第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法8

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1023] 脳卒中片マヒ例におけるMRI拡散テンソル画像の神経線維抽出と予後予測

~移乗監視下だった橋出血患者が屋外独歩可能となった神経病態の予測~

照喜名将吾, 小山貴之, 飯尾晋太郎, 中野仁, 高橋博達 (浜松市リハビリテーション病院)

Keywords:拡散テンソル画像, 脳卒中, 予後予測

【はじめに,目的】
脳卒中のリハビリテーションにおいて,画像所見から病態を把握し,予後予測や治療プログラムを立案することは重要である。近年,脳の組織や活動を画像解析する様々な測定方法が開発され,臨床でも活用され始めている。その中の1つである拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging)は,錐体路をはじめとする脳内の主要白質経路の走行を仮想的に示す画像であり,MRで撮影された拡散テンソル画像をパソコンで解析することで神経線維の描出が可能となる。拡散テンソル画像を用いた報告は大学病院や急性期病院からのものが多く,当院のような回復期病棟を有するリハビリテーション病院からの報告は少ない。当院では2014年4月に解析装置を導入し,現在,医師・放射線技師の協力のもと,試験的に画像解析を進めている段階である。今回,橋出血を呈し,発症後40日間のリハビリ加療で屋外独歩自立に至った症例に対し,症例の退院後に拡散テンソル画像を解析した。描出した錐体路のイメージ画像からみた神経局在と実際の臨床症状との照合や,健常成人で描出した錐体路のイメージ画像との比較から,リハビリテーション病院における拡散テンソル画像の有用性を検討したため報告する。
【方法】
症例は37歳男性(身長170cm,体重104kg,BMI指数36.0),右利き。日中自宅で左半身の麻痺に気付き救急要請。頭部CTで橋出血と診断されICUにて保存加療。搬送時,意識清明だが重度左麻痺。発症翌日より理学療法を開始し,E4V4M6,BRS上肢III下肢III手指III,頚部・体幹・左上下肢の低緊張を認め,表在・深部感覚ともに中等度鈍麻。起居移乗動作は軽介助,座位保持に見守りを要した。6病日に一般病床へ移り平行棒内歩行訓練開始。起居移乗動作は見守りで可能となるも,歩行時は左脚の膝折れを認めたため介助が必要であった。その後,15病日に自宅退院を目指したリハビリテーション目的に当院へ転院となった。
当院転院時は指示理解は良好。BRS上肢V下肢V手指VI,表在感覚は軽度鈍麻。頚部・体幹・左上下肢の低緊張は残存していたが,検査上,問題となる深部感覚障害や四肢の失調症状は認めなかった。起居移乗動作・座位動作は自立していたが,立位・歩行では見守りを要した。また,片脚立位や継ぎ足立位は左右ともに困難であった。
リハビリテーション(PT・OT・ST)は週6回(1日平均7単位)行い,理学療法(1回40~120分)では基本的なストレッチ・筋力増強訓練・立位バランス訓練・歩行訓練を行った。治療を継続することで歩行は安定し,14病日に病棟内独歩自立,23病日に屋外独歩自立。31病日に自宅退院に至った。退院時,BRS上肢VI下肢VI手指VIに改善し,左右片脚立位30秒以上可能,左右継ぎ足立位5秒以上可能,10m歩行(快適速度)は11.0秒(14歩)となった。
上述した症例の治療経験から,脳損傷部位と身体の回復過程との関係を明らかにするため,拡散テンソル画像を用いて後方視的に錐体路の描出を試みた。解析には発症から15病日に当院のMRI(GE Medical Systems社製,1.5テスラ,スライス厚3mm,32軸)で撮影された拡散テンソル画像を使用した。解析ソフトはZiostation2(ザイオソフト社製)を用いて行い,関心領域は,中脳大脳脚・内包後脚・大脳皮質中心前回の3ヵ所全てを通過することを条件に神経線維を損傷側・非損傷側で描出した。また,比較のため健常成人(男性,24歳)の拡散テンソル画像を用いて同様の関心領域で神経線維を描出した。
【結果】
損傷側・非損傷側ともに,関心領域で設定した3ヵ所を通過する神経線維が描出され,CT上でみられた血腫によって錐体路が途絶していなことが確認された。また,描出された損傷側の神経線維数は非損傷側と比較して少なく,大脳皮質中心前回の領域では,下肢・体幹の神経支配領域に当たる部位で神経線維の減少がみられた。
【考察】
今回,橋出血を呈した患者の治療を経験し,後方視的に拡散テンソル画像の解析を試みた。本症例の神経線維を描出したことで,具体的な錐体路の損傷状態が明らかになり,経過とともに左麻痺が改善されたことへの理解が深まった。一方,延髄周辺では錐体路の描出がなされず,解析の際の設定方法に課題が残った。今後は,症例数を増やし,入院時・退院時での神経線維数を比較することで,予後予測の傾向を把握,提示していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
拡散テンソル画像を用いて実際に神経線維を描出することで,脳神経ネットワークの理解がより深まり,脳卒中患者における残存機能の確認や予後予測に有用であると考えられる。