[SS-01-1] 姿勢と歩行の神経科学
ヒトは生後約1年の時間を経て直立姿勢と2足歩行を獲得する。歩行は眼球運動や咀嚼・嚥下などと同様の生得的運動機能である。歩行と姿勢を制御する基本的な神経機構は脳幹と脊髄に存在する。また,ヒトの2足歩行と哺乳類の4足歩行において,その基盤となる脳幹と脊髄の神経機構には多くの共通点が存在する。
歩行の開始や停止・障害物の回避などの随意的動作には,脳の高次機能に基づく注意や正確な体幹-肢運動の制御を必要とする。しかし,これらの随意的な歩行動作には無意識のうちに遂行される自動的な運動が随伴する。例えば,歩行時におけるリズミカルな上下肢の動きや姿勢反射などの定型的動作に加えて,姿勢筋緊張の調節などもこれに含まれる。中でも,先行性姿勢調節(Anticipatory postural adjustment)と呼ばれる姿勢制御は,随意的な歩行動作のみならず,全ての動作に先行して,これに最適な姿勢を提供する仕組みである。予期的姿勢調節は動物が未知の時空間に働きかける最初の能動的プロセスであることから,これは運動計画と運動プログラムに基づいて実現される「予測的過程」であると考えられる。従って,この姿勢制御には脳の高次機能が重要な役割を担う。予期的姿勢調節は,大脳皮質の損傷だけで無く,大脳基底核や小脳の病変を含む多くの神経疾患において損なわれる。しかし,これを実現する脳の高次機能や運動性下行路については未解明な点が数多い。
そこで本講演では,①歩行運動の制御における基本的な神経機構,②脳幹-脊髄における歩行と姿勢制御の統合メカニズム,③感覚情報の統合に基づく自己身体の姿勢認知と運動プログラムを生成する大脳皮質機能,そして,④予期的姿勢調節に関与すると考えられる運動性下行路について概説したい。特に,大脳皮質から脳幹網様体を経由して脊髄に至る「皮質-網様体-脊髄投射系(Cortico-reticulo-spinal pathway)」が予期的姿勢調節において中核的な役割を果すという私どもの作業仮説を紹介したい。
歩行の開始や停止・障害物の回避などの随意的動作には,脳の高次機能に基づく注意や正確な体幹-肢運動の制御を必要とする。しかし,これらの随意的な歩行動作には無意識のうちに遂行される自動的な運動が随伴する。例えば,歩行時におけるリズミカルな上下肢の動きや姿勢反射などの定型的動作に加えて,姿勢筋緊張の調節などもこれに含まれる。中でも,先行性姿勢調節(Anticipatory postural adjustment)と呼ばれる姿勢制御は,随意的な歩行動作のみならず,全ての動作に先行して,これに最適な姿勢を提供する仕組みである。予期的姿勢調節は動物が未知の時空間に働きかける最初の能動的プロセスであることから,これは運動計画と運動プログラムに基づいて実現される「予測的過程」であると考えられる。従って,この姿勢制御には脳の高次機能が重要な役割を担う。予期的姿勢調節は,大脳皮質の損傷だけで無く,大脳基底核や小脳の病変を含む多くの神経疾患において損なわれる。しかし,これを実現する脳の高次機能や運動性下行路については未解明な点が数多い。
そこで本講演では,①歩行運動の制御における基本的な神経機構,②脳幹-脊髄における歩行と姿勢制御の統合メカニズム,③感覚情報の統合に基づく自己身体の姿勢認知と運動プログラムを生成する大脳皮質機能,そして,④予期的姿勢調節に関与すると考えられる運動性下行路について概説したい。特に,大脳皮質から脳幹網様体を経由して脊髄に至る「皮質-網様体-脊髄投射系(Cortico-reticulo-spinal pathway)」が予期的姿勢調節において中核的な役割を果すという私どもの作業仮説を紹介したい。