[P3-C-1061] 個別モデル動画を使用した脳卒中片麻痺患者に対する歩行の運動観察治療
Keywords:脳卒中片麻痺, 歩行, 運動観察
【目的】
ミラーニューロンシステムの神経生理学的背景に基づく運動観察治療(action observation therapy:以下AOT)は,脳卒中治療の新たな手続きとして有効性が示されている(Erteltら;2012)。また,AOTは基礎神経科学から発展しておりtranslational Medicineの有効なモデルとして注目されている(Buccinoら;2014)。将来的には個々の運動障害パターンに合わせた観察動画が必要とされている(Erteltら;2012)。以上から本研究の目的は,脳卒中の歩行障害に対して個々の障害パターンに合わせた他者の観察動画を使用し歩行AOTの効果を検証することである。
【方法】
対象は当センター回復期入院中のクモ膜下出血後左片麻痺を発症した30代女性とした。研究開始時には発症後4か月を経過していた。検査開始時の所見として,Fugl-Meyer下肢項目は19/34点,歩行は一本杖と短下肢装具を使用し部分的に自立歩行可能,Mini-Mental State Examinationは28/30点であった。研究モデルはABAB型デザインのABA'B'とした。Phase A・A'をベースライン期,Phase B・B'をAOT介入期とし歩行AOTの実験的介入を行った。ベースライン期,AOT介入期はいずれも1週間とし,それぞれ週に5回実施した。ベースライン期では,背もたれ付きの椅子に座りPC画面上の風景画を3分間観察,介入期では,被験者を模した歩行の動画を3分間観察した。歩行動画については1分30秒時点で正面像から側方像に切り変えた。観察に使用する歩行動画は当センタースタッフがモデルとなり,同性で身長,体格が比較的近似しており,被験者の普段使用している杖,装具を着用して動画撮影を行った。モデル歩行動画での歩行速度は歩行自立のカットオフ値である0.8m/secを指標とした。験者は被験者に対して椅坐位で模倣する意図を持って観察するように指示した。ベースライン期,AOT介入期ともに動画観察後は2分間の歩行練習を自由歩行にて行った。その後に最速での10m歩行とTUGを2回測定した。研究期間中は普段使用している杖と下肢装具の使用を認めた。検定には統計ソフト(PASW Stastics18)を用いた。統計学的分析は,10m最大歩行速度とTUG-Tをそれぞれ4群間で比較するため多重比較検定のSteel-Dwassの方法を用いた。全ての統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
10m歩行速度に関してPhaseA-Bにおいて,統計学的な有意差を認めた(p<0.05)。その他の群においては,有意差は認められなかった。TUGに関してPhaseA'-B'において統計学的な有意差を認めた(p<0.05)。その他の群においては,有意差は認められなかった。
【考察】
本研究では,被験者の歩行環境と身体特性を近似させた他者個別モデルを使用して歩行のAOTを実施した。結果として10m歩行,TUGともにAOT介入期では歩行能力の改善がみられた。先行研究でもAOTが脳卒中片麻痺患者の歩行障害に対して有効であると示されており,本研究でも10m歩行速度に関しては同様の結果を得た。本研究では,自己に近似した他者の歩行映像を観察し,直後に歩行運動を行うことによって,より鮮明な歩行イメージが形成され,歩行能力が改善したのではないかと推察される。一方,TUGにおいては今回の観察動画では,起立,着座などの運動は含まれていなかったにも関わらずPhase A'-B'にて有意差を認めた。自己の運動認識について,村田(2005)は視覚フィードバック,体性感覚フィードバック,遠心性コピーの3つの要素が運動に伴い時間的な同時性を持って頭頂葉内で照合されることの重要性を示している。よって,本研究においては観察時の頭頂葉の活動と実際の運動時の遠心性コピーが頭頂葉にてマッチングされたことによって自己運動のモニター機能が高まり応用的な運動パターンにも適応することができたと考えられる。しかし,本研究では脳イメージング機器にて脳活動を評価しておらず,以上に述べた脳機構が賦活したかは定かではない。また,シングルケースでの研究であるため,今後複数症例を集めた研究デザインで効果を検討していかなければならない。
【理学療法学研究としての意義】
