[P3-C-1005] 認知症に伴う攻撃性が大腿骨近位部骨折術後理学療法の機能予後に及ぼす影響
Keywords:大腿骨近位部骨折, 認知症, 予後
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折は高齢者に多い疾患のため,術後の理学療法において,認知症を合併している症例に遭遇することは少なくない。認知症には,認知機能障害に加え,抑うつや攻撃性などの行動心理学的症候(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia,以下BPSD)を伴うことが多い。攻撃性や抑うつは理学療法の拒否につながり,支障となることをしばしば経験する。従来のBPSDが大腿骨近位部骨折術後の理学療法に及ぼす影響を検討した研究では,抑うつが機能予後を低下させるとする報告が多いが,暴言や暴力といった攻撃性について検討した報告は見当たらない。今回,われわれは,大腿骨近位部骨折術後のリハビリテーション目的で回復期リハビリテーション病棟へ入院した認知症患者を対象にして,攻撃性の有無が理学療法による機能予後に及ぼす影響を検討したので報告する。
【方法】
対象は,大腿骨近位部骨折術後にA病院の回復期リハビリテーション病棟へX年4月からX+3年3月まで入院した96例のうち,死亡退院や途中で転院した患者を除き,以下の組入基準を満たした42例である。組入基準は入院時Mini Mental State Examination(以下MMSE)23点以下,重篤な合併症なし,受傷前の歩行の自立とした。なお,本研究では入院時MMSEが23点以下を認知症ありとした。対象の内訳は,男性/女性が13/29例,平均年齢は84.9±5.9歳(75~96歳),診断名は,大腿骨頸部骨折/大腿骨転子部骨折が10/32例で,頸部骨折の患者は全例人工骨頭置換術を,転子部骨折の患者は全例骨接合術を施行されていた。平均入院日数は83.1±14.0日(35~126日),受傷前の歩行能力は補助具なし/一本杖が37/5例であった。攻撃性の評価は,BPSDの重症度と頻度を点数化して評価するBehavioral Pathology in Alzheimer’s Disease Frequency Weighted Severity Scaleの攻撃性の項目を用いて入院2週目に行い,点数が1点以上を攻撃性ありとした。ADLは入院時と退院時にFunctional Independence Measureの運動項目(以下mFIM)により評価し,mFIM利得(退院時mFIM-入院時mFIM)を算出した。本研究では,対象を攻撃性なし群とあり群との2群に分け,MMSE,mFIM利得を比較した。さらに,認知機能の重症度で軽度(MMSE 19~23点),中等度(10~18点),重度認知症群(9点以下)の3群に分け,各群における攻撃性なし群とあり群についても同様に比較した。統計手法はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
攻撃性は15例で認め,27例に認めなかった。攻撃性あり群は攻撃性なし群より,MMSE(攻撃性なし群:16.4±5.5,攻撃性あり群:9.1±5.3,p<0.01),mFIM利得(攻撃性なし群:17.6±8.7,攻撃性あり群:11.2±11.2,p<0.05)のいずれも有意に低値であった。認知症重症度で分類すると,軽度は15例,中等度は24例,重度は6例であった。攻撃性は軽度認知症群の全例で認めず,重度認知症群では4例に攻撃性を認めた。中等度認知症群では攻撃性なし群が13例,攻撃性あり群は11例であった。中等度認知症群において,MMSEは攻撃性なし群とあり群との間で有意差はなかったが(攻撃性なし群:14.5±2.9,攻撃性あり群:12.0±1.84),mFIM利得は攻撃性あり群の方がなし群よりも有意に低かった(攻撃性なし群:19.7±9.8,攻撃性あり群:12.6±12.0,p<0.05)。
【考察】
本研究により,大腿骨近位部骨折術後の認知症患者において,BPSDの一つである攻撃性を有する症例では機能予後が不良となることが示唆された。特に中等度認知症合併例では,攻撃性は認知機能の重症度とは独立して機能改善を妨げる因子であると考えられた。大腿骨近位部骨折術後の認知症合併例に対して理学療法を行う際には,認知機能だけでなく,BPSDに関する詳細な評価,特に攻撃性の評価は,予後予測に有用な評価の一つである可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨近位部骨折術後の認知症合併例に対して理学療法を行う際に,攻撃性を含めたBPSDの詳細な評価は,機能予後予測や介入方法の検討に役立つと考えられる。
