第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ヤングインパクトプレゼンテーション

ヤングインパクトプレゼンテーション4

2015年6月5日(金) 17:30 〜 18:30 第6会場 (ホールD7)

座長:間瀬教史(甲南女子大学看護リハビリテーション学部)

[Y-04] 神経筋疾患患者における新しい呼吸理学療法について

―バックバルブマスクを利用したLung Insufflation Capacityトレーニング機器の開発について―

寄本恵輔 (国立精神・神経医療研究センター)

神経筋疾患患者の多くは重篤な呼吸障害を呈し,生命予後を規定する因子となる。本邦では人工呼吸器や排痰機器の対処的治療により生命予後の改善に加え,社会資源を活用することで在宅療養が行えるようになっており,これは世界で最も誇れる分野となっている。
理学療法士は胸郭の柔軟性を維持する呼吸理学療法を実践している。また,神経筋疾患患者に専門的に関わる理学療法士は拘束性換気障害に対する呼吸理学療法として,強制吸気換気量(Maximum Insufflation Capacity:MIC)を実践している。MICはバックバルブマスク等を用い,強制的に患者が最大に吸気しair stack(息止め)できる量を測定することが可能で,この方法を獲得すると呼吸筋が低下していたとしても有効な咳嗽力が得られる。そのためMICトレーニングとしてAmerican Thoracic Societyに準じ,本邦ではガイドラインで推奨している。
しかしながら,MICは,air stack(息止め)する能力が不可欠であるため,陽圧に慣れていない患者や球麻痺を呈するALS患者,また気管切開をした患者等の呼吸障害が進行した患者には実施できない。そこで,2008年にBachが提唱した一方向弁を利用した最大強制吸気量(Lung insufflation capacity:LIC)を2013年より我々も実践するようになった。これはair stack(息止め)ができなくてもリーク弁を利用することでMIC以上の効果が得られ,安全かつ幅広い患者に使用できることが期待されるものである。しかし,このLIC機器はいくつかの人工呼吸器回路を組み合わせるような自主制作であり,多くの神経筋疾患患者に使用できるものではない。そこで,2014年5月よりLIC機器開発及び商品化に向け,医療機器として知的財産の確保及びPMDAの承認を得る作業を行っている(医療機器クラス1として承認予定)。
新しい呼吸理学療法のLICトレーニング機器の開発により,神経筋疾患患者に携わる理学療法士がこの機器を標準的に使用することができるようになることで多くの神経筋疾患患者の重要な治療の一つになるものと考える。