[P3-C-1072] 中高齢登山者を想定した斜面上の片脚立位バランス能力について
キーワード:中高齢者, 斜面, 片脚立位バランス
【はじめに,目的】
登山は健康増進目的に行われることが多い。平成25年度の山岳遭難者を態様別にみると道迷いが41.8%と最も多く,次いで滑落が17.0%,転倒が14.5%である。また全遭難者中40歳以上が73.6%を占めている。更に下山時の転倒事故が多く,下山時には登山者のバランス能力が求められる。よって安全に登山を行うためには登山を想定した中高齢者のバランス能力の検証が必要である。山本らは成人若年者を対象に25%の斜面上において,閉眼片脚立位バランス能力は平地よりも低下すると報告している。しかしながら,下山中に転倒事故が多いのは若年者に比べて中高齢者であり,中高齢者の斜面上でのバランス能力を検討した報告は少ない。本研究の目的は,中高齢登山者を想定した斜面上の片脚立位バランス能力を検討することである。
【方法】
対象は,本格的な登山習慣のない40歳以上の中高年者群13名(平均年齢50.5±5.6歳,身長162.0±7.0cm,体重56.2±12.3kg)と,同じく本格的な登山習慣のない20歳以上40歳未満の対照群15名(平均年齢27.8±4.7歳,身長166.6±11.4cm,体重56.7±11.1kg)とした。腰痛や下肢の関節痛・筋肉痛の訴えがある者は除外した。
斜面は傾斜角度20度の斜面とし,斜面上で片脚立位バランス能力の指標である閉眼片脚立位保持時間を測定した。登り,下りともにストップウォッチを用いて各3回測定し,最高値を採用した。なお,上限値は120秒とした。支持脚は普段ボールを蹴る足の反対側とした。測定はデモンストレーション後に実施し,両上肢は体側に自然に垂らし,支持脚と反対側の足部は支持脚足部より約10cm高く持ち上げ,出来る限り片脚で立ち続けるように指示した。支持脚が最初の床面から移動した時,支持脚の膝関節が30度以上屈曲して重心が下がった時,開眼した時,支持脚以外の身体が床面に接触した時に終了とした。なお,測定中の転倒には十分に注意し実施した。登りと下りの測定間は1分間の休憩を設け,測定順序はランダムとした。履物は,対象者が普段使用しているものとした。
統計学的解析はシャピロ・ウィルクの正規性の検定後に行った。中高齢者群と対照群の差はマン・ホイットニー検定,中高齢者群の登りと下りの差は対応のあるt検定,対照群の登りと下りの差はウィルコクソン符号付順位和検定にて分析し,有意水準は5%とした。統計ソフトはR(2.8.1)を用いた。
【結果】
斜面の登りにおける閉眼片脚立位保持時間は中高齢者群4.7±2.1秒,対照群22.8±22.3秒で両群間に有意差があった(p<0.01,効果量r=0.7)。下りも中高齢者群4.5±1.7秒,対照群26.5±31.0秒(p<0.01,効果量r=0.6)で両群間に有意差があった。中高齢者群,対照群ともにそれぞれ登りと下りの間には有意差はなかった。
【考察】
中高齢者群は対照群に比べて斜面上でのバランス能力が低いことが明らかとなった。これは平地における片脚立位バランスの年代の差を検討した先行研究と同様の傾向であった。高齢者のバランス機能に影響する重要な因子は,足部・足関節の中では足底の触覚感受性,足関節の柔軟性,足趾筋力であるとされており,中高齢者群では対照群よりもこれらの機能が低下している可能性が考えられる。また,登りと下りではバランス能力に有意差はなかった。先行研究によると中高齢登山者における登山中のトラブル発生状況は,筋肉痛,下りで脚がガクガクになる,膝の痛みがワースト3とされている。さらに筋疲労後は片脚立位姿勢の重心動揺が増すと報告されている。よって下山時に転倒が多いのは,下山時の疼痛や筋疲労の発生によるバランス能力の低下が考えられ,今回の登りと下りで差がなかったのは,これら疼痛や筋疲労が影響していないためだと考えられる。
今回は静的な片脚立位バランス能力を評価した。実際の下山歩行では重力の加速度を制御することが最も重要な課題であるとされており,動的なバランス能力が求められる。更に地面の条件や天候,気温,体調不良,高所における恐怖心,下山時の下肢関節痛や筋疲労による筋力低下など様々な要因がバランス能力に影響を及ぼすと考えられ,今後,下山時の転倒の要因をより詳細に検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
斜面上のバランス能力を検討することは,登山や坂道での転倒事故を減少させるための重要な基礎的研究であり,健康増進分野における理学療法の発展に寄与すると考える。
