第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

予防理学療法5

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1075] 最大1歩幅と転倒との関連について

齋藤孝義1, 菅沼一男2, 丸山仁司3 (1.クロス病院リハビリテーション科, 2.帝京科学大学医療科学部東京理学療法学科, 3.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:最大1歩幅, つまずき, 転倒

【はじめに・目的】
転倒は骨折などを通じ高齢者の生活機能障害を引き起こす危険因子であり,転倒の要因については多くの報告がなされている。なかでも「つまずく」状況は高齢者の転倒の状況として最も多いと言われる。「つまずき」は高齢者に頻発すると考えがちであるが,若年者でも頻繁につまずいている。転倒しやすい高齢者は若年者に比べつまずいた後に適切に体勢を立て直す制御が行われず,つまずいた後に転倒に至るのではないかと考えた。通常つまずいた後は1歩踏み出すことによって支持基底面を広げ体勢を立て直す。
そのため,大きく1歩を踏み出すことができるものはつまずいた後転倒に至らないのではないかと考えた。そこで本研究は前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅を測定し転倒群と非転倒群で比較することによって最大1歩幅の大きさと転倒との関連を検討することを目的とした。

【方法】
対象は自立歩行が可能な65歳以上の当院外来通院者30名(男性6名・女性24名)年齢77.2±7.8歳,身長155.5±7.2cm,体重51.3±10.2kgとした。過去半年間の転倒経験の有無を聴取し転倒群17名(男性1名・女性16名)と非転倒群13名(男性5名・女性8名)に分類した。転倒群は年齢79.1±6.8歳,身長153.0±7.3cm,体重48.2±9.8kg,非転倒群は年齢74.8±8.8歳,身長158.8±5.8cm,体重55.2±9.7kgであり両群の属性に差は認められなかった。なお,測定に影響を及ぼすと考えられる下肢整形外科疾患ならびに中枢神経疾患などを有する者は除外した。前方への最大1歩幅の測定は床に目印になる線を引き両側のつま先を線に合わせた後,可能な限り前方へ踏み出してもらい踏み出したつま先までの距離を測定した。側方への最大1歩幅の測定は床に目印になる線を引き,右足の第5中足骨を線に合わせた。その後,可能な限り側方へ踏み出してもらい踏み出した最も遠い第5中足骨先端までの距離を測定した。前方への最大1歩幅,側方への最大1歩幅ともに踏み出す足は利き足とし対象者全て利き足が右であったことから右足を測定肢とした。測定回数は3回とし,最大値の小数点第1位で四捨五入した。転倒群と非転倒群の測定値の群間比較には対応のないt検定を用い,前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅の関係についてはピアソンの相関係数を求めた。統計ソフトはPASW Statistics18を使用し危険率5%未満をもって有意と判断した。

【結果】
転倒群と非転倒群の測定値の群間比較は,転倒群において前方への最大1歩幅は76.4±12.7cm,側方への最大1歩幅は74.4±15.3cmであった。非転倒群においての前方への最大1歩幅は90.5±11.3cm,側方への最大1歩幅は87.9±10.1cmであった。2群間に差が認められ転倒群では前方への最大1歩幅,側方への最大1歩幅ともに有意に減少した(p<0.01)。また,転倒群での前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅の相関はr=0.931,非転倒群での前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅の相関はr=0.879と転倒群,非転倒群ともにかなり強い相関がみられた。

【考察】
本研究は前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅を測定し転倒群と非転倒群で比較することによって最大1歩幅の大きさと転倒との関連を検討した。転倒群,非転倒群の群間比較において差が認められ転倒群の測定結果が有意に減少した。このことから転倒を経験している者は転倒を経験していない者に比べ前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅が減少すると考えた。また,転倒群,非転倒群において群間内で前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅に強い相関がみられたことから転倒群は前方への最大1歩幅と側方への最大1歩幅どちらか一方の低下によって転倒に至るのではなく,両方の機能が低下し転倒につながると考えた。

【理学療法学研究としての意義】
転倒予測を目的とした研究は,数多く報告されている。5m歩行や,Functional reach test,Time up & go testなどいずれもカットオフ値が報告されている測定項目である。これらの測定は簡便に行うことができるため転倒予測として臨床では頻繁に使用されている。しかし,これらの測定項目はあくまで「転倒」を一括りにとらえてしまい,転倒に至る原因である,つまずき,すべり,よろめき,踏み外しなどに着目している評価項目は少ない。本研究のようにこれら転倒の原因に至る動作を検証することで様々な測定を組み合わせて適切な転倒リスクの評価が行えると考えられる。