第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法7

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1017] 脳卒中患者の下肢筋に対する超音波画像を用いて評価された筋厚と筋輝度の麻痺側と非麻痺側間の比較

大川直美1,2, 原田和宏3, 赤澤直紀1, 貴志将紀1, 中谷聖史1, 西川勝矢1, 早瀬敦之4, 田村公之1 (1.河西田村病院リハビリテーション科, 2.吉備国際大学(通信制)大学院保健科学研究科, 3.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科, 4.津山中央病院リハビリテーション課)

キーワード:脳卒中, 筋厚, 筋輝度

【はじめに,目的】
近年,脳卒中患者の身体組成(筋量と筋内脂肪量)に関する調査が行われている。Ryanら(2002, 2011)はComputed tomography(CT)を用いて,麻痺側と非麻痺側大腿部の筋量と筋内脂肪量を比較した結果,麻痺側の筋量は非麻痺側よりも有意に少なく,筋内脂肪量は,麻痺側が非麻痺側と比べて有意に多いことを明らかにしている。一方,最近では超音波診断装置で撮影された画像を用いて,筋量と筋内脂肪量を評価する試みが地域在住高齢者を対象になされている(Fukumoto et al., 2012;Radaelli et al., 2014)。それら研究では筋量の減少は筋厚の減少,筋内脂肪量の増加は輝度の上昇で評価されている。超音波画像を用いた評価においても,CTのように,脳卒中患者の麻痺側と非麻痺側の筋量と筋内脂肪量の差異が明らかにできれば,超音波診断装置の使用の簡便性や安全性を考慮すると,理学療法場面でそれらを用いる意義は十分にあると考える。しかし,脳卒中患者を対象としそれら評価を用いたものは,麻痺側前腕筋の筋厚が非麻痺側よりも低値であることを明らかにした報告(Triandafilou et al;2012)を確認するだけであり,下肢筋の筋厚と筋輝度を麻痺側と非麻痺側間で比較した研究は見当たらない。したがって,本研究の目的は超音波画像を用いて,脳卒中患者の麻痺側と非麻痺側の下肢筋の筋厚と筋輝度を評価し,比較することで,それら評価が麻痺側と非麻痺側の筋量と筋内脂肪量の差異を反映できるものであるかどうかを検討することである。
【方法】
対象は,当院の外来または通所リハビリテーションを利用する脳卒中患者14名(男性10名,女性4名,年齢73.9±9.6歳,体重61.3±14.9kg,身長160.7±11.1cm,右片麻痺7名,左片麻痺7名,Brunnstrom recovery stage II:4名,III:4名,IV:3名,V:3名,発症からの期間99.1±120.7ヶ月)であった。取り込み基準は,Ryanら(2002, 2011)報告に準拠し,発症から6ヶ月以上経過した者とした。除外基準は,認知症,失語症を有する者とした。筋厚評価では大腿直筋と中間広筋,筋輝度評価では大腿直筋を対象筋とした。それら評価対象筋の横断面画像を超音波診断装置(NanoMaxx,SonoSite社)のBモード法で撮影した。プローブはリニア型を用い,膝蓋骨上縁から上前腸骨棘を結ぶ線上で,膝蓋骨上縁から3分の1の部位で皮膚に対して垂直に当てた。超音波画像の解析には,画像解析ソフトImage J(National Institute of Health, USA)を用いた。筋厚は,大腿骨から大腿直筋膜までの距離(大腿直筋と中間広筋の筋厚の合計値)とした。筋輝度は,大腿直筋におけるRegions of interest(筋膜を除いた範囲)で8 bit gray-scale{0(黒)-255(白)}を用いて数値化した。統計学的解析は,麻痺側と非麻痺側の筋厚値と筋輝度の正規性を確認した後に,それらの比較に対応のあるt検定を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。併せて,麻痺側と非麻痺側との筋厚と筋輝度比較の効果量を算出した。
【結果】
麻痺側と非麻痺側の筋厚は,それぞれ16.7±2.6 mm,20.2±4.2 mmであり,麻痺側の筋厚は非麻痺側よりも有意に低値を示した(p=0.005)。また,麻痺側と非麻痺側の筋輝度は,それぞれ87.3±17.0(untitle),71.4±18.8(untitle)であり,麻痺側の筋輝度は非麻痺側と比較し,有意に高値を示した(p=0.015)。麻痺側と非麻痺側との筋厚と筋輝度比較の効果量は,それぞれ1.0,0.9であり,Cohenの分類(1992)で効果量大を示した。
【考察】
本研究の結果は,大腿直筋と中間広筋の筋量は麻痺側が非麻痺側よりも少なく,麻痺側の大腿直筋における筋内脂肪量は,非麻痺側よりも多いことが推定されるものであった。これらの結果は,Ryanら(2002, 2011)のCTを用いて,麻痺側と非麻痺側大腿部の筋量と筋内脂肪量を調査した結果と同様の傾向性を示すものであった。これらより,脳卒中患者において,超音波画像を用いた筋厚と筋輝度評価は,CTと同様の結果を導きだすことができる可能性が考えられた。さらに,麻痺側と非麻痺側との筋厚と筋輝度比較の効果量は1.0と0.9で大きかったことから,超音波画像を用いた脳卒中患者の下肢筋の筋厚と筋輝度の評価は,麻痺側と非麻痺側の筋量と筋内脂肪量の差異を十分に見出すものであることが考えられた。
【理学療法研究としての意義】
脳卒中患者の下肢筋に対する超音波画像を用いた筋厚と筋輝度評価が,麻痺側と非麻痺側の筋量と筋内脂肪量の差異を見出すことのできるものであることを示唆できた点で,本研究は意義あるものと考える。