[P3-C-1011] 急性期骨粗鬆症性椎体骨折患者における転倒予測因子としてのTimed Up and Go Test関連因子の検討
Keywords:骨粗鬆症性椎体骨折, Timed Up and Go Test, 握力
【はじめに,目的】
骨粗鬆症による脆弱性骨折は,一ヵ所に生じると次々に骨折を招くため,積極的な骨折予防に努めることが重要である。転倒により骨折増加が予想される骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)患者に対しても予防,治療,リハビリテーション(以下,リハビリ)の一連の流れで多職種連携が必要とされている。OVFにより長期的に活動レベルが低下することは稀であるが,リハビリの介入後でも患者個々の活動レベルに差が生じるのは臨床の場で経験することである。これまで健常な高齢者や後期高齢者などの転倒の予測因子を探る研究は数多くなされてきたが,急性期のOVF患者の転倒予測因子を検討した報告は少ない。そこで本研究の目的は,急性期OVF患者における転倒予測の1指標であるTimed Up and Go Test(TUGT)に着目し,TUGT関連因子について検討することである。
【方法】
2013年12月から2014年8月に,65歳以上で当院整形外科において1椎体のみの新鮮OVFで,受傷後1ヶ月以内に入院し,コルセットを用いて保存治療を行った症例を対象とした(後ろ向き研究)。対象は29例(男性:2例,女性:27例),平均年齢81.7歳(71-93歳),平均観察期間は40.6日(9-99日)であった。骨折の診断は立位-仰臥位撮影で椎体高差を認めたものもしくはMRI(magnetic resonance imaging)で行った。対象患者はコルセット完成着用後,速やかに出棟リハビリを実施した。退院時のTUGT値が,転倒予測のカットオフ値である13.5秒以下のものを転倒リスクの低い(LR)群,上回ったものを転倒リスクの高い(HR)群の2群に分類した。出棟リハビリまでの日数,在院日数,入院前・出棟リハビリ開始時(以下,開始時)のBarthel Index(以下,BI),開始時の体動時腰背部痛(以下,腰背部痛),大腿四頭筋筋力(QMS),背筋筋力(BMS),握力,10m歩行時間,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)をそれぞれ2群間で比較検討した。なお,腰背部痛はNumeric Rating Scale(NRS)で評価した。TUGTとCS-30は平行棒内で時間を計測し,QMS,BMSは,ハンドヘルドダイナモメーター(Power Track II TM)を用いて測定した。QMSと握力は両側測定しその平均値を求めた。統計処理にはJMP5.0を使用し,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
LR群は15例(男性:1例,女性:14例),HR群は14例(男性:1例,女性:13例)であった。LR群とHR群との比較では,年齢(LR群:79±4.8歳,HR群:84±4.9歳)(P<0.05),入院前BI(LR群:98.3±5.1点,HR群:87.9±12.4点)(P<0.001),開始時BI(LR群:77.7±15.4点,HR群:56.8±19.7点)(P<0.001),開始時握力(LR群:13.2±4.4kg,HR群:9.0±2.7kg)(P<0.01),開始時10m歩行時間(LR群:18.0±9.8秒,HR群:28.1±14.9秒)(P<0.05)に有意差がみられた。出棟リハビリまでの日数,在院日数,開始時腰背部痛,開始時QMS,開始時BMS,開始時CS-30について有意差はみられなかった。
【考察】
高齢者の転倒の予測因子を探る研究は数多くなされてきたが,急性期のOVF患者の転倒予測因子を詳細に検討した報告は少ない。今回,急性期OVF患者を転倒予測の1指標であるTUGTの値で2群に分け,TUGT関連因子について比較検討した結果,年齢,入院前BI,開始時BI,開始時握力,開始時10m歩行時間が有意となった。握力は全身の粗大筋力を反映するとされる。握力と転倒との関連があったとする報告もあり,本研究の結果から握力とTUGTとの関連を認め,これらを示唆するものと考える。本研究の限界として,対象数が少ないこと,後ろ向き研究であるため対象者の特性を捉えきれなかった可能性も考えられる。そのため,今後対象者を増やし前向き研究にて,握力と転倒との関連について検討することを課題とする。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,急性期OVF患者に対する転倒予測の1指標であるTUGT関連因子として年齢,日常生活動作の能力低下,歩行能力低下以外にも握力低下が関係していることが示唆された。握力の測定は臨床の場で簡便に測定でき,転倒予測の指標の一つとなる可能性を示すことができた点で意義は高いと考える。