今後の理学療法において,観察動画を歩行パターンによって複数準備することで様々な歩行障害を呈した症例に対し幅広く適応できる可能性が考えられる。
ミラーニューロンシステムの神経生理学的背景に基づく運動観察治療(action observation therapy:以下AOT)は,脳卒中治療の新たな手続きとして有効性が示されている(Erteltら;2012)。また,AOTは基礎神経科学から発展しておりtranslational Medicineの有効なモデルとして注目されている(Buccinoら;2014)。将来的には個々の運動障害パターンに合わせた観察動画が必要とされている(Erteltら;2012)。以上から本研究の目的は,脳卒中の歩行障害に対して個々の障害パターンに合わせた他者の観察動画を使用し歩行AOTの効果を検証することである。
【方法】
対象は当センター回復期入院中のクモ膜下出血後左片麻痺を発症した30代女性とした。研究開始時には発症後4か月を経過していた。検査開始時の所見として,Fugl-Meyer下肢項目は19/34点,歩行は一本杖と短下肢装具を使用し部分的に自立歩行可能,Mini-Mental State Examinationは28/30点であった。研究モデルはABAB型デザインのABA'B'とした。Phase A・A'をベースライン期,Phase B・B'をAOT介入期とし歩行AOTの実験的介入を行った。ベースライン期,AOT介入期はいずれも1週間とし,それぞれ週に5回実施した。ベースライン期では,背もたれ付きの椅子に座りPC画面上の風景画を3分間観察,介入期では,被験者を模した歩行の動画を3分間観察した。歩行動画については1分30秒時点で正面像から側方像に切り変えた。観察に使用する歩行動画は当センタースタッフがモデルとなり,同性で身長,体格が比較的近似しており,被験者の普段使用している杖,装具を着用して動画撮影を行った。モデル歩行動画での歩行速度は歩行自立のカットオフ値である0.8m/secを指標とした。験者は被験者に対して椅坐位で模倣する意図を持って観察するように指示した。ベースライン期,AOT介入期ともに動画観察後は2分間の歩行練習を自由歩行にて行った。その後に最速での10m歩行とTUGを2回測定した。研究期間中は普段使用している杖と下肢装具の使用を認めた。検定には統計ソフト(PASW Stastics18)を用いた。統計学的分析は,10m最大歩行速度とTUG-Tをそれぞれ4群間で比較するため多重比較検定のSteel-Dwassの方法を用いた。全ての統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
10m歩行速度に関してPhaseA-Bにおいて,統計学的な有意差を認めた(p<0.05)。その他の群においては,有意差は認められなかった。TUGに関してPhaseA'-B'において統計学的な有意差を認めた(p<0.05)。その他の群においては,有意差は認められなかった。
【考察】
本研究では,被験者の歩行環境と身体特性を近似させた他者個別モデルを使用して歩行のAOTを実施した。結果として10m歩行,TUGともにAOT介入期では歩行能力の改善がみられた。先行研究でもAOTが脳卒中片麻痺患者の歩行障害に対して有効であると示されており,本研究でも10m歩行速度に関しては同様の結果を得た。本研究では,自己に近似した他者の歩行映像を観察し,直後に歩行運動を行うことによって,より鮮明な歩行イメージが形成され,歩行能力が改善したのではないかと推察される。一方,TUGにおいては今回の観察動画では,起立,着座などの運動は含まれていなかったにも関わらずPhase A'-B'にて有意差を認めた。自己の運動認識について,村田(2005)は視覚フィードバック,体性感覚フィードバック,遠心性コピーの3つの要素が運動に伴い時間的な同時性を持って頭頂葉内で照合されることの重要性を示している。よって,本研究においては観察時の頭頂葉の活動と実際の運動時の遠心性コピーが頭頂葉にてマッチングされたことによって自己運動のモニター機能が高まり応用的な運動パターンにも適応することができたと考えられる。しかし,本研究では脳イメージング機器にて脳活動を評価しておらず,以上に述べた脳機構が賦活したかは定かではない。また,シングルケースでの研究であるため,今後複数症例を集めた研究デザインで効果を検討していかなければならない。
【理学療法学研究としての意義】
今後の理学療法において,観察動画を歩行パターンによって複数準備することで様々な歩行障害を呈した症例に対し幅広く適応できる可能性が考えられる。