第50回日本理学療法学術大会

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合同シンポジウム

日本生理学会 合同シンポジウム4

生理学と理学療法の接点

Sat. Jun 6, 2015 10:15 AM - 12:05 PM 第4会場 (ホールB7(2))

座長:浅賀忠義(北海道大学大学院 保健科学研究院機能回復学分野)

[TS-08-5] 脊髄損傷後回復過程での大規模神経回路再編機構

伊佐正1,2 (1.自然科学研究機構生理学研究所, 2.総合研究大学院大学生命科学研究科)

脳や脊髄損傷後に訓練によって自然な回復過程を示す患者の中枢神経系において何が起きているかを知ることは,有効な理学療法の開発のために重要な道しるべになる。
私たちは,ヒトに近い脳と身体の構造を有するマカクザルのモデルを用いて,脊髄損傷後からの運動機能の回復メカニズムを研究している。下部頸髄(C5)において皮質脊髄路を損傷すると手指の巧緻運動は障害されるが,訓練によって数か月以内に回復する。これは,頸髄の脊髄固有ニューロンを介する経路が機能を代償することによる。しかし,機能回復に関わる神経回路の変化は脊髄においてのみ起こるのではない。この機能回復過程において陽電子断層撮影装置(PET)により脳活動を解析したところ,回復初期(1か月)には両側一次運動野,安定期(3-4ケ月)では,損傷反対側の一次運動野の活動が顕著に増大し,さらに両側運動前野腹側部の活動が増加していた。このように回復段階に応じて,大規模な回路の再編が起きることがわかってきた。さらに,回復期に損傷反対側の側坐核の活動も上昇していた。側坐核の機能阻害や活動の因果解析により,側坐核が一次運動野への影響を強めることが機能回復を促していることがわかった。このような現象は「モチベーションがリハビリを促進する」メカニズムに関係しているのではないかと考えられる。このように,多階層にわたる機能回復過程の大局的な理解が,有効な治療法の開発に重要である。