第50回日本理学療法学術大会

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大会シンポジウム

大会シンポジウム9

街づくりにおける理学療法士の役割―自助・共助の街づくりは人づくり―

2015年6月7日(日) 11:50 〜 13:40 第1会場 (ホールA)

座長:古名丈人(札幌医科大学 保健医療学部理学療法学科)

[TS-16-2] 新たな健康街づくりを意識し始めた都市計画―街のハードウェア,ソフトウェアとその担い手

吉川徹 (首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学域)

伝統的に健康は都市計画の重要な目的の一つであったが,その関心は基本的生活条件の確保と感染症抑制に向けられてきた。上下水道の整備,採光や通風を確保する建築規制などが,そのための施策として展開されてきた。開発途上国においてはこの問題の解決を見ていないところも少なくないが,先進国を中心として,この施策は一定の成果を挙げてきた。
これとは対照的に,20世紀末には従来とは異なった健康に関する都市問題が顕在化してきた。なかでも都市計画では歩かない,歩けない都市という問題が注目されている。この問題は多くの要因に関係している。まず,モータリゼーションが歩かないでも生活できる都市を実現させた結果,多彩な街の魅力に乏しく,しかも歩行が危険な都市空間が形成され,健康が損なわれている。我が国のパーソントリップ調査の結果を見ると,モータリゼーションの進展した地方都市における歩行移動の少なさが顕著である。また,寿命の伸長によって,移動困難あるいは閉じこもりがちな高齢者の増加が問題となっている。さらに,戦後の我が国の急速な都市人口の拡大に対応して形成された郊外住宅市街地は,地形的制約から丘陵地など傾斜地が多く,さらにはエレベータがない中層住宅も多く,高齢者の移動の困難さに拍車をかけている。
この問題に対応するために,従来からの基本的な生活条件の確保と感染症の抑制に加えて,歩きやすい街(walkable neighborhood)や,高齢者などが外出しやすく外出したくなる街など,新たな考え方に基づく健康街づくりが都市計画において意識されるようになった。そのためには,これまで形成されてきた街のハードウェアである住宅,施設,公共空間を活用したソフトウェアの提案と,その担い手の育成が欠かせない。その際に,自ら移動するというヒトの最も基本的な動作の専門家である理学療法士には,重要な役割を果たすことが期待されている。