第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人工膝関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0987] 人工膝関節置換術施行患者における早期退院時の歩行安定性

歩行変動を指標とした検討

飛山義憲1,2, 和田治1, 川添大樹1, 中北智士1, 浅井剛3 (1.あんしん病院リハビリテーション科, 2.神戸大学大学院人間発達環境学研究科, 3.神戸学院大学総合リハビリテーション科)

Keywords:人工膝関節置換術, 早期退院, 歩行安定性

【はじめに,目的】
近年わが国では,医療費の伸びを抑制するため在院日数の短縮化が求められている。しかし,人工膝関節置換術の平均在院日数は約35日と,諸外国の1週間前後との報告に比べると非常に長い。そのため,わが国においても在院日数を短縮させる試みが必要であるが,短縮された入院期間の中で,術前と同程度の歩行の安定性を獲得できているかは明らかではない。そこで本研究では,歩行安定性の指標として広く用いられている歩行周期時間の変動係数を用い,人工膝関節置換術施行患者における早期退院時の歩行安定性について検討を行った。
【方法】
対象は変形性膝関節症を原疾患とし,初回人工膝関節置換術を施行する患者40名(TKA群,男性8名,女性32名,年齢64.6±4.6歳,身長153.6±9.2cm,体重63.7±9.7kg),同年代の健常女性10名(コントロール群,年齢63.6±2.9歳,身長159.8±4.5cm,体重54.3±3.2kg)とした。
TKA群は手術1ヶ月前および退院前日である術後4日目に歩行計測および運動機能評価(膝関節可動域,膝関節伸展筋力,Timed Up & Go test)を行った。歩行計測では,術側下肢の踵にワイヤレス3軸加速度計を固定し,加速路と減速路を3mずつ設けた16mの歩行中の加速度データを測定し,得られた加速度データから歩行周期時間の変動係数(CV)を求めた。CVは値が大きいほど歩行周期時間のばらつきが大きく,歩行が不安定であることを示す。TKA群は,術前は歩行補助具を用いず退院時の歩行が杖歩行であったことから術後の評価には杖を用いた。なお,歩行速度は快適速度とし,歩行時の疼痛をNumeric Rating Scaleを用い聴取した。一方,コントロール群では歩行計測および運動機能評価は一回のみとした。歩行計測では,右踵に加速度計を固定して,快適速度,遅歩,さらに遅い最大遅歩の3条件についてTKA群と同様の歩行計測を実施し,得られた加速度データからCV値を求めた。
なお,TKA群は術翌日から歩行器を用い,全荷重を許可した歩行練習を開始した。術後2日目から杖歩行練習を開始,術後3日目に杖歩行自立,術後4日目に階段昇降自立とし,杖歩行自立,階段昇降自立を退院時の目標に設定し,術後5日目での退院を目指した。
統計学的解析として,Shapiro-Wilk検定によりデータの正規性を確認し,Studentのt検定により,TKA群の属性,術前におけるCVおよび運動機能をコントロール群と比較した。次に,対応のあるt検定を用いTKA群のCVおよび運動機能,歩行時痛の術前後の比較を行った。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
TKA群の術前におけるCVはコントロール群の快適歩行,遅歩,最大遅歩のいずれと比較しても有意に大きな値を示し(p<0.001),運動機能はいずれもコントロール群に比べ有意な低下を示した(p<0.01)。次にTKA群における術前後での比較では,CVは有意な差を認めなかったが(p=0.98),膝関節屈曲可動域,膝関節伸展筋力,歩行速度,TUGはいずれも退院前日に有意な低下を認め(p<0.01),膝関節伸展可動域,歩行時痛に関しては退院前日に有意な改善を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果より,TKA群の術前後のCVは有意差がなく,早期退院時においても術前と同程度の歩行安定性が獲得されていることが示された。術後早期には先行研究と同様に運動機能の低下が生じ,これに伴い歩行周期時間の変動が増大すると推測された。しかし実際には有意な変化は見られず,運動機能の低下によって生じる歩行の不安定性を回避している可能性や,術前よりも歩行時痛が軽減したことが術後の歩行安定性に寄与している可能性が考えられた。しかしながらコントロール群に比べるとTKA群のCVは大きく,早期退院時には術前と同程度の歩行安定性が獲得されているものの,健常者に比べると転倒リスクは高い状態であると考えられ,転倒に対する十分な注意,指導が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
近年,人工膝関節置換術においても在院日数の短縮化が進む中,早期退院時の歩行の安定性に関して検討した報告はなかった。本研究は早期退院時の杖歩行においても術前と同程度の歩行安定性が獲得されていることを明らかにし,今後の在院日数短縮に向けて,歩行安定性という観点からその安全性を示した価値ある研究である。