登山は健康増進目的に行われることが多い。平成25年度の山岳遭難者を態様別にみると道迷いが41.8%と最も多く,次いで滑落が17.0%,転倒が14.5%である。また全遭難者中40歳以上が73.6%を占めている。更に下山時の転倒事故が多く,下山時には登山者のバランス能力が求められる。よって安全に登山を行うためには登山を想定した中高齢者のバランス能力の検証が必要である。山本らは成人若年者を対象に25%の斜面上において,閉眼片脚立位バランス能力は平地よりも低下すると報告している。しかしながら,下山中に転倒事故が多いのは若年者に比べて中高齢者であり,中高齢者の斜面上でのバランス能力を検討した報告は少ない。本研究の目的は,中高齢登山者を想定した斜面上の片脚立位バランス能力を検討することである。
【方法】
対象は,本格的な登山習慣のない40歳以上の中高年者群13名(平均年齢50.5±5.6歳,身長162.0±7.0cm,体重56.2±12.3kg)と,同じく本格的な登山習慣のない20歳以上40歳未満の対照群15名(平均年齢27.8±4.7歳,身長166.6±11.4cm,体重56.7±11.1kg)とした。腰痛や下肢の関節痛・筋肉痛の訴えがある者は除外した。
斜面は傾斜角度20度の斜面とし,斜面上で片脚立位バランス能力の指標である閉眼片脚立位保持時間を測定した。登り,下りともにストップウォッチを用いて各3回測定し,最高値を採用した。なお,上限値は120秒とした。支持脚は普段ボールを蹴る足の反対側とした。測定はデモンストレーション後に実施し,両上肢は体側に自然に垂らし,支持脚と反対側の足部は支持脚足部より約10cm高く持ち上げ,出来る限り片脚で立ち続けるように指示した。支持脚が最初の床面から移動した時,支持脚の膝関節が30度以上屈曲して重心が下がった時,開眼した時,支持脚以外の身体が床面に接触した時に終了とした。なお,測定中の転倒には十分に注意し実施した。登りと下りの測定間は1分間の休憩を設け,測定順序はランダムとした。履物は,対象者が普段使用しているものとした。
統計学的解析はシャピロ・ウィルクの正規性の検定後に行った。中高齢者群と対照群の差はマン・ホイットニー検定,中高齢者群の登りと下りの差は対応のあるt検定,対照群の登りと下りの差はウィルコクソン符号付順位和検定にて分析し,有意水準は5%とした。統計ソフトはR(2.8.1)を用いた。
【結果】
斜面の登りにおける閉眼片脚立位保持時間は中高齢者群4.7±2.1秒,対照群22.8±22.3秒で両群間に有意差があった(p<0.01,効果量r=0.7)。下りも中高齢者群4.5±1.7秒,対照群26.5±31.0秒(p<0.01,効果量r=0.6)で両群間に有意差があった。中高齢者群,対照群ともにそれぞれ登りと下りの間には有意差はなかった。
【考察】
中高齢者群は対照群に比べて斜面上でのバランス能力が低いことが明らかとなった。これは平地における片脚立位バランスの年代の差を検討した先行研究と同様の傾向であった。高齢者のバランス機能に影響する重要な因子は,足部・足関節の中では足底の触覚感受性,足関節の柔軟性,足趾筋力であるとされており,中高齢者群では対照群よりもこれらの機能が低下している可能性が考えられる。また,登りと下りではバランス能力に有意差はなかった。先行研究によると中高齢登山者における登山中のトラブル発生状況は,筋肉痛,下りで脚がガクガクになる,膝の痛みがワースト3とされている。さらに筋疲労後は片脚立位姿勢の重心動揺が増すと報告されている。よって下山時に転倒が多いのは,下山時の疼痛や筋疲労の発生によるバランス能力の低下が考えられ,今回の登りと下りで差がなかったのは,これら疼痛や筋疲労が影響していないためだと考えられる。
今回は静的な片脚立位バランス能力を評価した。実際の下山歩行では重力の加速度を制御することが最も重要な課題であるとされており,動的なバランス能力が求められる。更に地面の条件や天候,気温,体調不良,高所における恐怖心,下山時の下肢関節痛や筋疲労による筋力低下など様々な要因がバランス能力に影響を及ぼすと考えられ,今後,下山時の転倒の要因をより詳細に検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
斜面上のバランス能力を検討することは,登山や坂道での転倒事故を減少させるための重要な基礎的研究であり,健康増進分野における理学療法の発展に寄与すると考える。