[P3-C-1090] 通所リハビリテーションにおける転倒経験者に対する体系的転倒予防介入システムの構築と導入の取り組み紹介
キーワード:通所リハビリテーション, 転倒予防, 要介護
【はじめに,目的】
通所リハビリテーション(通所リハ)利用者は,健常高齢者より転倒及び骨折の受傷リスクが非常に高い状態である。当施設の事前調査結果より,平均月間利用者数117.8±5.5名の内,過去1年間の転倒数は181件,68名,内34名は複数回転倒者であり,通所リハ利用者の転倒予防は重要な課題である。しかし,転倒予防の先行研究は,日常生活自立者や未転倒者を対象としたものが多く,通所リハ利用者の様な要介護者や複数回転倒者に対する効果的な報告は少ない。また,転倒は身体機能や生活環境など多要因により生じるため,既存の転倒予測評価や運動介入のみでは転倒を予期し,未然に防ぐことは難しいと考える。そこで,本研究は通所リハにおいて実務的に実践可能で,多要因に対する体系的転倒予防介入システムを独自に構築かつ導入したため,その取り組みに関して報告する。
【方法】
対象は平成26年7月1日から9月30日に当院通所リハ利用者の内,下記の転倒基準に該当する者とした。転倒予防介入システムは,①個々の転倒の詳細な記録,②転倒ハイリスク者の抽出,③転倒ハイリスク者のリスク評価及び原因検証,④介入計画立案,⑤介入の実施の5段階で構成した。転倒記録方法は,個別リハビリ実施時に利用者又は送迎時に家族から,前回利用時以降の転倒の有無を毎回聴取した。聴取後,転倒者は独自に作成した用紙に日時,時間,転倒場所,外傷の有無,想起される要因,転倒後の対応などを詳細に記録した。また,パソコンに作成したデータベースに転倒情報を入力し,基準(「複数回転倒」又は「外傷を負った転倒」)に該当する転倒ハイリスク者を定期的に抽出できるようにした。抽出された者に対し,身体機能評価,病院受診状況や服薬の再確認などを実施し,個別に転倒原因や危険因子を検証した。検証結果を基に複数の専門職によるカンファレンスにて介入計画を立案し,方針を決定した。主な介入戦略は,運動,環境設定,家族指導,専門機関の受診や服薬見直しの提案などである。方針決定後,家族とケアマネージャーに連絡をとり,自宅でサービス担当者会議を開催し,利用者と家族の同意のもと環境設定や家族指導など立案した介入を実施した。また,自宅内の転倒危険個所を網羅できる環境調査表を独自に作成し,自宅訪問後の情報共有に用いた。
【結果】
期間中の全転倒者数は23名であった。上述の基準を満たした者として,「複数回転倒」は13名,「外傷を負った転倒」は17名,両基準の該当者は11名であった。両基準の該当者の内5名(年齢:82±5.6歳,転倒回数:2.6±1.5回,介護度:要支援1から要介護3)に対して,上述の介入プロトコルに則り,多要因に対する転倒予防介入を実施した。4名は介入の受け入れ良好であり,内1名は介入前後3か月間の転倒回数は4回から2回に減少し,他3名は介入後の観察日数(3ヵ月未満)上では転倒回数は0回であった。しかし,1名は本人と理学療法士の間に,病態や社会的サービスの必要性の理解に乖離があり多要因介入は困難であった。また,介入前後3か月間の転倒回数は共に2回と変化を認めなかった。
【考察】
当施設が構築した転倒予防介入システムとは,「統一の転倒記録」「転倒ハイリスク者の効率的抽出」「多要因介入」から主に構成されている。システム導入後の変化として,データベース作成により転倒ハイリスク者の特定が容易となり,複数の専門職間での情報交換量の増加や迅速に転倒ハイリスク者の状況に応じた対応が可能となった。さらに,転倒記録を基にした原因検証とリスク評価,家屋環境評価の実施により,従来よりも的確な運動介入や環境調整の実施が可能となった。短期間であるがシステムは実務的に実践可能であった。しかし,不十分な病態理解や介入以外の場所での転倒が原因で,全ての介入者の転倒回数を0回にすることは困難であった。また,転倒知識の不足が介入の受け入れという点において,多要因介入に影響を与えると示唆される。よって転倒予防には,利用者の教育的介入が必要不可欠であると考え,転倒の予後や知識,予防方法,環境設定の重要性などの内容の講義を多要因介入の一要素として実施予定である。今後の課題は,介入実施者に対する追跡調査や対象者数の増加,非介入者との比較などによる当システムの効果の検証である。
【理学療法学研究としての意義】
転倒ハイリスク者の効率的抽出や多要因介入が可能な体系的転倒予防介入システムの導入は,居宅要介護者の転倒予防に貢献できると示唆され,地域リハビリに従事する理学療法士の新たな役割としての発信や発展に繋がると考える。
