[P3-C-1066] 地域在住高齢者における転倒恐怖感の有無と身体活動量の関係性
Keywords:転倒恐怖感, 身体活動, 地域在住高齢者
【はじめに,目的】
高齢者における転倒は,外傷を引き起こし,要支援や要介護状態につながることがあるため,転倒予防の重要性が認識されている。これまで様々な要因が転倒関連因子として報告されており,そのなかでも転倒に対する心理的な要因のひとつとして転倒恐怖感が注目されている。転倒恐怖感とは「身体能力が残されているにも関わらず,移動や一の変化を求める活動を避けようとする永続的な恐れ」と定義されている。転倒恐怖感の有無はその他の転倒関連因子から独立して転倒に影響することが報告されており,転倒恐怖感に対する介入の有用性が示唆されている。転倒恐怖感と身体機能との関連性に着目した研究では,転倒恐怖感を有する高齢者は,転倒恐怖感のない高齢者に比べて,歩行機能などの身体機能が低いことがあきらかとなっており,さらに,転倒恐怖感の有無と身体活動量との関連性が報告されている。しかしながら,転倒恐怖感がどの程度の身体活動量と関係しているのかを,示した報告は少ない。本研究では,地域在住高齢者を対象に,転倒恐怖感の有無と強度別に分けられた身体活動量との関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は測定調査会に参加した65歳以上の地域在住高齢者304名のうち,測定内容に不備があった者,Mini-Mental State Examinationの得点が20点以下であったものを除外した293名(男性105名,女性188名,平均年齢70.23±4.03歳)とした。測定項目として年齢,性別などの基本情報の他に,転倒恐怖感の有無,身体活動量(単位:MET-分/week),健康関連指標,運動機能について質問紙により聴取した。身体活動量はInternational Physical Activity Questionnaireを用いて強度身体活動量,中等度身体活動量,およびウォーキング量に分けて評価した。また健康関連指標として老研式活動能力指標,精神健康状態評価表を,運動習慣,および外出頻度を,運動機能に関してはMotor Fitness Scale(MFS)を用いて評価した。統計解析は,転倒恐怖感の有無とその他全ての変数において相関分析を行った。その後,従属変数を転倒恐怖感の有無,転倒恐怖感の有無との相関がp<0.25であったものを共変数として多重ロジスティック回帰分析を実施した。統計処理にはIBM SPSS Statistics 22.0を用い,危険率は5%未満とした。
【結果】
293名の対象のうち,転倒恐怖感を有する者は175名(59.73%)であった。Spearmanの相関分析では,転倒恐怖感の有無と年齢(ρ=0.15,p=0.01),性別(ρ=0.29,p<0.01),運動セルフエフィカシー(ρ=-0.12,p=0.05),MFS合計点(ρ=-0.21,p<0.01)において有意な相関関係が認められた。これらの他にp<0.25であった精神健康状態評価表合計点(ρ=-0.07,p=0.22),強度身体活動量(ρ=-0.09,p=0.14),および中等度身体活動量(ρ=-0.08,p=0.16)を加えた7つを共変数とし,転倒恐怖感の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,年齢(オッズ比:1.07,p=0.04),性別(オッズ比:3.40,p<0.01),MFS合計点(オッズ比:0.82,p=0.01),および中等度身体活動量(オッズ比:0.99,p<0.05)が有意な独立変数として抽出された。
【考察】
相関分析の結果から,転倒恐怖感の有無が年齢,性別,運動セルフエフィカシー,および運動機能と関連していることが示された。これは転倒恐怖感をもつ者は,より高齢であるものや女性に多く,運動セルフエフィカシーおよび運動機能が低下しているとする先行研究を支持する結果であった。さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果により,年齢,性別,運動機能に加え,身体活動のなかでも中等度身体活動のみが独立して転倒恐怖感に影響を与えていることが明らかとなった。これは,身体活動の強度により転倒恐怖感に与える影響が変化することを示唆しており,転倒恐怖感の軽減を目的として身体活動量に対し介入する場合,中等度身体活動を促すことがより効果的である可能性が考えられた。今後,地域在住高齢者における転倒恐怖感の軽減を目的とした中等度身体活動量に対する介入について,さらなる研究が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
地域在住高齢者において,身体活動のなかでも中等度身体活動は,独立して転倒恐怖感の有無に影響を与えていることが明らかとなった。これは身体活動の強度により転倒恐怖感に与える影響が変化することを示している。本研究の結果は,地域在住高齢者に対して中等度の身体活動を促すことで,転倒恐怖感を軽減させることに繋がる可能性を示唆するものであると考えられた。
