第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

支援工学理学療法2

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1104] 脳卒中発症後,早期に使用する治療用短下肢装具の考案

平山史朗1, 島袋公史1,2, 加治屋司1, 今村健二1, 高田稔3, 渡邉英夫1 (1.社会保険大牟田天領病院, 2.佐賀大学大学院医学系研究科, 3.(有)高島義肢製作所)

Keywords:脳卒中, 早期理学療法, 短下肢装具

【はじめに,目的】
脳卒中発症後,早期に下肢装具を導入してリハビリテーション(リハ)を実施することは効果的である。しかしながら,早期リハが実施される急性期の施設では限られた常備の下肢装具の中から選定されていると思われるので,病態に適ったものが使用されているとは限らないと推察する。概ねリジットな短下肢装具(AFO)で,足関節が固定に近い機能のものが使用されているものと思われる。

そこで,我々は遊脚中期に前足部を引きずらない至適の背屈補助力が調節できて,立脚初期の踵接地後にも底屈制動が期待できる治療用AFOを考案したので,その有用性について検討したので報告する。

《治療用AFOの紹介》

今回考案した治療用AFOは二方向調節式足継手付のプラスチックAFOを利用し,ギボシをAFOの中足趾節関節部に1個と下腿部上縁から下方へ等間隔に3個を両側面に取り付け,そこにゴムバンドを掛けることで背屈補助力を発生させた。背屈補助力の調節はゴムバンドの数と下腿部に取り付けたギボシに掛ける位置でゴムバンドの張力を変えることで行えるようにした。なお,足継手の設定は基本的に底屈フリーとし,背屈の可動域は病態,特に膝関節の安定性に応じて調節する。
【方法】
治療用AFOの機能を検証するために,治療用AFOと急性期の施設で汎用されていると思われるプラスチックAFO(シューホーン型AFO,SH)をポリプロピレン4mmの材料を用いて製作した。治療用AFOの足継手にはPDC足継手(二方向調節式)を採用し,またSHの初期背屈角度は5°に設定した。いずれも,左右兼用デザインとした。《症例紹介》40代男性のCVA患者で発症後,約7週を経過し麻痺側下肢には関節可動域制限は認めず,下肢の麻痺はBrunnstrom stage IVであった。歩行はT杖と常備のAFO装着で監視levelで,遊脚期には下垂足を認めた。《検証内容》1)10m歩行スピード,2)遊脚中期の足関節角度,3)立脚初期の足関節角度,4)装着感とした。2)は膝関節裂隙部,外果部から下ろした垂線と足底部が交わるところ及び第5中足骨頭部の各々にマーキングを施し,矢状面よりデジタルカメラで得た歩行の二次元情報から遊脚中期(対側下肢と交わるコマ)と立脚初期(踵接地から2コマ目)の画像を目視にて抽出,画像処理ソフトImage Jを用いてそれぞれの足関節角度を計測した。4)はSHと治療用AFOをVisual Analog Scale(VAS)を用いて,0:快適~10:歩行困難と規定して比較した。歩行条件は快適歩行とし,裸足,SH,至適背屈補助力に設定した治療用AFO装着時の3条件とし,いずれも3回測定した平均値を求めた。
【結果】
1)10m歩行スピードは裸足が他の条件と比べ延長していたが,SHと治療用AFOは同程度であった。2)遊脚中期の足関節角度は裸足で底屈2°でSHと治療用AFOはいずれも背屈5°でtoe clearanceは良好であった。3)立脚初期の足関節角度では裸足は底屈4°,SHは背屈5°,治療用AFOは底屈5°であり治療用AFOはSHと比較して踵接地以降は底屈位に制動されていた。4)装着感についてはいずれのAFOも同程度であった。
【考察】
脳卒中ガイドラインでは早期に装具を用いて起立・歩行練習を実施することは推奨されているが,この時期は病態が変化するため,適宜,病態に適ったAFOを選定していく必要がある。治療用AFOは二方向調節式足継手を使用していることから,早期の介入で随意性が乏しい場合は背屈0°固定に設定し,麻痺の回復に伴って背屈の可動性を許しながら,ゴムの張力を利用して遊脚中期に前足部を引きずらない背屈補助力が調節できる。病態が安定した症例で検証したところ歩行スピードや装着感も従来のAFOと同等で,立脚初期の底屈制動効果も確認できた。過度に制限や制動をかけることなく,適切な機能のAFOで歩行練習することは有意義であり,病態が変化する急性期リハ期間の一時的な使用の常備のAFOとして有用と思われる。また,この治療用AFOは上述のように多機能であるので,急性期リハを担当する施設では常備用AFOの数を減らせ,病態に応じた早期の歩行練習に寄与するので重宝すると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中発症後,早期の病態が変化する時期に,その変化に応じた機能を有する装具を用いてリハを実施することは有意義である。今回考案した治療用AFOは二方向への可動性とゴムによる背屈補助や底屈制動の調節が可能であることから早期の歩行練習において過度に底屈制限しないので,麻痺の回復にも奏功すると思われることから臨床的意義は高いと考える。