[P3-C-0999] 大腿骨近位部骨折患者の退院時ADLについて
受傷前ADLとの比較
キーワード:大腿骨近位部骨折, 受傷前ADL, 退院時ADL
【はじめに】大腿骨近位部骨折(以下,近位部骨折)は高齢者に好発する代表的な疾患であり,受傷後の理学療法ではADL向上が求められる。しかし,リハビリテーション終了後退院時に住宅改修や介護サービスの導入,動作方法の変更などが必要となることも多い。現在まで受傷前と退院時の歩行能力の比較についての報告はあるが,その他のADLについて比較した報告は少ない。そこで,受傷前と退院時のADLについて調査し比較検討した。
【方法】2014年1月から6月までの間に当院回復期リハビリテーション病棟に入院した近位部骨折患者52名の内,自宅退院した患者43名を対象に後ろ向き調査を実施。大腿骨頚部骨折20名(人工骨頭置換術19名,ハンソンピン1名),大腿骨転子部・転子下骨折23名(骨接合術22名,保存療法1名)。男性8名,女性35名,平均年齢は81.5±8.3歳。ADL評価にはBarthel Index(以下,BI)を用い,受傷前ADLについては担当理学療法士が介入時に患者・家族からの聞き取った内容をBIで評価した。また,BIの各項目で補助具の使用の有無や介護サービスの利用についても調査した。統計処理にはt検定を用いた。
【結果】急性期病院での手術日(保存療法患者は受傷日)から,当院入院までの期間は平均22.1±9.1日,在院日数は平均59.0±16.0日であった。受傷前BIの平均は90.1±15.0点,退院時BIは87.2±13.0点と低下しており,有意差を認めた(P<0.05)。各項目の結果で退院時のBIの点数が低下し有意差を認めた項目は,入浴動作(P<0.01),階段昇降(P<0.05),更衣動作(P<0.05)であった。入浴動作は退院時には自立困難で通所サービスを利用した症例が多く,階段昇降は「自立」が「介助または監視」へ,更衣動作に関しては「自立」が「部分介助または時間がかかる」へ低下している症例が多かった。歩行に関しては,有意差は認められなかったが,独歩から杖使用や伝い歩き,シルバーカー使用になるなど介助物の変更が必要になった症例が多く認められた。
【考察】近位部骨折患者において受傷前ADLと退院時ADLを比較した結果,BIは低下し,特に入浴動作,階段昇降,更衣動作で低下することがわかった。歩行に関しては,BIの点数に有意差は認められなかったが,介助物が必要になるなどの結果となった。先行研究において,受傷前の歩行能力が高く認知症のない症例においては術後も歩行能力が高く維持されると報告されている。今回の症例では,受傷前の歩行のBIが「自立」であった症例が多く,退院時に比較的歩行能力の維持ができたと考えられる。近位部骨折患者において,術後関節可動域制限や筋力低下が残存する症例は少なくない。今回,BIの低下が認められた入浴動作と更衣動作に関しては股関節を含む下肢の関節可動域が大きく影響する動作であり,階段昇降に関しては歩行以上の筋力が求められる動作である。これらの動作を受傷前の能力にまで改善させるためには下肢関節可動域,筋力についても調査していくことが重要であると考えられ,今後の課題である。また,独居や老老介護の世帯が多く,介助が困難な症例もある。このような例でのADL低下は外出の機会の減少や認知症の進行などにも影響する。また,近位部骨折患者の再転倒率は高く,ADL向上は再転倒予防にもつながると考える。ADL向上とQOL向上のために歩行などの移動動作だけではなく,今回低下を認めた入浴動作,階段昇降,更衣動作それぞれに影響を与える因子を検討していく必要がある。今回の調査の中で,受傷前ADLより退院時ADLでBIが向上した症例があり,骨折後入院するも合併疾患の改善したためリハビリテーションで活動量が向上したことにより,受傷前に実施できなかった動作を獲得することができていた。患者の既往歴や合併症,生活歴に応じた理学療法が必要であり,効果があることを経験することもできた。
【理学療法学研究としての意義】今回,近位部骨折患者の受傷前ADLと退院時ADLについて比較を行った。入浴動作,階段昇降,更衣動作において退院時にADLが低下することが示された。それぞれの動作において,影響を与える因子を検討することにより,問題点を明らかにすることが必要と考えられる。それらの問題点に対し理学療法を実施することで,ADL向上でき,患者のQOL向上につながると考えられる。今回の結果を踏まえて,関節可動域,筋力を含めたデータを収集中である。さらに当院作業療法士とともに,入浴動作と関節可動域の関係について検討中である。今後はそれぞれの動作と下肢関節可動域,筋力にも着目し検討していき報告したい。
