[P3-C-1140] 急性期・回復期・維持期おける理学療法提供体制の現状分析
Keywords:地域医療連携, 理学療法士密度, 理学療法提供体制
【はじめに】
現代医療は高度に専門化・複雑化し,かつ医療技術の進歩も相まって求められる医学的知識は高水準なものとなっている。疾病構造の変化や地域における医療資源の偏在など,医療を取りまく環境変化の影響を受け,一つの医療機関で患者に必要なすべての医療を提供する「病院完結型医療」の維持が困難となり,地域の複数の医療機関がそれぞれの専門性を活かし,より一層の機能分担を進め,連携・協働することで必要な医療を提供する「地域完結型医療」への転換が求められている。
理学療法も同様に,急性期・回復期・維持期の連携・協働にもとづくサービス提供体制の構築が求められ,2006年に行われた第5次医療法改正により,医療計画制度の下で,いわゆる4疾病5事業(現在は精神疾患を入れ5疾病5事業)ごとに医療連携体制を構築することとなり,とりわけ4疾病のがん・心筋梗塞・脳卒中・糖尿病など理学療法士が密接に関与する疾病における連携の重要性が謳われている。しかしながら,理学療法士は医療機関とりわけ回復期に偏在する傾向にあるとされることから,本研究は現在の急性期・回復期・維持期の理学療法提供体制を分析し,求められるようなシームレスな理学療法の提供がなされているのかを,各期における理学療法士の密度より検証するものである。
【方法】
厚生労働省「病院報告」(2012年)における地域医療支援病院を急性期病院とみなし,厚生労働省「医療施設調査」(2012年)から求めた病床数より100床当たりの理学療法士数を急性期理学療法士密度とした。回復期における理学療法士密度は,回復期リハビリテーション病棟協会による「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」より100床当たりの理学療法士数をその密度とした。さらに,厚生労働省介護サービス施設・事業所調査(2012年)より,介護療養型医療施設,ならびに介護老人保健施設100床あたりの理学療法士数を維持期理学療法士密度とした。
【結果】
地域医療支援病院数は2012年全国で432施設,病床数は192,814床,理学療法士従事者数は常勤換算で5,401人,100床当たり理学療法士密度は2.8人であった。回復期リハビリテーション病床数は64,471床,回復期における理学療法士密度は,100床当たり11.8人であった。一方,介護保険施設である介護療養型医療施設数は1,644施設,病床数は72,959床,常勤換算理学療法士数は2,401人であり,100床あたりの理学療法士密度は3.3人であった。さらに介護老人保健施設数は3,710,定員は331,916人,常勤換算理学療法士数は5,806人で,100床あたりの理学療法士密度は1.8人であった。介護療養型医療施設と介護老人保健施設をあわせた維持期の100床あたりの理学療法士密度は2.0人となった。
【考察】
今回の結果は急性期における理学療法士密度が回復期の1/4,さらに,居宅サービスを除く維持期の理学療法士密度は1/6とさらに低い結果となった。とりわけ急性期病床における理学療法は,合併症や廃用症候群の防止,機能回復など,最も重点的に取り組むべき時期であり,欧米の報告では脳血管障害においてStroke Unitが効果あるものとしてエビデンスが多数示され,かつ急性期の低密度リハビリテーションの提供は患者の重症化,機能低下をもたらすものと指摘されている(厚生労働者高齢者リハビリテーション研究会)ことから更なる充足が求められる。一方で,2005年の医療制度改革大綱で「急性期から在宅療養にいたるまでの切れ目のない医療サービスの提供」が謳われ,急性期・回復期で獲得した機能の維持には,維持期での理学療法も重要であることが示されている。しかしながら,今回の結果は急性期よりもさらに理学療法士密度が低かったことから,障害を持ち,かつ加齢にともなう機能低下を防ぐことが現状では難しいことを示すものと解釈できる。
日本は,欧米諸国と比較し単位人口あたりの理学療法士密度が低いと報告されており,現在の回復期理学療法密度が充足しているものとの判断はできないが,今後は回復期だけでなく,急性期・維持期における理学療法士密度を高め,シームレスな理学療法の流れを地域において早急に構築する必要性がある。そのためには,マンパワー偏在の是正が必要であり,雇用の流動性の促進,ならびに卒前・卒後の理学療法教育において,急性期・維持期の重要性をさらに認識させることが必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
急性期・回復期・維持期,各期における理学療法士密度を明確にしたことは,地域における理学療法連携を構築していくための医療政策,ならびに理学療法教育のあり方に示唆を与えるものである。
