[P3-C-0993] 右膝外側に疼痛のある症例を通して,内在する運動機能障害を抽出しアプローチした一例
キーワード:変形性膝関節症, 疼痛, 運動機能障害
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)は,膝関節に加わる外力により直接的軟骨基質障害と軟骨細胞の代謝変化を引き起こし,関節破壊に至る関節疾患であると定義されている。また,近年の研究で神経筋機能の問題,膝関節運動学的異常や生化学的変化が複雑に絡み合い病態が進行することが明らかとなっている。膝OAに対する理学療法は,膝関節の運動学的異常を引き起こす神経筋機能異常,脛骨と大腿骨の運動学的異常に着目し実施することが重要であると考える。
右人工股関節置換術後に当院へ入院となった右変形性膝関節症を呈する70歳代女性の症例を通して,本症例の右膝外側の疼痛の原因となる運動機能障害を抽出し,必要となる運動療法を考察し実施したものを報告する。
【症例提示】
症状の明確化を行うために進めた問診から症例の現在の健康状態は,階段降段時に限定して右膝外側に鋭い疼痛が存在し自宅退院が不安とのことであった。X線所見ではKellgren-Lawrence分類ステージIIIを示し,下肢アライメントは外反傾向を呈していた。安静時痛と夜間痛はなく,圧痛は外側膝蓋支帯と外側膝蓋下脂肪体を中心に生じ,膝蓋骨を外側に動かすと疼痛が再現された。簡易型McGill痛みの質問票では疼痛の感情的側面を示す項目はチェックされていなかった。
【理学療法評価結果】
疼痛を引き起こす可能性のある構成体と組織から,左下肢から先行した階段降段時に膝蓋骨の滑走障害が起こり,外側膝蓋支帯と外側膝蓋下脂肪体が伸長され侵害受容性疼痛が出現しているという仮説を立てた。本症例にみられる疼痛は,右大腿四頭筋の遠心性収縮が要求される右片脚立位時に生じていることから,静止立位時の各肢節と体節の配列を基準とし,階段降段時に膝蓋骨の滑走障害が行っているかを確認するため右片脚立位の動作分析を行った。静止立位は,腰椎:後弯,骨盤:前傾,股関節:屈曲,内転。内旋,膝蓋骨:軽度外側変位,膝関節:屈曲,脛骨:外旋,後足部:背屈,回内,外転であり,右片脚立位は,腰椎:後弯,骨盤:前傾,右側方変位,股関節:屈曲,内転。内旋,膝蓋骨:外側変位,膝関節:屈曲,脛骨:外旋,後足部:背屈,回内,外転であった。右片脚立位における運動連鎖から逸脱した異常運動は骨盤の右側方変位と股関節内転,内旋であり,右片脚立位時に降段時と同様の疼痛を認めた。また,階段降段時と右片脚立位時に他動的に骨盤の右側方変位と股関節内転,内旋を制御することで疼痛の軽減が図れた。
【考察】
以上の結果から,階段降段時に,膝蓋大腿関節の問題と骨盤,右股関節のコントロール不良による問題により膝蓋骨滑走障害が生じ,外側膝蓋支帯と外側膝蓋下脂肪体が伸長され侵害受容性疼痛が出現していると考えた。
右膝蓋大腿関節の問題として,膝蓋骨の内側方向への可動性低下を認めており,外側膝蓋支帯と遠位腸脛靭帯の伸張性低下,大腿筋膜張筋,ハムストリングスの筋緊張亢進,内側広筋の筋委縮と筋力低下を考えた。骨盤と右股関節のコントロールの問題として,右股関節伸展の可動域制限を認めており,大腿筋膜張筋,ハムストリングスの筋緊張亢進,大殿筋,中殿筋後部繊維の筋力低下と収縮不全を考えた。以上の運動機能障害に対し運動療法を実施した。大腿筋膜張筋,遠位腸脛靭帯を中心とした大腿外側組織の伸張性低下を改善し,内側広筋の筋力強化を図り,膝蓋骨を外側へ牽引させるストレスを軽減した。動作観察の結果から右片脚立位時の骨盤側方移動による骨盤と股関節のコントロール不良が右膝外側の痛みに影響を及ぼしていることが考えられたため,膝関節自体へのアプローチよりも股関節の機能障害に対するアプローチを中心に実施した。右上側臥位にて大腿筋膜張筋の筋緊張を緩めながら右股関節伸展と外旋の可動域を改善し,中殿筋後部線維の求心性収縮を促したあと,立位にて中殿筋後部線維の遠心性収縮を促しながら右股関節伸展,外旋コントロールを促した。
運動療法を継続的に1週間実施した後は,右片脚立位時の骨盤側方移動と股関節内転,内旋の異常運動は消失し,階段降段時の右膝外側の痛みはなく,T字杖を使用し1足1段で可能となった。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法評価から運動機能障害を特定し,患者の状態に応じて理学療法を提供することが理学療法士としての職能である。治療効果を,再評価を通して判定していくことの繰り返しが,臨床技能を向上させる一助となることが考えられた。
