胸郭形状を再現するために,3次元画像解析装置3DイメージメジャラーQM-3000(トプコンテクノハウス社)を用いた。3次元化データより各課題肢位における上部胸郭(第3胸肋関節レベル)および下部胸郭(剣状突起レベル)の形状を定量化するにあたり,各課題肢位における上部胸郭および下部胸郭の左右の水平断面積を求めた。なお,個人間における体形差の影響を考慮するために,左右断面積の和を100%とし各々の割合を断面積の値として算出した。胸椎偏位は,上部胸郭(第3胸肋関節)レベルの水平線で脊柱との交点に指標点を設け,両PSIS間の中点からの垂直線を正中線と規定し,その正中線から指標点までの側方距離を胸椎偏位量として算出した。統計は,頸椎右回旋位と頸椎左回旋位における左右胸郭断面積差および胸椎偏位の算出データを安静位からの変化量として算出し,Wilcoxon符号付順位検定を用いて比較検討した。解析にはSPSS 18J(IBM社)を使用し,有意確率は5%未満とした。
【結果】
上部胸郭および下部胸郭の左右断面積差において,頸椎右回旋位と頸椎左回旋位の安静位からの変化率に有意差がみられ(p<0.01),頸椎右回旋位で増大を示し,頸椎左回旋位で減少を示した。胸椎偏位においては頸椎右回旋位では有意に左側へ偏位し,頸椎左回旋位では有意に右側へ偏位した(p<0.01)。
【考察】
本研究により,安静位での定型的な胸郭形態の存在が明らかになった。頸椎右回旋位では,胸椎が安静位に比べ左側へ分節的に偏位することが示された。その連鎖により,頸椎右回旋位では胸椎左偏位に伴い右側肋骨の前方回旋,左側肋骨の後方回旋が増大し,胸郭形状の非対称性が増大したものと考えられる。一方,頸椎左回旋位では,胸椎が右側へ分節的に偏位することで,安静位に比べ偏位が減少し胸椎の配列が正中化する。よって,右側肋骨の後方回旋化,左側肋骨の前方回旋化により胸郭形状が対称化したものと考えられる。左右の頸椎回旋位において異なる胸郭形状を示したことは,安静位の定型的な胸郭形状により引き起こされたものと考えられる。以上のことから,理学療法において頸椎から介入する場合,これらを考慮し頸椎局所のみならず胸郭を含めた包括的な展開が必要性であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
臨床上,定型的な胸郭形状は,隣接する分節において特定の肢位や運動をもたらすことを経験する。これらの法則性を明らかにすることは運動器疾患における病態や機能低下などを把握する一助となり,理学療法を展開する上で意義のあるものと考えている。本研究では,頸椎と胸郭の間に特定の法則性を見出すことができた。これらの運動学的知見により,頸椎機能に対する理学療法では,頸椎局所のみならず中枢に存在する胸郭形態にも着目し,治療展開する必要性があると考えられる。