第50回日本理学療法学術大会

講演情報

メインシンポジウム

メインシンポジウム1

理学療法50年のあゆみと展望―新たなる可能性への挑戦―わが国の理学療法の歴史と継承

2015年6月6日(土) 10:15 〜 12:05 第1会場 (ホールA)

座長:伊東元(茨城県立医療大学名誉教授), 高橋正明(群馬パース大学 保健科学部理学療法学科)

[SS-02-5] 変形性股関節症患者の歩行分析

医・工学との連携

加藤浩 (九州看護福祉大学大学院)

筆者は変形性股関節症(以下,変股症)を対象とした臨床研究に力を入れてきた。その1つとして表面筋電図(EMG)を用いた筋の質的筋活動評価(周波数解析)に関する研究がある。一般的にEMG周波数解析と言えば,高速フーリエ変換(FFT)が広く知られている。しかし,FFTを用いた周波数解析は,解析信号波形の定常性を仮定しているため,主に等尺性収縮下での筋活動評価に限定されていた。この限界の突破口を開いたのが,工学分野の若手研究者との勉強会であった。勉強会に参加する中で新しい解析方法であるwavelet変換(WT)に出会った。waveletとは「小波(さざなみ)」の意味があり,工学分野では局所の振動波形を表す用語として使われている。WTは生体信号の非定常性を仮定した周波数解析に威力を発揮する。これをEMG周波数解析に応用することで,従来困難とされてきた歩行動作時での筋活動評価が可能となった。筆者らはWTをEMG周波数解析に応用し,世界に先駆けて股関節疾患患者を対象に歩行時立脚期の時々刻々と変化する中殿筋の動的EMG周波数特性の評価を行った。その結果,跛行の顕著な患者ほど,立脚期初期(踵接地時)の平均周波数の上昇が認められず,その原因として主にtypeII線維を支配する運動単位の動員数と発火頻度の減少の可能性が示唆された。さらに本研究結果を検証するため医師の協力のもと手術中に筋生検を行い組織形態学的分析から同特性の意義について検討した。その結果,動的EMG周波数特性はtypeII線維の線維径と深く関連しており,WT周波数解析は中殿筋typeII線維の非侵襲的廃用性筋萎縮評価に有効である結論を得た。これらの研究に取り組む中で学んだ事は,工学や医学といった研究者との連携,即ち,学際領域の研究の重要性である。本シンポジウムでは,筆者がこれまで取り組んできたEMGの臨床研究について紹介しながら,今後の臨床(職能)と研究(学術)の分化と融合について展望してみたい。