第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

がん その他2

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1132] 2度にわたる手術,低栄養,筋力低下から回復し,独歩で自宅退院に至った横行結腸癌イレウスの一例

主に栄養面に着目して

碓井孝治1, 藤吉健史1, 中波暁2 (1.市立砺波総合病院総合リハビリテーションセンター, 2.市立砺波総合病院リハビリテーション科)

キーワード:栄養管理, 癌性イレウス, 併存症

【はじめに,目的】
近年,リハビリテーションにおいても栄養が注目されるようになり,その重要性や効果について様々な研究報告がなされている。今回,種々の併存症を有する横行結腸癌イレウス患者に対し,術後から栄養サポートチーム介入下での栄養管理や理学療法を行い,独歩にて自宅退院できた症例を担当したので報告する。
【方法】
患者は80歳代女性。併存症として糖尿病,高血圧症,脂質異常症,脂肪肝,慢性心不全(疑い)があった。入院7日前に腹痛・嘔吐にて当院内科に紹介受診。入院当日に横行結腸癌イレウス疑いで外科に紹介となり,緊急手術(回腸ストマ造設術)施行。入院第2病日に酸素化障害を認め,呼吸理学療法処方となった。
栄養面に着目した初期評価としては,①身体所見:身長143cm,体重45kg,BMI22.0と標準体型だが,両上肢に軽度の,両下肢に著明な浮腫を認めた。②胸部X線写真:両側横隔膜の軽度挙上と左胸水を認めた。③Mini Nutritional Assessment-Short Form:7/14点と低栄養であった。④血液生化学検査:総蛋白3.4g/dl,アルブミン(以下,Alb)1.2 g/dl,C反応性蛋白(以下,CRP)12.7 mg/dl,白血球数(以下,WBC)22,400/mm3,ヘモグロビン11.3 g/dl,リンパ総数1,130/μlであった。⑤呼吸状態:リザーバーマスク10l/分で酸素飽和度95%,呼吸数18回/分,呼吸音は背側で軽度の捻髪音を認めた。⑥vital sign:体温37.1℃,心拍数101回/分,血圧71/41mmHg,深夜尿量150ml/8時間であった。なお,術中水分出納は+1,500ml,術前の日常生活動作(以下,ADL)はすべて自立し独歩可能であった。主治医と相談し,25%Alb補充が行われ,理学療法は機能的残気量増加目的に頭部挙上を行いながらの介入となった。
【結果】
1.第1期手術後(入院第1~20病日):経口摂取再開と歩行再獲得が目標となった。Alb補充とそれに続く利尿薬投与によって,心不全増悪もなく利尿がついてきたため,第3病日には酸素を減量し,嚥下評価並びに座位を開始した。以後,食事も開始となり順調に歩行を進めていたが,第8病日からWBC,CRPが上昇したために離床中止。第10病日になってストマ脇から便汁を排泄,瘻孔形成が疑われ,抗生剤治療とドレナージが行われた。その後炎症は落ち着き,離床を再開した。一方,食事摂取量は当初からおよそ1,000kcal以下と少なく,エレンタールが追加投与されたものの,第19病日のAlb2.0 g/dl,TTR5.0 mg/dlと未だ栄養状態は不良だった。
2.栄養強化期(入院第21~40病日):第2期手術にて腸管の吻合を目指すため,Alb3.0g/dlを目標に,適時必要エネルギー量を算出しながらの栄養摂取強化と,手術に向けての体力アップを行った。栄養面では第21病日に胃管を挿入してエレンタールを増量,また第33病日には中心静脈(以下,CV)カテーテルを挿入して高カロリー輸液が行われ,総摂取カロリーは1日2,000kcal以上となった。しかし,第40病日のTTR9.9 mg/dlと短期的には栄養改善を認めたが,Albは2.0 g/dlと吻合手術の目標には達しなかった。一方,第21病日には立ち上がり困難となったため,ハーフスクワットを追加した結果,起居移動動作の安定に繋がった。
3.第2期手術後(入院第41~70病日):第2期手術では,従前のストマを閉鎖し拡大結腸右半切除術と新たなストマ造設術が行われた。術後は自宅退院に向けての経口摂取量アップと独歩,ADLの再獲得が目標となった。栄養面では第44病日から食事再開となり,摂取量が良好であったため,胃管抜去,CVカテーテル抜去へと繋がった。最終的に経口のみで1,300kcal程度摂取可能となり,第60病日にはAlb2.7 g/dl,TTR15.1 mg/dlと栄養状態の改善を認めた。理学療法は第43病日から離床を再開し,第64病日には独歩良好となったため終了,第70病日に自宅退院となった。
【考察】
本症例では術前からの栄養不良のため,術後の呼吸状態悪化や心不全増悪が懸念されたほか,糖尿病合併のため術後の創傷治癒に悪影響を与えた。このように特に併存症を有する患者の場合,術後の栄養管理は非常に重要なものとなる。また,本症例では第2期手術を受ける目的で積極的な栄養管理が行われた。一方,理学療法では術前からの歩行能力を維持しつつ,術後廃用を起こさないよう離床プログラムを進行した。これにより第2期手術の敢行,栄養状態の改善,独歩での自宅退院へと繋がった。よって理学療法士も栄養状態を評価し,その状況に見合った理学療法を提供していくことが非常に重要である。
【理学療法学研究としての意義】
栄養状態を考慮しつつ多角的に評価を行い,理学療法を遂行することは非常に重要であり,本症例をもってその有用性を提示できたと考える。