第50回日本理学療法学術大会

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分科学会 シンポジウム

日本予防理学療法学会 分科学会 シンポジウム9

これからの介護予防における理学療法士の果たすべき役割

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 7:20 PM 第1会場 (ホールA)

座長:大渕修一(東京都老人総合研究所)

[S-09-4] 認知症予防のための運動効果とこれからの課題

牧迫飛雄馬, 島田裕之, 土井剛彦, 堤本広大, 中窪翔 (国立長寿医療研究センター生活機能賦活研究部)

習慣的な運動は,認知症発症の抑制に有効であるとされている。近年では,有酸素運動を中心とした運動介入が認知機能向上,脳活動の活性,脳容量の増大にも有効であることが示されている。しかし,認知症発症の予防効果を有しているかは明らかではない。また,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)を有する高齢者に対する運動効果は,根拠が十分とは言い難い。MCIは将来に認知症へ移行する危険が高いが,正常の認知機能に回復する場合もあり,認知症予防を積極的に推進すべき状態である。そこで,我々はMCI高齢者308名を対象に有酸素運動,筋力トレーニング,記憶や思考を賦活しながらの運動課題といった複合プログラムの効果を検証した。その結果,全般的な認知機能の低下抑制,記憶力の向上や,脳萎縮の進行抑制効果が運動によって認められ,運動による認知症予防の可能性が示唆された。
また,我々の検証では特に中強度以上の身体活動が記憶機能との関連において重要であり,中強度以上の身体活動時間は脳内の海馬容量を介して記憶機能に間接的に影響していることが確認された。一方,中強度負荷が困難であっても,低負荷での長時間の運動が可能となれば,海馬の神経新生を促進させることが期待されており,より幅広い対象層に対する脳への運動効果が期待できるかもしれない。
習慣的な運動は心身の健康に多くの利得をもたし得るが,積極的な運動を苦手としたり,適切な運動が実施困難な人も多く存在する。今後は,医療・介護施設のみならず,地域の運動施設,地域住民,行政が協力体制の基で多くの高齢者が運動を習慣的に実施可能な環境を創ること,また運動の意識がなくとも身体的,社会的,知的な活動を積極的に実施できる環境の設定が必要となると考える。また,運動のみならず,個人の興味に合うように多彩なプログラムを提案できることが,広義での介護予防サービス提供者にとっての課題であろう。