第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1150] 中国国内における褥瘡予防に向けた介助実技セミナーの実践

渡辺美里1, 渡邉真一2, 今田健3 (1.泰已科(上海)国際貿易有限公司, 2.株式会社Taica, 3.錦海リハビリテーション病院)

キーワード:褥瘡予防, 教育, 中国

【はじめに,目的】
2010年に独立行政法人国際協力機構(以下,JICA)が管轄の青年海外協力隊に参加し,中国の病院で理学療法士(以下,PT)として2年間活動した。JICAの活動期間において,PTや看護師が病期を問わずリハビリテーションに関与しておらず,臥床時間の遷延に伴う廃用症候群や褥瘡形成を惹起し,機能的,能力的に不十分な回復に留まる症例が多い印象を受けた。なかでも褥瘡は,今後アジア全体で迎える超高齢社会に向けた,国際的にも対策が求められる重要な課題として捉えられている。しかしながら,実際に同圏域においてPTとして従事し,これらの課題に取り組む報告は少ない。
中国国内の病院において褥瘡予防の介助実技セミナーを行い,その課題を明らかにし,対策を検討した。
【方法】
2013年10月より,主に中国の3級病院(市全体を対象として高度な診療を行う大規模病院)と2級病院(主に市内各区を対象として総合的に診療を行う中規模病院)に勤務する,師長を含めた看護師20名を対象とした,一褥瘡予防とケアに関するセミナーを1年間実施した。褥瘡の発生原因と予防概念,対策とその方法について,スライド資料を作成し講義を行った。その後,スライディングシートの使用を含めた起居移乗の介助方法や,ポジショニングについての実技を実施した。実施時間は質疑応答を含めおよそ1時間程度とした。また,同日に院内ラウンドを実施し,病棟環境を視察,看護師やヘルパーと意見交換をした。これらの活動から,一褥瘡に対する課題を抽出し,対策を検討した。
【結果】
1年間で計22回のセミナーを実施した。実施した病院の形態は,3級病院14回,2級病院8回であった。病棟の内訳は,ICU科7回,病棟複合5回,老年科3回,リハビリテーション科2回,腫瘤科2回,他科4回であった。
抽出した内容としては,褥瘡は予防できると理解しているが実際にどの様に介助やケアを行うか具体的に分からなかった,看護師が実際に病棟でヘルパーに正しい介助方法を指導したいと思った,臨床現場で活用できる,といった意見が得られた。またスライディングシートを使用した介助方法は,実際に臨床現場で試用したい,使用方法を覚えたい,などの意見を得た。
病棟で実施している褥瘡予防の課題として,体位変換は複数人で引き上げて移動する,もしくは資格が定められていないヘルパーや家族が,ズレを起こした介助を実施している場合がある。またすべての患者に,適応した褥瘡予防マットレスを使用していない,ポジショニングが実施されていないことがわかった。
【考察】
上記課題の対策として,褥瘡予防の再認識,そして看護師への指導と,看護師が家族等へ指導できる教育を行うことが必要であると考えた。具体的な教育内容として,褥瘡の直接原因となる,圧迫とズレ力に対して対策を取り,適切な褥瘡予防マットレスと,ズレを起こさないケアの両方を実践してもらう為に,実技によるズレ力を排除した起居移乗方法や,スライディングシートや介助グローブを利用した体位変換方法,クッションを利用したポジショニングについて実践する。環境設定として,褥瘡予防マットレスの体感や選定方法について指導し,導入を促す。介助技術と併せて褥瘡予防用具を使用し,相乗効果的に褥瘡を予防でき,同時にケアの質を向上させることが出来る。
以上より,褥瘡予防に配慮したケアを実践する人材を育成し,臨床現場に浸透させる仕組みづくりが,褥瘡発生の予防や早期改善に必須である。
【理学療法学研究としての意義】
中国では高齢社会を迎えるにあたり,日本のケアや福祉への需要が非常に高まっている。医療発展途上国における介護技術職への指導や教育がますます必要である。本調査は,上海を中心とした中国国内の22病院で実施されたものであり,褥瘡およびその対策における今現在の実情を反映し得る報告として意義がある。