第50回日本理学療法学術大会

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分科学会 シンポジウム

日本基礎理学療法学会 分科学会 シンポジウム12

基礎理学療法の新たなる可能性―若手研究者(U39)による最先端研究紹介―

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 7:20 PM 第4会場 (ホールB7(2))

座長:山崎俊明(金沢大学 医薬保健研究域保健学系), 金子文成(札幌医科大学 保健医療学部理学療法学科)

[S-12-3] 変形性股関節症患者における歩行制御

―身体内部の協調と環境との接点での制御―

建内宏重 (京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

変形性股関節症(以下,股OA)では,日常生活における移動動作に著しい障害を認める。また,長い年月をかけて股関節障害に適応し構築された代償的動作は,人工股関節全置換術(以下,THA)術後においても大部分が継続する。我々は,股疾患患者の歩行能力改善に向けて,代償メカニズムの解析が不可欠であると考え,まず疼痛のないTHA術後患者を対象とした調査を行った。その結果,THA術後患者では健常者に比べ,立脚中期以降の股屈筋パワーの低下や股関節動的スティフネスの増大を認め,それらは,足底屈筋パワーの増大と関連した(Tateuchi, et al., Clin Biomech 2011)。すなわち,股屈筋の機能低下は足底屈筋により代償されやすいことが示された。さらに,その下肢関節間の協調関係を利用してTHA術後患者の歩行パターンを改善する試みを行い,歩行時に足底屈筋の作用が過剰になっている患者では,それを抑える練習により股屈筋の作用が増大することを確認した(Tateuchi, et al., Gait Posture 2011)。
さらに我々は,股疾患患者では,直線歩行よりもむしろ方向転換を含む移動動作時に患者固有の動作特性がより顕著になるという臨床的観察に基づき,股OA患者(末期)を対象とした方向転換歩行の詳細な分析を行った。その結果,股OA患者では,方向転換歩行時には立脚期前半から足底屈モーメントの増加を認め,直線歩行よりも方向転換歩行時に足底屈モーメントを増加させられる患者ほど機能スコアが高い傾向を示した。さらに,股OA患者では,立脚期の足角変化量が方向転換時には増加していた(Tateuchi, et al., Gait Posture 2014)。股OA患者は,立脚期前半から前足部に荷重し床面に対する足部の回転を利用して身体の方向を制御しており,そのような制御は移動能力の維持に必要な代償であると考えられた。股疾患患者は,身体内部での協調のみならず環境との接点(足底-床面)での制御も変化させ,股関節障害に適応していると言える。