第50回日本理学療法学術大会

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メインシンポジウム

メインシンポジウム1

理学療法50年のあゆみと展望―新たなる可能性への挑戦―わが国の理学療法の歴史と継承

2015年6月6日(土) 10:15 〜 12:05 第1会場 (ホールA)

座長:伊東元(茨城県立医療大学名誉教授), 高橋正明(群馬パース大学 保健科学部理学療法学科)

[SS-02-4] 理学療法における臨床と研究の有機的融合に向けて

木村貞治 (信州大学)

わが国の理学療法の歩みは,今年で半世紀を迎えるに至った。この半世紀の前半は,様々な症例における臨床的特性と,それに対する理学療法の介入結果との関連性から帰納的に推論された経験則が,臨床判断の根拠の1つとして活用されてきたものと思われる。その後,経験則の中に内包される可能性のあるバイアスをできるだけ少なくして,中立的で科学的な臨床判断を行うための行動指針として「根拠に基づく医療(EBM)」の重要性が提言され,わが国の理学療法においても「根拠に基づく理学療法(EBPT)」として啓発活動が行われてきた。EBPTの真骨頂は,①臨床研究の結果であるエビデンス,②理学療法士の臨床能力や中立的な経験則,③施設の設備や環境,④対象者の意向や価値観,を統合した臨床判断に基づいて,安全で効果的な理学療法を提供することにある。
EBPTを実践するためには,対象者に即したエビデンスを読み解き,臨床判断に「つかう」ための「研究法」に関する基本的な理解力が必要となる。「研究法」の理解に基づく論理的な思考は,中立的で科学的な理学療法を展開するための文脈ともなる。一方,わが国の制度,文化,風土の下で行われた理学療法のエビデンスは,非常に少ないのが現状である。そこで,エビデンスを「つくる」ための質の高い臨床研究の実践と,それらの研究成果を多忙な臨床現場で効率よくつかえるように,社会に「つたえる」ための組織的な取り組みの両方が重要な課題となる。
今後,人口動態の変遷が予測される中で,予防・治療・生活に視座を据えた安全で効果的な理学療法を中立性・科学性をもって実践し,その概念的枠組みと成果を社会に明示化していくためには,エビデンスを「つくる」,「つたえる」,「つかう」というサイクルの循環の軸となる「臨床と研究の有機的融合」に向けて,個人として,組織として,真摯に取り組んでいくことが,次の半世紀に向けての確かな道標になると考える。