第50回日本理学療法学術大会

講演情報

分科学会 シンポジウム

日本運動器理学療法学会 分科学会 シンポジウム7

運動器理学療法のパラダイムシフト―新たなる可能性への挑戦―

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:50 第1会場 (ホールA)

座長:常盤直孝(川越整形外科 リハビリ室), 金村尚彦(埼玉県立大学 保健医療福祉学部理学療法学科)

[S-07-4] 機能評価と治療法を運動力学から考える

~慢性疼痛疾患障害像を科学する~

脇元幸一 (医療法人SEISEN)

現状では,臨床現場の慢性疼痛疾患治療の理学療法スタンダードは「患部の疼痛緩和を目的とした物理療法」「患部ROMエクササイズ」「患部筋力トレーニング」である。しかし,そのような手法を二十数年臨床で繰り返した私たちが思うことは,疾患の治癒成果どころか改善の見込みさえ感じられない理学療法を漫然と繰り返しているのではないかという懸念である。
今をもって慢性疼痛疾患は,癌などと共に西洋医学では効果的な治療ができない疾患として位置付けされている。厚生労働省による国民健康調査の結果でも,腰痛・肩こりの有訴者が1位と2位を占め,生活の質の低下及び就労困難による社会的損失を生む一因となっている。このような慢性疼痛疾患の病態理解にあたり,同省から「慢性疼痛は,精神医学的要因,心理学的要因,社会的な要因が複雑に関与して痛みを増悪させ遷延させている」との提言がなされている。この提言を踏まえると,様々な因子によって病態が形成されていることは理解できるが,身体機能的要因については一切言及されておらず,理学療法の明確なガイドラインを得るまでには至っていない。
近年,ガイドラインの整備を積極的に進めてきた米国医学界は,次なるステップとして社会的側面から医療を評価し,不要な医療サービスを名指しして国民に知らせるという米国初の「無駄な医療撲滅運動:Choosing Wisely」を展開している。米国理学療法学会も2014年9月に無駄な医療として,膝人工関節術後のPassive-CPM介入など5つの提言を挙げている。今後,本邦においても無駄な理学療法サービスをそぎ落としていくChoosing Wiselyという考え方が普及し,私たちの行うサービスの一つ一つが高い社会的評価を得られるレベルに進化する必要がある。
シンポジウムでは,慢性疼痛疾患を身体機能的側面から捉え直し,その共通した機能的問題点に対して我々が開発・施行している運動力学に従った評価と治療について紹介する。