第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法11

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1051] 亜急性期脳卒中患者において内省報告を求めるアプローチにより麻痺側への注意が向いた症例

~積極的な歩行練習を始めるために~

大鷲智絵, 河野陽治 (公益社団法人地域医療振興協会横須賀市立うわまち病院)

Keywords:脳卒中, 内省, 注意障害

【はじめに,目的】
先行研究において理学療法における運動学習では,知覚と運動の両機能を連動させた課題が有効であるとされるが,未だ十分には検討されておらず,どのような疾患や時期にこうしたアプローチを展開するべきか整理されていないのが現状である。本症例検討では,広汎性注意障害を有する重度左片麻痺患者に対し,亜急性期から麻痺側へ注意を向けるため,知覚運動学習を意識したアプローチを行った。麻痺側へ注意が向かないことで受動的な歩行練習を行っていた症例が,今回のアプローチによって内省報告の変化とともに能動的な歩行練習が可能となったためここに報告する。
【方法】
症例は右橋梗塞により重度左片麻痺を呈した70代後半の男性である。第2病日から理学療法が開始されBrunnstrom recovery stage(以下BRS)は下肢II,表在感覚軽度鈍麻,高次脳機能障害は軽度の左半側空間無視と広汎性注意障害を呈した。発症から3週目にはBRS下肢III,感覚障害は消失し軽度の半側空間無視と広汎性注意障害が残存した。長下肢装具を使用した介助下での立位・歩行練習を開始したが,練習中症例はきょろきょろと周囲を見渡し注意散漫であった。内省報告を求めると「全然歩いている気がしない。浮いている感じがする。」との報告であった。そこで発症から4~5週に標準的理学療法に加え,機能的電気刺激を用い大腿四頭筋の収縮をアシストした状態で長座位での膝の伸展運動を行い筋固有感覚を感じ取ることから始めた。なお,機器は帝人ファーマ社製のウォークエイドを用い,刺激強度は痛みの無い範囲での最大値とした。次に5~6週目からは立位姿勢において麻痺側足底の下に低反発クッションを敷き股関節・膝関節を軽度屈曲位にした状態でそのクッションを踏みつけるように指示し足底の圧覚と運動による筋の固有感覚の統合をねらった。また,各練習において感じたことの内省報告を求め記録した。
【結果】
機能的電気刺激を用いた練習後の報告では筋固有感覚を感じ取る内省や麻痺側へ注意が向いている内省を得られるようになった。立位での練習では「なんとなく分かる」と内省があり自ら麻痺側へ荷重をかけ足底への圧を探索する様子が見られた。発症から6週目以降になると長下肢装具歩行練習中「地に足がついているのが分かる」と内省があり,それに伴うように介助量は日に日に減少した。また,自ら練習に対しフィードバックを行う様子も見られた。
【考察】
知覚運動学習は,知覚機能と運動機能の統合を目的とし認知運動課題を用いて学習していくものであるが,沖田らはどのような症例に対しどの時期に行うのが最適かは整理されていないと述べている。
脳卒中理学療法診療ガイドライン2011の早期理学療法項目では推奨グレードAとして,重度の運動障害や半盲あるいは半側注意力障害を認める急性期脳卒中患者に対して通常の運動療法に加えて感覚運動刺激を行うと運動障害を改善し注意力を向上させるとある。本症例は初期では重度の麻痺と注意障害を呈し,歩行練習では自身が歩行していることの認識すら曖昧であることが歩行獲得への大きな問題点だと考えられた。よって,亜急性期から認知運動学習を促す必要があったと考えた。
課題の遂行にあたり,まずは麻痺側へ注意を向けるきっかけが必要だと判断した。そこで注意を向ける手がかりとして機能的電気刺激を用いた。また,森岡によると近年の脳イメージング研究により筋骨格系からの体性感覚情報処理には,体性感覚領野の他に一次運動野を含んだ運動領野も関与することが判明しており,運動実行と運動感覚フィードバック情報処理が同じ領野で行われることが示唆されると述べている。よって,筋骨格系からの運動感覚を知覚することは重要であり機能的電気刺激はその一助となったと考える。次に立位においては足関節周囲筋の随意収縮が困難かつ注意障害を呈する症例にとって立位姿勢をとること自体が集中力を要するものであり,ごく簡単で分かりやすい課題において内省報告を求めた。小林らは身体動作を言語化させることで患者自身が身体に対して注意を喚起することが可能となり,また身体運動を形成していく段階で行為の組織化を行い易くする手段として有効であると述べている。本症例でも同様に練習の中で内省報告を求めたことは,麻痺側への注意喚起を行う上で重要であり,能動的な歩行練習へ移行できたのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
重度の麻痺や注意障害を呈した患者に対し,亜急性期から知覚運動学習を行うことは積極的な歩行練習へと移行できる一因となり得ることが示唆された。