第50回日本理学療法学術大会

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大会シンポジウム

協会主催シンポジウム 大会シンポジウム6

未来へのチャレンジ

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 11:30 AM 第1会場 (ホールA)

座長:半田一登(日本理学療法士協会会長)

[TS-12-3] 理学療法と産業保健

松田晋哉 (産業医科大学医学部公衆衛生学)

現在わが国は世界に類を見ない少子高齢化の過程にある。こうした状況下で社会の活力を維持していくためには、高齢期においても人は活動的であるAgeless社会を実現することが求められる。このような社会経済環境の変化により、今後、医療の役割は治療中心のものだけでなく、健康問題を抱えた国民の日常生活(就労生活)の医学的支援という側面が今後強くなっていくであろう。
例えば、イギリスでは健康問題を持った労働者の主治医が意見書(これをFit Noteと言う)を保健省と労働年金省が共同で各地域に設置している職業適応サービス局(Fit for Work Service)に提出することで、当該労働者が就業支援のための種々の支援が受けられる仕組みが作られている。この背景には①健康問題によって失われた労働時間は、1年間で約1億7500万労働日、額にして1000億ポンド(当時の為替レートでおよそ21兆5000億円)にものぼること(2006年)、②働くことが健康に対し良い影響を及ぼし、反対に長期間雇用されていないことや長期の病気欠勤が健康に有害な影響を及ぼしていること、③雇用及び生活保護手当を受給している人は、平均と比較して何らかの疾患を有する率及び死亡率が2~3倍であったこと、④雇用及び生活補助手当受給者のうち、およそ40%に関しては早期に問題を解決することで回避可能であった、といったイギリス政府の調査がある(Department for working and pension 2008)。
イギリスでは開業理学療法士が職域における筋骨格系疾患の予防、あるいはそうした傷病を持った労働者の職場適応に関するサービスを行っている。日本がAgeless社会を目指すのであれば、「働くこと・生活すること」を支援する医療の役割に今後重点をおいていく必要がある。そのためには理学療法士がイギリスのように産業保健領域に積極的にかかわる枠組みが必要であると考える。具体的な仕組み創設への議論が高まることを期待したい。