高齢者における転倒は,外傷を引き起こし,要支援や要介護状態につながることがあるため,転倒予防の重要性が認識されている。これまで様々な要因が転倒関連因子として報告されており,そのなかでも転倒に対する心理的な要因のひとつとして転倒恐怖感が注目されている。転倒恐怖感とは「身体能力が残されているにも関わらず,移動や一の変化を求める活動を避けようとする永続的な恐れ」と定義されている。転倒恐怖感の有無はその他の転倒関連因子から独立して転倒に影響することが報告されており,転倒恐怖感に対する介入の有用性が示唆されている。転倒恐怖感と身体機能との関連性に着目した研究では,転倒恐怖感を有する高齢者は,転倒恐怖感のない高齢者に比べて,歩行機能などの身体機能が低いことがあきらかとなっており,さらに,転倒恐怖感の有無と身体活動量との関連性が報告されている。しかしながら,転倒恐怖感がどの程度の身体活動量と関係しているのかを,示した報告は少ない。本研究では,地域在住高齢者を対象に,転倒恐怖感の有無と強度別に分けられた身体活動量との関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は測定調査会に参加した65歳以上の地域在住高齢者304名のうち,測定内容に不備があった者,Mini-Mental State Examinationの得点が20点以下であったものを除外した293名(男性105名,女性188名,平均年齢70.23±4.03歳)とした。測定項目として年齢,性別などの基本情報の他に,転倒恐怖感の有無,身体活動量(単位:MET-分/week),健康関連指標,運動機能について質問紙により聴取した。身体活動量はInternational Physical Activity Questionnaireを用いて強度身体活動量,中等度身体活動量,およびウォーキング量に分けて評価した。また健康関連指標として老研式活動能力指標,精神健康状態評価表を,運動習慣,および外出頻度を,運動機能に関してはMotor Fitness Scale(MFS)を用いて評価した。統計解析は,転倒恐怖感の有無とその他全ての変数において相関分析を行った。その後,従属変数を転倒恐怖感の有無,転倒恐怖感の有無との相関がp<0.25であったものを共変数として多重ロジスティック回帰分析を実施した。統計処理にはIBM SPSS Statistics 22.0を用い,危険率は5%未満とした。
【結果】
293名の対象のうち,転倒恐怖感を有する者は175名(59.73%)であった。Spearmanの相関分析では,転倒恐怖感の有無と年齢(ρ=0.15,p=0.01),性別(ρ=0.29,p<0.01),運動セルフエフィカシー(ρ=-0.12,p=0.05),MFS合計点(ρ=-0.21,p<0.01)において有意な相関関係が認められた。これらの他にp<0.25であった精神健康状態評価表合計点(ρ=-0.07,p=0.22),強度身体活動量(ρ=-0.09,p=0.14),および中等度身体活動量(ρ=-0.08,p=0.16)を加えた7つを共変数とし,転倒恐怖感の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,年齢(オッズ比:1.07,p=0.04),性別(オッズ比:3.40,p<0.01),MFS合計点(オッズ比:0.82,p=0.01),および中等度身体活動量(オッズ比:0.99,p<0.05)が有意な独立変数として抽出された。
【考察】
相関分析の結果から,転倒恐怖感の有無が年齢,性別,運動セルフエフィカシー,および運動機能と関連していることが示された。これは転倒恐怖感をもつ者は,より高齢であるものや女性に多く,運動セルフエフィカシーおよび運動機能が低下しているとする先行研究を支持する結果であった。さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果により,年齢,性別,運動機能に加え,身体活動のなかでも中等度身体活動のみが独立して転倒恐怖感に影響を与えていることが明らかとなった。これは,身体活動の強度により転倒恐怖感に与える影響が変化することを示唆しており,転倒恐怖感の軽減を目的として身体活動量に対し介入する場合,中等度身体活動を促すことがより効果的である可能性が考えられた。今後,地域在住高齢者における転倒恐怖感の軽減を目的とした中等度身体活動量に対する介入について,さらなる研究が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
地域在住高齢者において,身体活動のなかでも中等度身体活動は,独立して転倒恐怖感の有無に影響を与えていることが明らかとなった。これは身体活動の強度により転倒恐怖感に与える影響が変化することを示している。本研究の結果は,地域在住高齢者に対して中等度の身体活動を促すことで,転倒恐怖感を軽減させることに繋がる可能性を示唆するものであると考えられた。