現代医療は高度に専門化・複雑化し,かつ医療技術の進歩も相まって求められる医学的知識は高水準なものとなっている。疾病構造の変化や地域における医療資源の偏在など,医療を取りまく環境変化の影響を受け,一つの医療機関で患者に必要なすべての医療を提供する「病院完結型医療」の維持が困難となり,地域の複数の医療機関がそれぞれの専門性を活かし,より一層の機能分担を進め,連携・協働することで必要な医療を提供する「地域完結型医療」への転換が求められている。
理学療法も同様に,急性期・回復期・維持期の連携・協働にもとづくサービス提供体制の構築が求められ,2006年に行われた第5次医療法改正により,医療計画制度の下で,いわゆる4疾病5事業(現在は精神疾患を入れ5疾病5事業)ごとに医療連携体制を構築することとなり,とりわけ4疾病のがん・心筋梗塞・脳卒中・糖尿病など理学療法士が密接に関与する疾病における連携の重要性が謳われている。しかしながら,理学療法士は医療機関とりわけ回復期に偏在する傾向にあるとされることから,本研究は現在の急性期・回復期・維持期の理学療法提供体制を分析し,求められるようなシームレスな理学療法の提供がなされているのかを,各期における理学療法士の密度より検証するものである。
【方法】
厚生労働省「病院報告」(2012年)における地域医療支援病院を急性期病院とみなし,厚生労働省「医療施設調査」(2012年)から求めた病床数より100床当たりの理学療法士数を急性期理学療法士密度とした。回復期における理学療法士密度は,回復期リハビリテーション病棟協会による「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」より100床当たりの理学療法士数をその密度とした。さらに,厚生労働省介護サービス施設・事業所調査(2012年)より,介護療養型医療施設,ならびに介護老人保健施設100床あたりの理学療法士数を維持期理学療法士密度とした。
【結果】
地域医療支援病院数は2012年全国で432施設,病床数は192,814床,理学療法士従事者数は常勤換算で5,401人,100床当たり理学療法士密度は2.8人であった。回復期リハビリテーション病床数は64,471床,回復期における理学療法士密度は,100床当たり11.8人であった。一方,介護保険施設である介護療養型医療施設数は1,644施設,病床数は72,959床,常勤換算理学療法士数は2,401人であり,100床あたりの理学療法士密度は3.3人であった。さらに介護老人保健施設数は3,710,定員は331,916人,常勤換算理学療法士数は5,806人で,100床あたりの理学療法士密度は1.8人であった。介護療養型医療施設と介護老人保健施設をあわせた維持期の100床あたりの理学療法士密度は2.0人となった。
【考察】
今回の結果は急性期における理学療法士密度が回復期の1/4,さらに,居宅サービスを除く維持期の理学療法士密度は1/6とさらに低い結果となった。とりわけ急性期病床における理学療法は,合併症や廃用症候群の防止,機能回復など,最も重点的に取り組むべき時期であり,欧米の報告では脳血管障害においてStroke Unitが効果あるものとしてエビデンスが多数示され,かつ急性期の低密度リハビリテーションの提供は患者の重症化,機能低下をもたらすものと指摘されている(厚生労働者高齢者リハビリテーション研究会)ことから更なる充足が求められる。一方で,2005年の医療制度改革大綱で「急性期から在宅療養にいたるまでの切れ目のない医療サービスの提供」が謳われ,急性期・回復期で獲得した機能の維持には,維持期での理学療法も重要であることが示されている。しかしながら,今回の結果は急性期よりもさらに理学療法士密度が低かったことから,障害を持ち,かつ加齢にともなう機能低下を防ぐことが現状では難しいことを示すものと解釈できる。
日本は,欧米諸国と比較し単位人口あたりの理学療法士密度が低いと報告されており,現在の回復期理学療法密度が充足しているものとの判断はできないが,今後は回復期だけでなく,急性期・維持期における理学療法士密度を高め,シームレスな理学療法の流れを地域において早急に構築する必要性がある。そのためには,マンパワー偏在の是正が必要であり,雇用の流動性の促進,ならびに卒前・卒後の理学療法教育において,急性期・維持期の重要性をさらに認識させることが必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
急性期・回復期・維持期,各期における理学療法士密度を明確にしたことは,地域における理学療法連携を構築していくための医療政策,ならびに理学療法教育のあり方に示唆を与えるものである。