変形性膝関節症(以下,膝OA)は,膝関節に加わる外力により直接的軟骨基質障害と軟骨細胞の代謝変化を引き起こし,関節破壊に至る関節疾患であると定義されている。また,近年の研究で神経筋機能の問題,膝関節運動学的異常や生化学的変化が複雑に絡み合い病態が進行することが明らかとなっている。膝OAに対する理学療法は,膝関節の運動学的異常を引き起こす神経筋機能異常,脛骨と大腿骨の運動学的異常に着目し実施することが重要であると考える。
右人工股関節置換術後に当院へ入院となった右変形性膝関節症を呈する70歳代女性の症例を通して,本症例の右膝外側の疼痛の原因となる運動機能障害を抽出し,必要となる運動療法を考察し実施したものを報告する。
【症例提示】
症状の明確化を行うために進めた問診から症例の現在の健康状態は,階段降段時に限定して右膝外側に鋭い疼痛が存在し自宅退院が不安とのことであった。X線所見ではKellgren-Lawrence分類ステージIIIを示し,下肢アライメントは外反傾向を呈していた。安静時痛と夜間痛はなく,圧痛は外側膝蓋支帯と外側膝蓋下脂肪体を中心に生じ,膝蓋骨を外側に動かすと疼痛が再現された。簡易型McGill痛みの質問票では疼痛の感情的側面を示す項目はチェックされていなかった。
【理学療法評価結果】
疼痛を引き起こす可能性のある構成体と組織から,左下肢から先行した階段降段時に膝蓋骨の滑走障害が起こり,外側膝蓋支帯と外側膝蓋下脂肪体が伸長され侵害受容性疼痛が出現しているという仮説を立てた。本症例にみられる疼痛は,右大腿四頭筋の遠心性収縮が要求される右片脚立位時に生じていることから,静止立位時の各肢節と体節の配列を基準とし,階段降段時に膝蓋骨の滑走障害が行っているかを確認するため右片脚立位の動作分析を行った。静止立位は,腰椎:後弯,骨盤:前傾,股関節:屈曲,内転。内旋,膝蓋骨:軽度外側変位,膝関節:屈曲,脛骨:外旋,後足部:背屈,回内,外転であり,右片脚立位は,腰椎:後弯,骨盤:前傾,右側方変位,股関節:屈曲,内転。内旋,膝蓋骨:外側変位,膝関節:屈曲,脛骨:外旋,後足部:背屈,回内,外転であった。右片脚立位における運動連鎖から逸脱した異常運動は骨盤の右側方変位と股関節内転,内旋であり,右片脚立位時に降段時と同様の疼痛を認めた。また,階段降段時と右片脚立位時に他動的に骨盤の右側方変位と股関節内転,内旋を制御することで疼痛の軽減が図れた。
【考察】
以上の結果から,階段降段時に,膝蓋大腿関節の問題と骨盤,右股関節のコントロール不良による問題により膝蓋骨滑走障害が生じ,外側膝蓋支帯と外側膝蓋下脂肪体が伸長され侵害受容性疼痛が出現していると考えた。
右膝蓋大腿関節の問題として,膝蓋骨の内側方向への可動性低下を認めており,外側膝蓋支帯と遠位腸脛靭帯の伸張性低下,大腿筋膜張筋,ハムストリングスの筋緊張亢進,内側広筋の筋委縮と筋力低下を考えた。骨盤と右股関節のコントロールの問題として,右股関節伸展の可動域制限を認めており,大腿筋膜張筋,ハムストリングスの筋緊張亢進,大殿筋,中殿筋後部繊維の筋力低下と収縮不全を考えた。以上の運動機能障害に対し運動療法を実施した。大腿筋膜張筋,遠位腸脛靭帯を中心とした大腿外側組織の伸張性低下を改善し,内側広筋の筋力強化を図り,膝蓋骨を外側へ牽引させるストレスを軽減した。動作観察の結果から右片脚立位時の骨盤側方移動による骨盤と股関節のコントロール不良が右膝外側の痛みに影響を及ぼしていることが考えられたため,膝関節自体へのアプローチよりも股関節の機能障害に対するアプローチを中心に実施した。右上側臥位にて大腿筋膜張筋の筋緊張を緩めながら右股関節伸展と外旋の可動域を改善し,中殿筋後部線維の求心性収縮を促したあと,立位にて中殿筋後部線維の遠心性収縮を促しながら右股関節伸展,外旋コントロールを促した。
運動療法を継続的に1週間実施した後は,右片脚立位時の骨盤側方移動と股関節内転,内旋の異常運動は消失し,階段降段時の右膝外側の痛みはなく,T字杖を使用し1足1段で可能となった。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法評価から運動機能障害を特定し,患者の状態に応じて理学療法を提供することが理学療法士としての職能である。治療効果を,再評価を通して判定していくことの繰り返しが,臨床技能を向上させる一助となることが考えられた。