[P3-C-1081] 地域在住高齢者における栄養障害と歩行時の姿勢安定性との関連
―小型センサによる歩行評価は栄養障害による機能低下を鋭敏に反映する―
キーワード:地域在住高齢者, 栄養障害, 歩行
【はじめに,目的】
高齢者における低栄養は虚弱状態やサルコペニアと関連し,身体機能やADL能力,QOLの低下につながることから,その予防・改善は非常に重要である。地域在住高齢者においても,10-40%の者は栄養障害を生じ,低栄養となるリスクが高い状態になっていることが報告されている。そのような高齢者は,骨格筋の機能低下や運動制御機能の低下によって,身体機能が低下していると考えられる。一方で,地域在住高齢者の多くは自立した日常生活を過ごしており,重大な身体機能低下は生じていない。歩行は,日常生活において行うことの最も多い動作の一つであることから,その安定性を維持することは重要である。近年,小型センサを用いた歩行時の姿勢安定性の評価が注目されている。加速度センサによる歩行評価は歩行動作を様々な側面から評価することが可能であることから,栄養障害による身体機能低下を,その他の身体機能評価と比較しても,より鋭敏に反映するのではないかと考えられる。しかし,栄養障害と歩行時の姿勢安定性を含めた身体機能の低下とが関連しているのかどうかは,未だ明確になっていない。栄養障害が生じている高齢者において,身体機能が低下しているのかどうかを明らかにすることは,その後の様々な機能低下を予防する上では重要となると考える。
以上より本研究の目的は,地域在住高齢者における栄養障害と,歩行時の姿勢制御機能を含めた身体機能の低下とが関連しているのかどうかを検討することとした。
【方法】
対象は,日常生活が自立している地域在住高齢者213名の内,除外基準を満たす者を除く206名(平均年齢73.4±4.3歳,女性107名)とした。除外基準は,独歩が不可能な者,歩行に影響を及ぼす神経疾患を有する者(脳血管障害,パーキンソン病など)とした。栄養状態の評価には,簡易栄養状態評価表(mini nutritional assessment-short form;MNA-SF)を用いた。歩行時の姿勢安定性の評価として,下部体幹(第3腰椎棘突起部)に小型加速度センサを装着し,自由歩行中の3方向(鉛直,側方,前後方向)の加速度データの計測を行った。得られた加速度データから波形のなめらかさの指標であるHarmonic Ratio(HR)を算出し,姿勢安定性の指標とした。また,歩行速度の計測もあわせて実施した。その他の身体機能の評価として,握力計測(筋力の評価),5-Chair-stand test(5CS,下肢筋機能の評価),片脚立位検査(バランス機能の評価)を行った。統計解析は,MNA-SFの結果より11点以下の栄養障害群,12点以上の栄養状態良好群に対象者を分類し,対応のないt検定を用いて各検査結果の群間比較を行った。群間に有意な差があった項目については,年齢,性別,身長,体重の項目を調整因子とした群間比較も行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は,MNA-SFの得点より47名の栄養障害群(22.8%,73.8±4.8歳,女性:22名),159名の栄養状態良好群(77.2%,73.2±4.1歳,女性:85名)に分類された。鉛直および前後方向のHR,握力,5CS,片脚立位時間,歩行速度には群間に有意差は認められなかったが,側方方向のHRの値は栄養障害群が栄養状態良好群と比較して有意に低値であった(栄養障害群:1.91±0.48,栄養状態良好群:2.25±0.67,p=0.001)。また,年齢,性別,身長,体重の項目による調整後も,栄養状態は側方方向のHRと有意に関連していた(p<0.05)。
【考察】
地域在住高齢者において,歩行速度を含めた身体機能は栄養障害との有意な関連がみられなかったが,栄養障害が生じている者は,栄養状態が良好な高齢者と比較して歩行時の側方方向の姿勢安定性が低下していることが明らかとなった。動作を詳細に評価することが可能である小型センサを用いた歩行分析の中でも,歩行時の側方方向の姿勢制御機能は転倒リスク増大との関連性が強いことも報告されていることから,高齢者における栄養障害による軽度の機能低下を鋭敏に反映したのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,栄養障害を有する地域在住高齢者に対しては,栄養状態の改善をはかるとともに,運動療法を組み合わせて安定した歩行を獲得する必要性が示唆された。また,栄養障害群の身体機能低下は簡便な評価方法では判別できなかったことから,地域在住高齢者における理学療法士による歩行時の姿勢安定性の詳細な評価の必要性が示されたのではないかと考える。
