第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法9

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1032] 被殻出血及び視床出血患者の急性期病院退院時における歩行能力

山本幸夫, 島田幸洋, 尾谷寛隆, 上原敏志 (国立循環器病研究センター)

Keywords:被殻出血, 視床出血, 歩行能力

【目的】
脳出血のうち被殻出血は約40%,視床出血は約30%を占め,理学療法の対象となることが多い。また,脳出血の血腫量は予後を決定する重要な因子とされているが,出血部位別の血腫量と歩行能力について検討したものは少ない。今回,被殻出血及び視床出血の血腫量と急性期病院退院時における歩行能力との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2013年1月から2014年4月までの期間に発症3日以内に当院に入院し,理学療法依頼があった初発の被殻出血及び視床出血患者のうち,発症前modified Rankin Scale 2以上,外科処置例,死亡例,他疾患治療目的での転院例を除外した被殻出血77例,視床出血53例を対象とした。
対象者の年齢,性別,血腫量,入院時NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale),入院期間,歩行練習実施率,退院先を後方視的に調査し,被殻出血と視床出血とで比較した。
さらに,血腫量を被殻出血では10ml,視床出血では5mlごとに5群に区分し,退院時歩行能力を独歩や杖歩行などの平行棒外歩行,平行棒内歩行,歩行不可の3群に分類して,それぞれの血腫量別歩行能力について検討した。
統計はエクセル統計2012のt検定,Mann-Whitney U検定,χ2検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
年齢は被殻62.5±11.7歳,視床68.9±8.9歳で有意差(P<0.01)を認めた。性別における男性の割合は被殻68%(52例),視床55%(29例)で有意差を認めなかった。血腫量は被殻21.3±19.3ml[範囲:1.0-101.0m,視床12.2±10.4ml[0.6-35.1mで有意差(P<0.01)を認めた。入院時NIHSSは被殻13[四分位範囲:7-19],視床12[9-16],入院期間は被殻25.4±8.9日,視床26.8±10.8日,歩行練習実施率は被殻87%(67例),視床79%(42例),自宅退院は被殻18%(14例),視床9%(5例)であり,いずれも有意差を認めなかった。
血腫量別退院時歩行能力の割合は,被殻では10ml未満は平行棒外歩行が72%(18例),平行棒内歩行が28%(7例),歩行不可が0%(0例),10ml以上 20ml未満は順に82%(18例),9%(2例),9%(2例),20~30mlは50%(6例),42%(5例),8%(1例),30~40mlは29%(2例),71%(5例),0%(0例),40ml以上は0%(0例),36%(4例),64%(7例)で有意差(P<0.05)を認めた。視床では5ml未満は順に60%(6例),40%(4例),0%(0例),5~10mlは37.5%(6例),50%(8例),12.5%(2例),10~15mlは31%(4例),54%(7例),15%(2例),15~20mlは0%(0例),75%(6例),25%(2例),20ml以上は0%(0例),17%(1例),83%(5例)で有意差(P<0.01)を認めた。
【考察】
今回の調査で歩行練習実施率は,被殻出血87%,視床出血79%に至り,多くの患者が急性期から歩行練習を行っていた。早期歩行練習の有用性が種々のガイドラインで示されているが,それらのエビデンスが浸透し,実践されている結果と思われる。
血腫量と退院時歩行能力の関係では,被殻出血,視床出血とも発症から約1か月経過した急性期病院退院時点での歩行能力は血腫量に比例して低い傾向があった。これらの結果から発症早期の被殻出血及び視床出血では,血腫量から急性期病院退院時のある程度の歩行能力が予測できる可能性が示唆された。ただし,血腫量が多くても高い歩行能力まで到達する患者もおり,血腫の進展方向や年齢,出現している機能障害などから総合的に歩行能力を予測する必要がある。
被殻出血の血腫量と退院時歩行能力の関係では,血腫量40ml未満では歩行練習を90%以上が実施できていた。そのうち,急性期病院の限られた入院期間に,将来,実用的な歩行に至る可能性が高いと予測される平行棒外歩行まで到達したのは,血腫量20ml未満では70%を超えていたが,20~30mlでは50%,30~40mlでは約30%に低下していた。
一方,視床出血の血腫量と退院時歩行能力の関係では,血腫量10ml未満では歩行練習を90%以上が実施できていたが,10~15mlになると85%,15~20mlになると75%と徐々に低下していた。また,平行棒外歩行まで到達するのは血腫量5ml未満の少ない血腫量であっても60%であり,5~10mlでは約40%,10~15mlでは約30%に低下していた。
被殻出血及び視床出血では,血腫量と急性期病院退院時の歩行能力の関係は出血部位別に特徴が異なることが示唆された。急性期病院ではこれらの特徴を把握し,限られた入院期間で退院時に到達する歩行能力を予測し,効果的な理学療法を実施していくことが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
被殻出血及び視床出血の血腫量は急性期病院退院時における歩行能力と関連があり,出血部位別にその特徴は異なるため,それらを把握することは理学療法を進めるうえで重要である。