骨粗鬆症による脆弱性骨折は,一ヵ所に生じると次々に骨折を招くため,積極的な骨折予防に努めることが重要である。転倒により骨折増加が予想される骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)患者に対しても予防,治療,リハビリテーション(以下,リハビリ)の一連の流れで多職種連携が必要とされている。OVFにより長期的に活動レベルが低下することは稀であるが,リハビリの介入後でも患者個々の活動レベルに差が生じるのは臨床の場で経験することである。これまで健常な高齢者や後期高齢者などの転倒の予測因子を探る研究は数多くなされてきたが,急性期のOVF患者の転倒予測因子を検討した報告は少ない。そこで本研究の目的は,急性期OVF患者における転倒予測の1指標であるTimed Up and Go Test(TUGT)に着目し,TUGT関連因子について検討することである。
【方法】
2013年12月から2014年8月に,65歳以上で当院整形外科において1椎体のみの新鮮OVFで,受傷後1ヶ月以内に入院し,コルセットを用いて保存治療を行った症例を対象とした(後ろ向き研究)。対象は29例(男性:2例,女性:27例),平均年齢81.7歳(71-93歳),平均観察期間は40.6日(9-99日)であった。骨折の診断は立位-仰臥位撮影で椎体高差を認めたものもしくはMRI(magnetic resonance imaging)で行った。対象患者はコルセット完成着用後,速やかに出棟リハビリを実施した。退院時のTUGT値が,転倒予測のカットオフ値である13.5秒以下のものを転倒リスクの低い(LR)群,上回ったものを転倒リスクの高い(HR)群の2群に分類した。出棟リハビリまでの日数,在院日数,入院前・出棟リハビリ開始時(以下,開始時)のBarthel Index(以下,BI),開始時の体動時腰背部痛(以下,腰背部痛),大腿四頭筋筋力(QMS),背筋筋力(BMS),握力,10m歩行時間,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)をそれぞれ2群間で比較検討した。なお,腰背部痛はNumeric Rating Scale(NRS)で評価した。TUGTとCS-30は平行棒内で時間を計測し,QMS,BMSは,ハンドヘルドダイナモメーター(Power Track II TM)を用いて測定した。QMSと握力は両側測定しその平均値を求めた。統計処理にはJMP5.0を使用し,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
LR群は15例(男性:1例,女性:14例),HR群は14例(男性:1例,女性:13例)であった。LR群とHR群との比較では,年齢(LR群:79±4.8歳,HR群:84±4.9歳)(P<0.05),入院前BI(LR群:98.3±5.1点,HR群:87.9±12.4点)(P<0.001),開始時BI(LR群:77.7±15.4点,HR群:56.8±19.7点)(P<0.001),開始時握力(LR群:13.2±4.4kg,HR群:9.0±2.7kg)(P<0.01),開始時10m歩行時間(LR群:18.0±9.8秒,HR群:28.1±14.9秒)(P<0.05)に有意差がみられた。出棟リハビリまでの日数,在院日数,開始時腰背部痛,開始時QMS,開始時BMS,開始時CS-30について有意差はみられなかった。
【考察】
高齢者の転倒の予測因子を探る研究は数多くなされてきたが,急性期のOVF患者の転倒予測因子を詳細に検討した報告は少ない。今回,急性期OVF患者を転倒予測の1指標であるTUGTの値で2群に分け,TUGT関連因子について比較検討した結果,年齢,入院前BI,開始時BI,開始時握力,開始時10m歩行時間が有意となった。握力は全身の粗大筋力を反映するとされる。握力と転倒との関連があったとする報告もあり,本研究の結果から握力とTUGTとの関連を認め,これらを示唆するものと考える。本研究の限界として,対象数が少ないこと,後ろ向き研究であるため対象者の特性を捉えきれなかった可能性も考えられる。そのため,今後対象者を増やし前向き研究にて,握力と転倒との関連について検討することを課題とする。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,急性期OVF患者に対する転倒予測の1指標であるTUGT関連因子として年齢,日常生活動作の能力低下,歩行能力低下以外にも握力低下が関係していることが示唆された。握力の測定は臨床の場で簡便に測定でき,転倒予測の指標の一つとなる可能性を示すことができた点で意義は高いと考える。