第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

がん その他2

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1129] がん患者における基本動作評価法についての検討

大津勇介, 山鹿隆義, 中曽根沙妃, 松森圭司, 上野七穂, 岡本梨江, 吉村康夫 (信州大学医学部附属病院リハビリテーション部)

Keywords:がん, 基本動作, 身体活動量

【はじめに,目的】
がん患者へのリハビリテーション(以下,がんリハ)の目的にQOL向上が挙げられる。石井ら(2014)はQOLと身体活動量に相関があると考察しており,他疾患においても身体活動量の研究が注目されている。近年,がん患者の基本動作に着目している文献は散見するが評価法は統一されていない。一般的に基本動作の評価法は,臼田ら(2002)が開発したFunctional Movement Scale(以下,FMS),中山ら(2001)が報告したAbility for Basic Movement Scale(以下,ABMS)であり双方とも介助量により評価している。しかしFMS,ABMSのがん患者に対する妥当性は検証されていない。本研究は,がん患者におけるFMS,ABMSとActivities of Daily Living(以下,ADL),身体活動量の関係性を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は当院に入院加療し,悪性腫瘍と診断され,リハビリ依頼のあった12名(年齢66±10歳,男性8名,女性4名)。原発巣は食道がん5名,肺がん2名,直腸がん1名,胃がん1名,腎がん1名,乳がん1名,骨髄腫1名であった。明らかな意識障害,認知機能低下の症例は対象から除外した。基本動作能力はFMS,ABMS,日常生活動作能力は,しているADLとして,Functional Independence Measureの運動項目(以下,m-FIM),身体活動量は生活習慣記録機(以下,ライフコーダGS)を用いて歩数,身体活動時間を計測し,配布した翌日より3日間の平均値を使用した。また,全身状態の指標としてPerformance Status(以下,PS)を用い,PS 0~2を良好群,PS 3~4を不良群として群分けを行い,統計学的解析を行った。統計学的分析は有意水準5%でSpearmanの順位相関係数を用いた。解析ソフトはSPSS19を使用した。
【結果】
FMSの総得点は良好群が44±4点,不良群が24±4点。ABMSは良好群が30±0点,不良群は26±2点。m-FIMは良好群が88±2点,不良群が56±13点。歩数は良好群が3824±2143歩,不良群が451±525歩,活動時間は良好群が48.0±28.8分,不良群が4.8±5.8分であった。各項目の相関は,良好群ではFMSとm-FIM(r=.995),活動時間(r=.736)で強い相関を認めた。しかし,FMSと歩数は有意な相関を認めなかった。ABMSは良好群の対象者全てが満点であり統計解析を行えなかった。不良群ではどの項目もABMS,FMSとの有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究の結果より,良好群ではFMSと日常生活動作能力,身体活動量に強い相関を認めたが,不良群では,どの項目もFMS,ABMSと相関を認めなかった。基本動作の定義は,著者により異なるが「生活動作を行うために必要な動作」という点ではほぼ一致している。本研究の良好群での結果は,過去の研究を支持しているが,不良群では,FMS,ABMSで測定された基本動作能力が生活動作を行うために必要な動作を反映していない可能性があることが示唆された。身体状態が悪化したがん患者の場合,介助量ではなく他の要因を考慮する必要があり,これら要因を考慮した疾患特異性の高い基本動作の評価法が必要であると考える。
今回の研究の限界として,研究対象者数が少なく,また対象者の原疾患に偏りがあり,がん患者全体を反映しているわけではないことが挙げられる。

【理学療法学研究としての意義】
基本動作能力は理学療法士が評価,治療を行う必要のある重要な動作である。今回の研究結果より既存の基本動作評価法では身体状態が悪化したがん患者の生活動作能力を正確に捉えていないことが示唆された。今後,がん患者に対して妥当性・信頼性のある基本動作能力評価法の作成が必要である。