第50回日本理学療法学術大会

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分科学会 シンポジウム

日本基礎理学療法学会 分科学会 シンポジウム12

基礎理学療法の新たなる可能性―若手研究者(U39)による最先端研究紹介―

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 7:20 PM 第4会場 (ホールB7(2))

座長:山崎俊明(金沢大学 医薬保健研究域保健学系), 金子文成(札幌医科大学 保健医療学部理学療法学科)

[S-12-5] 認知的過程に着目したステップ反応動作の分析

―転倒リスク評価の開発に向けて―

上村一貴 (名古屋大学未来社会創造機構/大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学)

外的環境に対する素早い反応は安全な移動のために不可欠な機能であり,ステップ反応時間の遅延は高齢者の転倒の危険因子となる。また,加齢に伴う運動機能と認知機能の低下は転倒リスクを相乗的に高めるとされ,転倒リスク評価には,動作時の認知機能の働きを考慮する必要性が考えられる。本シンポジウムでは,我々がこれまでに実施した,選択ステップ反応動作の認知的過程に着目した姿勢調節の分析結果について報告したい。
ステップ反応動作の開始時には,まず遊脚側の体重成分が増加して,重心を立脚側へと移動させる推進力を発生させ,円滑な踏み出しが可能となる。これは,予測的姿勢調節(Anticipatory Postural Adjustment[APA])と呼ばれる機構である。近年,APA開始時に通常とは逆に立脚側へと体重移動してしまう現象がAPAエラーと定義され,ステップ反応時間を遅延させる主要因として報告されている。APAエラーは,抑制機能(Inhibition)が低下するほど生じやすく,動作開始時における適切な選択と,不適切な選択肢の抑制という認知的過程に強く関わる要素である。
本研究では,潜在的な転倒リスクを顕在化するため,選択ステップ反応の視覚刺激として視覚干渉課題であるFlanker taskを用い,動作開始時の選択/抑制過程を強調してAPAの分析を行った。
健常若年者を対象とした基礎実験の結果,Flanker taskの視覚干渉によって,APAエラーは増加し,それによってステップ反応時間が延長した。さらに軽度認知障害を有する高齢者を対象として実験を行ったところ,転倒群では,非転倒群に比べ,APAエラーにより,APAに要する時間が延長していた。その他の運動機能や認知機能に有意な差はみられなかった。
動作時の認知的過程に着目することで,従来の指標ではとらえられない転倒リスクが検出可能であった。このような視点での評価は,認知機能低下を有する高齢者の転倒予防に向けた評価や介入に応用できる可能性が考えられた。