第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

股関節・膝関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0996] 大腿骨遠位部骨折における術後早期理学療法の重要性

奥野友和, 井田真一郎, 高橋勇輝, 渡邉学 (大阪府立急性期・総合医療センター)

Keywords:大腿骨遠位部骨折, 術後理学療法, 膝関節屈曲角度

【はじめに,目的】大腿骨遠位部(顆部・顆上)骨折は重篤な膝関節屈曲制限を呈するとの報告が多い。我々が第48回日本理学療法学術大会で報告した結果においても,大腿骨遠位部骨折術後の最終膝関節屈曲角度は平均101.3±7.4度と成績は不良であった。また我々は早期に膝関節屈曲90度を超えることが,最終膝関節屈曲角度に関与する可能性を示した。上記のことを踏まえ,今回我々は大腿骨遠位部骨折症例に対し,手術当日から積極的な理学療法を実施した。その結果,膝関節屈曲90度を超えるまでの期間を短縮でき,最終膝関節屈曲角度も向上する結果が得られたので報告する。

【方法】対象は平成25年9月から平成26年8月までに当院に救急搬送された大腿骨遠位部骨折3例(男性3名,平均58.3±17.2歳)とした。各症例は診断名,AOの系統的骨折分類の順に,症例A:左大腿骨遠位部開放骨折,33-A2,症例B:右大腿骨遠位部開放骨折,33-C2,症例C:右大腿骨遠位部骨折,33-C2であった。方法は手術直後鎮静下(第1病日)より,膝関節に対して関節可動域運動(以下:ROM-ex)を実施した。また術後第2病日から膝関節屈曲90度を超えるまでの期間は,通常より1から2単位程度多くの時間をかけて積極的なROM-exを実施した。測定は手術直後鎮静下,膝関節屈曲90度を超えるまでの毎日について膝関節屈曲角度を測定した。膝関節屈曲90度を超えてからは退院まで毎週1回膝関節屈曲角度を測定し,4週間以上停滞した角度を最終膝関節屈曲角度とした。測定肢位は日本整形外科学会制定のものに準じた。

【結果】手術直後鎮静下の膝関節屈曲角度は症例A:115度,症例B:130度,症例C:110度,平均118.3±8.5度であった。第2病日は手術直後の鎮静下より角度は増悪し,膝関節屈曲角度は症例A:70度,症例B:70度,症例C:90度,平均76.7±9.4度であった。その後,膝関節屈曲90度を超えた病日は症例A:第17病日,症例B:第8病日,症例C:第12病日,平均12.3±3.7病日であった。最終膝関節屈曲角度とそれに達した病日は症例A:135度,第63病日,症例B:145度,第21病日,症例C:120度,第77病日,平均133.3±10.3度,53.7±23.8病日であった。

【考察】骨折後の関節拘縮は固定開始直後から始まることが報告されている。我々の先行研究においても,受傷から術日までの期間にすでに膝関節屈曲可動域制限が存在していることを示した。また浅野らは3週間で骨折後の瘢痕は成熟すると報告しており,より早期に角度を改善することが必要となる。さらに鎌田らは膝関節屈曲90度が最も軟部組織の伸張性が必要となると報告している。以上のことから,大腿骨遠位部骨折では瘢痕が成熟する3週間以内に,最も軟部組織の伸張性が必要となる膝関節屈曲90度を超えることが重要だと言える。今回の結果で膝関節屈曲90度を超えるまでに要した期間は平均12.3±3.7日であり,前回の我々の報告(平均60.7±8.7日)を大幅に短縮する結果となった。今回は手術当日の術後鎮静下でROM-exを実施し,第1病日中に平均118.3±8.5度の膝関節屈曲角度を獲得した。手術当日の鎮静下でのROM-exによって,術日までに存在した膝関節屈曲制限を除去できたことが,膝関節屈曲90度を超えるまでの期間を短縮する要因になったのではないかと考えられる。また橋本らは大腿骨骨折症例に対し膝関節屈曲90度前後の軟部組織の伸張性を獲得することで,その後順調に角度が改善したことを報告している。我々は先行研究において,膝関節屈曲90度前後で角度の停滞があったことを報告している。今回も同様に第2病日以降は,1日のROM-ex直後に膝関節屈曲90度付近までの角度が獲得されても,翌日には角度が低下することを繰り返す停滞期が存在した。この停滞期には骨折部周辺の軟部組織に対して十分時間をかけて伸張性を引き出したことも,膝関節屈曲90度を超えるまでの期間を短縮させる要因であったと考えている。膝関節屈曲90度を超えると,その後の角度は停滞することはなく,最終膝関節屈曲角度は平均133.3±10.3度と先行研究の平均101.3±7.4度を大きく上回る結果を得た。手術当日の鎮静下でのROM-exと停滞期の積極的なROM-exが,より早期に膝関節屈曲90度を超えることを支援し,さらには最終膝関節屈曲角度の向上に繋がったのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究は大腿骨遠位部骨折術後の,手術直後鎮静下からの積極的なROM-exの重要性を示した報告である。この結果は,大腿骨遠位部骨折術後のより効果的な理学療法実施のための有益な情報であると言える。