第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

がん その他2

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1126] 終末期がん患者の日常生活活動と理学療法介入

國澤洋介1,2, 小林大祐2, 武井圭一2, 森本貴之2, 新井健一2, 小関要作1,2, 高倉保幸1,2, 山本満2 (1.埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科, 2.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション部)

Keywords:がん, 終末期, 日常生活活動

【はじめに,目的】近年,がん患者に対するリハビリテーションが普及し,予防的・回復的な関わりのみならず,維持的・緩和的といった終末期がん患者への対応も増加している。終末期がん患者では,日常生活活動(ADL)の大幅な改善が望めない症例も多く,ADLの低下が進む中での生活の質(QOL)の向上を目的とした理学療法(PT)が行われている。本研究は,死亡退院となった終末期がん患者のPT実施状況および生存期間とADLの推移を調査し,終末期がん患者におけるPT介入の必要性やタイミング,考慮すべきADLの特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,平成25年度に入院しPTを実施したがん患者418例のうち,死亡退院となった57例とした。除外基準は,転帰が自宅退院であった者(260例),転院であった者(75例),およびPT中断により経過が不明であった者(26例)とした。対象の内訳は,年齢の中央値(25-75%値)が71(63-78)歳,在院日数の中央値は49(33-78)日,性別は男性36例,女性21例であり,がん種は,食道がん3例,胃がん3例,大腸がん4例,肝臓がん3例,膵臓がん2例,肺がん17例,乳がん1例,子宮がん4例,卵巣がん1例,甲状腺がん1例,悪性リンパ腫5例,白血病4例,その他9例であった。方法は診療録内容の後方視的観察研究とし,PT介入に関する情報では,入院からPT開始までの期間,PT実施期間,最終PT実施から死亡までの期間について収集した。ADLに関する情報では,移動,食事摂取,水分摂取,会話,応答について,障害が発生してからの期間を調査した。各ADLについては先行研究を参考に,移動では何とかトイレに行くことが可能な状態,食事摂取では経口による固形物の摂取が可能な状態,水分摂取では経口による液状物の摂取が可能な状態,会話では単語を意味のある文章に順序立てて発することが出来る状態,応答では問いや話しかけに何らかの反応を示す状態を自立とした。
【結果】各項目の中央値(25-75%値)として,入院からPT開始までの期間は20(11-35)日,PT実施期間は22(9-36)日,最終PT実施から死亡までの期間は1(1-4)日であり,死亡直前(1週間以内)の介入は93%(53/57例)であった。各ADLが障害されてからの生存期間の中央値(25-75%値)は,移動が8(4-22)日,食事摂取が6(2-13)日,水分摂取が5(1-11)日,会話が2(1-4)日,応答が1(1-2)日であった。
【考察】今回,死亡退院となったがん患者のPT介入において,50%の症例で在院日数(49日)の約半分である22日間の介入が可能であった。また,死亡の直前まで介入していたものは93%であり,限られた介入期間の中で信頼関係を構築し,最期までPTの関わりが意味を持っていたことが示唆された。一方,入院からPT開始までの期間は中央値が20日と比較的長く,生存期間の限られている症例に対するPT介入の判断に迷う場面が多い可能性が考えられた。生存期間とADLの障害との関係については,死亡の2週間程度前より障害が発生し,1週間前より急速にその発生頻度が上昇する傾向は先行研究と同様であった。しかし,移動については,他の報告に比べて早い段階で障害を認めた例もあり,基本動作能力の低下を機にPTが介入していた可能性も考えられた。会話,応答,移動といったADLの推移から,終末期におけるPT介入では,意思決定をできる限り最期まで尊重し,移動能力が障害されてからの期間における活動内容にも焦点をあてた対応が重要になると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】がん患者に対する理学療法では,予防的・回復的といった比較的早い段階での対応が多くを占めている。一方で緩和ケア病棟や在宅など終末期がん患者に対するPTの関与も徐々に増えている。このような終末期がん患者に対するPTの介入については,個別性が高く,その必要性や重要度も症例により異なることが多いとされる。本研究は,どの時期にどの内容を重視してPT介入を進めるべきかを検討する上での重要な資料になると考える。