大腿骨近位部骨折は高齢者に多い疾患のため,術後の理学療法において,認知症を合併している症例に遭遇することは少なくない。認知症には,認知機能障害に加え,抑うつや攻撃性などの行動心理学的症候(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia,以下BPSD)を伴うことが多い。攻撃性や抑うつは理学療法の拒否につながり,支障となることをしばしば経験する。従来のBPSDが大腿骨近位部骨折術後の理学療法に及ぼす影響を検討した研究では,抑うつが機能予後を低下させるとする報告が多いが,暴言や暴力といった攻撃性について検討した報告は見当たらない。今回,われわれは,大腿骨近位部骨折術後のリハビリテーション目的で回復期リハビリテーション病棟へ入院した認知症患者を対象にして,攻撃性の有無が理学療法による機能予後に及ぼす影響を検討したので報告する。
【方法】
対象は,大腿骨近位部骨折術後にA病院の回復期リハビリテーション病棟へX年4月からX+3年3月まで入院した96例のうち,死亡退院や途中で転院した患者を除き,以下の組入基準を満たした42例である。組入基準は入院時Mini Mental State Examination(以下MMSE)23点以下,重篤な合併症なし,受傷前の歩行の自立とした。なお,本研究では入院時MMSEが23点以下を認知症ありとした。対象の内訳は,男性/女性が13/29例,平均年齢は84.9±5.9歳(75~96歳),診断名は,大腿骨頸部骨折/大腿骨転子部骨折が10/32例で,頸部骨折の患者は全例人工骨頭置換術を,転子部骨折の患者は全例骨接合術を施行されていた。平均入院日数は83.1±14.0日(35~126日),受傷前の歩行能力は補助具なし/一本杖が37/5例であった。攻撃性の評価は,BPSDの重症度と頻度を点数化して評価するBehavioral Pathology in Alzheimer’s Disease Frequency Weighted Severity Scaleの攻撃性の項目を用いて入院2週目に行い,点数が1点以上を攻撃性ありとした。ADLは入院時と退院時にFunctional Independence Measureの運動項目(以下mFIM)により評価し,mFIM利得(退院時mFIM-入院時mFIM)を算出した。本研究では,対象を攻撃性なし群とあり群との2群に分け,MMSE,mFIM利得を比較した。さらに,認知機能の重症度で軽度(MMSE 19~23点),中等度(10~18点),重度認知症群(9点以下)の3群に分け,各群における攻撃性なし群とあり群についても同様に比較した。統計手法はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
攻撃性は15例で認め,27例に認めなかった。攻撃性あり群は攻撃性なし群より,MMSE(攻撃性なし群:16.4±5.5,攻撃性あり群:9.1±5.3,p<0.01),mFIM利得(攻撃性なし群:17.6±8.7,攻撃性あり群:11.2±11.2,p<0.05)のいずれも有意に低値であった。認知症重症度で分類すると,軽度は15例,中等度は24例,重度は6例であった。攻撃性は軽度認知症群の全例で認めず,重度認知症群では4例に攻撃性を認めた。中等度認知症群では攻撃性なし群が13例,攻撃性あり群は11例であった。中等度認知症群において,MMSEは攻撃性なし群とあり群との間で有意差はなかったが(攻撃性なし群:14.5±2.9,攻撃性あり群:12.0±1.84),mFIM利得は攻撃性あり群の方がなし群よりも有意に低かった(攻撃性なし群:19.7±9.8,攻撃性あり群:12.6±12.0,p<0.05)。
【考察】
本研究により,大腿骨近位部骨折術後の認知症患者において,BPSDの一つである攻撃性を有する症例では機能予後が不良となることが示唆された。特に中等度認知症合併例では,攻撃性は認知機能の重症度とは独立して機能改善を妨げる因子であると考えられた。大腿骨近位部骨折術後の認知症合併例に対して理学療法を行う際には,認知機能だけでなく,BPSDに関する詳細な評価,特に攻撃性の評価は,予後予測に有用な評価の一つである可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨近位部骨折術後の認知症合併例に対して理学療法を行う際に,攻撃性を含めたBPSDの詳細な評価は,機能予後予測や介入方法の検討に役立つと考えられる。