第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1147] 日常生活機能評価表の急性期使用による歩行自立予測

ロジスティック回帰分析と決定木による検証

大坪尚典1, 葛巻尚志1, 堤美紀1, 山元絵美1, 山田哲郎1, 上原健治2 (1.金沢市立病院リハビリテーション室, 2.金沢市立病院整形外科)

キーワード:日常生活機能評価表, 歩行自立, 決定木

【目的】2008年の診療報酬改定により,日常生活機能評価表(以下,NSKH)が回復期リハビリテーション病棟(回復期)の算定要件に導入された。しかし,NSKHは臨床ではあまり重視されず,実際にはFunctional Independence Measure(FIM)がADL評価の主体となっている。また,NSKHに関する研究は少なく,その利用価値を疑問視した報告内容が多い。そこで今回,急性期病床の完結例にNSKHを使用し,その有効性と歩行自立予測についての検証を行った。
【方法】2013年8月から2014年9月の間に理学療法(PT)を完結した全380例,女性226例,男性154例,平均年齢(歳)±SD=79.3±9.8を対象とした。全例,在宅から直接入院し,かつPT開始時は歩行介助であった。なお,歩行自立可否の基準は,棟内生活において見守りなく歩行が可能な場合を自立,見守り以下は介助とした。歩行補助具や装具使用による自立は可とした。また,既往による歩行不能,車椅子駆動による自立,回復期への転院,および死亡退院は除外した。疾患別割合は,体幹骨折21.8%,下肢骨折16.9%,脳卒中15.3%,肺炎・呼吸器疾患14.2%,硬膜外血腫等7.4%,椎間板ヘルニア等3.9%,神経・筋疾患2.1%,廃用その他18.4%,であった。全例のADL評価をNSKHで行い,PT開始時と退院時の比較を行った。歩行自立予測については,統計ソフトIBM SPSS Statistics(ver.20)のロジスティック回帰と決定木(Chi-squared Automatic Interaction Detection)により解析を行った。従属変数は退院時の歩行自立可否とし,独立変数は,開始時NSKH合計点,もしくは移動を除いたNSKH各12項目と,年齢,性別,PT待機日数,PT施行日数,在院日数,血清アルブミン値(Alb),亜急性期病床利用有無,とした。なお,対象の37%が亜急性期病床の利用後に退院した。
【結果】NSKH合計点の開始時中央値は7点,退院時は2点であり,Wilcoxonの符号付き順位検定により差を示した(p<0.01)。NSKH改善度の中央値は3点であり,NSKH利得の中央値は0.11(点/PT施行日数)だった。退院時の歩行自立は210例(55.3%),介助は170例(44.7%)だった。ロジスティック回帰分析では,年齢,開始時NSKH合計点,およびAlbの3変数が選択された(p<0.01)。オッズ比と95%信頼区間は,年齢:1.069(1.038-1.100),NSKH合計点:1.310(1.223-1.404),Alb:0.413(0.259-0.661)を示した。的中率は74.9%,ROC曲線によるNSKHのカットオフ値は7点,曲線下面積は0.783を示した(p<0.01)。合計点の代わりに,NSKHの各項目を投入したロジスティック回帰分析では良好な結果を得られなかった。次に,決定木では,更衣,年齢,口腔清潔,指示理解,性別,寝返り,以上6変数が選択され,最終ノードは9段階に分類された。歩行自立割合が高い順に,①更衣自立;94.4%,②更衣一部介助,年齢≦78歳,口腔清潔自立;93.1%,③更衣一部介助,年齢≦78歳,口腔清潔不可;71.4%,④更衣一部介助,78歳<年齢≦87歳;66.2%,⑤更衣全介助,指示理解可,女性;62.7%,⑥更衣全介助,指示理解可,男性;31.7%,⑦更衣一部介助,年齢>87歳;26.7%,⑧更衣全介助,指示理解不能,寝返り可能;24.0%,⑨更衣全介助,指示理解不能,寝返り不能;2.3%となり,的中率は77.1%を示した。相対リスクは,再代入の推定値0.229に対し,交差検証では0.237を示した。
【考察】園田ら(2009)は,NSKHとFIMの関係を調べ,NSKHが同じ点数であってもFIMの幅は数十点に及び,互換性が高いとは言い難いとしている。また,岩井ら(2012)は,NSKHの評価段階が粗いため,改善を的確にとらえられない可能性を指摘している。今回,改善が明確に示され,また,FIMを利用した先行報告にも劣らない結果が示された。これは,対象が急性期の完結例に限定されており,改善が生じやすかったためと考えられる。一方,各項目を投入した回帰分析では結果を得られず,逆に,決定木では回帰分析より良好な的中率を認めた。これは,NSKHの評価段階が2~3値と粗く,非線形分布である事に起因しており,カイ二乗検定を組み合わせてゆく決定木の解析法が適していたためと考えられる。また,決定木では,開始時の更衣自立度が歩行自立に強く影響する特徴が示された。これは,急性期の制限された状況下で,工夫しながら衣服の着脱を行う能力,すなわち応用的な課題遂行能力を示したものと解釈できる。総じて,急性期におけるNSKHの利用価値は決して低くなく,回帰分析よりも決定木との解析相性が良好であった。
【理学療法学研究としての意義】NSKHは評価者の負担が少ない利点があり,簡易で実用的な歩行自立予測法として急性期病床全般に利用可能である。