【方法】2014年1月から6月までの間に当院回復期リハビリテーション病棟に入院した近位部骨折患者52名の内,自宅退院した患者43名を対象に後ろ向き調査を実施。大腿骨頚部骨折20名(人工骨頭置換術19名,ハンソンピン1名),大腿骨転子部・転子下骨折23名(骨接合術22名,保存療法1名)。男性8名,女性35名,平均年齢は81.5±8.3歳。ADL評価にはBarthel Index(以下,BI)を用い,受傷前ADLについては担当理学療法士が介入時に患者・家族からの聞き取った内容をBIで評価した。また,BIの各項目で補助具の使用の有無や介護サービスの利用についても調査した。統計処理にはt検定を用いた。
【結果】急性期病院での手術日(保存療法患者は受傷日)から,当院入院までの期間は平均22.1±9.1日,在院日数は平均59.0±16.0日であった。受傷前BIの平均は90.1±15.0点,退院時BIは87.2±13.0点と低下しており,有意差を認めた(P<0.05)。各項目の結果で退院時のBIの点数が低下し有意差を認めた項目は,入浴動作(P<0.01),階段昇降(P<0.05),更衣動作(P<0.05)であった。入浴動作は退院時には自立困難で通所サービスを利用した症例が多く,階段昇降は「自立」が「介助または監視」へ,更衣動作に関しては「自立」が「部分介助または時間がかかる」へ低下している症例が多かった。歩行に関しては,有意差は認められなかったが,独歩から杖使用や伝い歩き,シルバーカー使用になるなど介助物の変更が必要になった症例が多く認められた。
【考察】近位部骨折患者において受傷前ADLと退院時ADLを比較した結果,BIは低下し,特に入浴動作,階段昇降,更衣動作で低下することがわかった。歩行に関しては,BIの点数に有意差は認められなかったが,介助物が必要になるなどの結果となった。先行研究において,受傷前の歩行能力が高く認知症のない症例においては術後も歩行能力が高く維持されると報告されている。今回の症例では,受傷前の歩行のBIが「自立」であった症例が多く,退院時に比較的歩行能力の維持ができたと考えられる。近位部骨折患者において,術後関節可動域制限や筋力低下が残存する症例は少なくない。今回,BIの低下が認められた入浴動作と更衣動作に関しては股関節を含む下肢の関節可動域が大きく影響する動作であり,階段昇降に関しては歩行以上の筋力が求められる動作である。これらの動作を受傷前の能力にまで改善させるためには下肢関節可動域,筋力についても調査していくことが重要であると考えられ,今後の課題である。また,独居や老老介護の世帯が多く,介助が困難な症例もある。このような例でのADL低下は外出の機会の減少や認知症の進行などにも影響する。また,近位部骨折患者の再転倒率は高く,ADL向上は再転倒予防にもつながると考える。ADL向上とQOL向上のために歩行などの移動動作だけではなく,今回低下を認めた入浴動作,階段昇降,更衣動作それぞれに影響を与える因子を検討していく必要がある。今回の調査の中で,受傷前ADLより退院時ADLでBIが向上した症例があり,骨折後入院するも合併疾患の改善したためリハビリテーションで活動量が向上したことにより,受傷前に実施できなかった動作を獲得することができていた。患者の既往歴や合併症,生活歴に応じた理学療法が必要であり,効果があることを経験することもできた。
【理学療法学研究としての意義】今回,近位部骨折患者の受傷前ADLと退院時ADLについて比較を行った。入浴動作,階段昇降,更衣動作において退院時にADLが低下することが示された。それぞれの動作において,影響を与える因子を検討することにより,問題点を明らかにすることが必要と考えられる。それらの問題点に対し理学療法を実施することで,ADL向上でき,患者のQOL向上につながると考えられる。今回の結果を踏まえて,関節可動域,筋力を含めたデータを収集中である。さらに当院作業療法士とともに,入浴動作と関節可動域の関係について検討中である。今後はそれぞれの動作と下肢関節可動域,筋力にも着目し検討していき報告したい。