高齢者における低栄養は虚弱状態やサルコペニアと関連し,身体機能やADL能力,QOLの低下につながることから,その予防・改善は非常に重要である。地域在住高齢者においても,10-40%の者は栄養障害を生じ,低栄養となるリスクが高い状態になっていることが報告されている。そのような高齢者は,骨格筋の機能低下や運動制御機能の低下によって,身体機能が低下していると考えられる。一方で,地域在住高齢者の多くは自立した日常生活を過ごしており,重大な身体機能低下は生じていない。歩行は,日常生活において行うことの最も多い動作の一つであることから,その安定性を維持することは重要である。近年,小型センサを用いた歩行時の姿勢安定性の評価が注目されている。加速度センサによる歩行評価は歩行動作を様々な側面から評価することが可能であることから,栄養障害による身体機能低下を,その他の身体機能評価と比較しても,より鋭敏に反映するのではないかと考えられる。しかし,栄養障害と歩行時の姿勢安定性を含めた身体機能の低下とが関連しているのかどうかは,未だ明確になっていない。栄養障害が生じている高齢者において,身体機能が低下しているのかどうかを明らかにすることは,その後の様々な機能低下を予防する上では重要となると考える。
以上より本研究の目的は,地域在住高齢者における栄養障害と,歩行時の姿勢制御機能を含めた身体機能の低下とが関連しているのかどうかを検討することとした。
【方法】
対象は,日常生活が自立している地域在住高齢者213名の内,除外基準を満たす者を除く206名(平均年齢73.4±4.3歳,女性107名)とした。除外基準は,独歩が不可能な者,歩行に影響を及ぼす神経疾患を有する者(脳血管障害,パーキンソン病など)とした。栄養状態の評価には,簡易栄養状態評価表(mini nutritional assessment-short form;MNA-SF)を用いた。歩行時の姿勢安定性の評価として,下部体幹(第3腰椎棘突起部)に小型加速度センサを装着し,自由歩行中の3方向(鉛直,側方,前後方向)の加速度データの計測を行った。得られた加速度データから波形のなめらかさの指標であるHarmonic Ratio(HR)を算出し,姿勢安定性の指標とした。また,歩行速度の計測もあわせて実施した。その他の身体機能の評価として,握力計測(筋力の評価),5-Chair-stand test(5CS,下肢筋機能の評価),片脚立位検査(バランス機能の評価)を行った。統計解析は,MNA-SFの結果より11点以下の栄養障害群,12点以上の栄養状態良好群に対象者を分類し,対応のないt検定を用いて各検査結果の群間比較を行った。群間に有意な差があった項目については,年齢,性別,身長,体重の項目を調整因子とした群間比較も行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は,MNA-SFの得点より47名の栄養障害群(22.8%,73.8±4.8歳,女性:22名),159名の栄養状態良好群(77.2%,73.2±4.1歳,女性:85名)に分類された。鉛直および前後方向のHR,握力,5CS,片脚立位時間,歩行速度には群間に有意差は認められなかったが,側方方向のHRの値は栄養障害群が栄養状態良好群と比較して有意に低値であった(栄養障害群:1.91±0.48,栄養状態良好群:2.25±0.67,p=0.001)。また,年齢,性別,身長,体重の項目による調整後も,栄養状態は側方方向のHRと有意に関連していた(p<0.05)。
【考察】
地域在住高齢者において,歩行速度を含めた身体機能は栄養障害との有意な関連がみられなかったが,栄養障害が生じている者は,栄養状態が良好な高齢者と比較して歩行時の側方方向の姿勢安定性が低下していることが明らかとなった。動作を詳細に評価することが可能である小型センサを用いた歩行分析の中でも,歩行時の側方方向の姿勢制御機能は転倒リスク増大との関連性が強いことも報告されていることから,高齢者における栄養障害による軽度の機能低下を鋭敏に反映したのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,栄養障害を有する地域在住高齢者に対しては,栄養状態の改善をはかるとともに,運動療法を組み合わせて安定した歩行を獲得する必要性が示唆された。また,栄養障害群の身体機能低下は簡便な評価方法では判別できなかったことから,地域在住高齢者における理学療法士による歩行時の姿勢安定性の詳細な評価の必要性が示されたのではないかと考える。