通所リハビリテーション(通所リハ)利用者は,健常高齢者より転倒及び骨折の受傷リスクが非常に高い状態である。当施設の事前調査結果より,平均月間利用者数117.8±5.5名の内,過去1年間の転倒数は181件,68名,内34名は複数回転倒者であり,通所リハ利用者の転倒予防は重要な課題である。しかし,転倒予防の先行研究は,日常生活自立者や未転倒者を対象としたものが多く,通所リハ利用者の様な要介護者や複数回転倒者に対する効果的な報告は少ない。また,転倒は身体機能や生活環境など多要因により生じるため,既存の転倒予測評価や運動介入のみでは転倒を予期し,未然に防ぐことは難しいと考える。そこで,本研究は通所リハにおいて実務的に実践可能で,多要因に対する体系的転倒予防介入システムを独自に構築かつ導入したため,その取り組みに関して報告する。
【方法】
対象は平成26年7月1日から9月30日に当院通所リハ利用者の内,下記の転倒基準に該当する者とした。転倒予防介入システムは,①個々の転倒の詳細な記録,②転倒ハイリスク者の抽出,③転倒ハイリスク者のリスク評価及び原因検証,④介入計画立案,⑤介入の実施の5段階で構成した。転倒記録方法は,個別リハビリ実施時に利用者又は送迎時に家族から,前回利用時以降の転倒の有無を毎回聴取した。聴取後,転倒者は独自に作成した用紙に日時,時間,転倒場所,外傷の有無,想起される要因,転倒後の対応などを詳細に記録した。また,パソコンに作成したデータベースに転倒情報を入力し,基準(「複数回転倒」又は「外傷を負った転倒」)に該当する転倒ハイリスク者を定期的に抽出できるようにした。抽出された者に対し,身体機能評価,病院受診状況や服薬の再確認などを実施し,個別に転倒原因や危険因子を検証した。検証結果を基に複数の専門職によるカンファレンスにて介入計画を立案し,方針を決定した。主な介入戦略は,運動,環境設定,家族指導,専門機関の受診や服薬見直しの提案などである。方針決定後,家族とケアマネージャーに連絡をとり,自宅でサービス担当者会議を開催し,利用者と家族の同意のもと環境設定や家族指導など立案した介入を実施した。また,自宅内の転倒危険個所を網羅できる環境調査表を独自に作成し,自宅訪問後の情報共有に用いた。
【結果】
期間中の全転倒者数は23名であった。上述の基準を満たした者として,「複数回転倒」は13名,「外傷を負った転倒」は17名,両基準の該当者は11名であった。両基準の該当者の内5名(年齢:82±5.6歳,転倒回数:2.6±1.5回,介護度:要支援1から要介護3)に対して,上述の介入プロトコルに則り,多要因に対する転倒予防介入を実施した。4名は介入の受け入れ良好であり,内1名は介入前後3か月間の転倒回数は4回から2回に減少し,他3名は介入後の観察日数(3ヵ月未満)上では転倒回数は0回であった。しかし,1名は本人と理学療法士の間に,病態や社会的サービスの必要性の理解に乖離があり多要因介入は困難であった。また,介入前後3か月間の転倒回数は共に2回と変化を認めなかった。
【考察】
当施設が構築した転倒予防介入システムとは,「統一の転倒記録」「転倒ハイリスク者の効率的抽出」「多要因介入」から主に構成されている。システム導入後の変化として,データベース作成により転倒ハイリスク者の特定が容易となり,複数の専門職間での情報交換量の増加や迅速に転倒ハイリスク者の状況に応じた対応が可能となった。さらに,転倒記録を基にした原因検証とリスク評価,家屋環境評価の実施により,従来よりも的確な運動介入や環境調整の実施が可能となった。短期間であるがシステムは実務的に実践可能であった。しかし,不十分な病態理解や介入以外の場所での転倒が原因で,全ての介入者の転倒回数を0回にすることは困難であった。また,転倒知識の不足が介入の受け入れという点において,多要因介入に影響を与えると示唆される。よって転倒予防には,利用者の教育的介入が必要不可欠であると考え,転倒の予後や知識,予防方法,環境設定の重要性などの内容の講義を多要因介入の一要素として実施予定である。今後の課題は,介入実施者に対する追跡調査や対象者数の増加,非介入者との比較などによる当システムの効果の検証である。
【理学療法学研究としての意義】
転倒ハイリスク者の効率的抽出や多要因介入が可能な体系的転倒予防介入システムの導入は,居宅要介護者の転倒予防に貢献できると示唆され,地域リハビリに従事する理学療法士の新たな役割としての発信や発展に繋がると考える。