第50回日本理学療法学術大会

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ヤングインパクトプレゼンテーション

ヤングインパクトプレゼンテーション7

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:内田成男(富士リハビリテーション専門学校)

[Y-07-2] 肥満とリンパ浮腫発症のメカニズムの解明(臨床・基礎の橋渡し研究)

佐藤明紀1,2 (1.KKR札幌医療センター斗南病院, 2.札幌医科大学大学院医学研究科)

リンパ浮腫は,世界で1億人以上が罹患していると言われているが,本邦では乳がんや子宮・卵巣がん術後の続発性リンパ浮腫が圧倒的に多く,罹患者数は10-20万人以上である。リンパ浮腫発生率は乳がん手術後で10-15%,子宮がん手術後で15-25%とされるが,発生メカニズムの詳細は不明な点が多い。
リンパ浮腫は一度発症すると完治は困難とされ,浮腫改善・維持を目的とした弾性着衣(包帯,ストッキング等)が生涯必要となり時間の制約や経済的負担が増加する。加えて,ADL制限から心理・精神的負担も増大する。リンパ浮腫に対する保存的治療の代表は「複合的治療」と呼ばれ,スキンケア,リンパドレナージ,圧迫療法,運動療法の4つが主体となる。複合的治療により一定の効果は得られるが,リンパ浮腫の重症度や改善の程度は様々である。
リンパ浮腫発症や増悪要因の一つとして「肥満」との関連報告が多い。従来,脂肪細胞による皮下組織の肥大・線維化等によりリンパ流が制限されるが,脂肪細胞から分泌される因子がリンパ管組織やリンパ管内皮細胞に与えるメカニズムは不明である。そこで,臨床検体を用いてヒトリンパ管組織に脂肪細胞から分泌される因子の一つを過剰添加し,顕微鏡でリンパ管を確認すると,リンパ管内腔が脆弱化していることが確認できた。つまり,リンパ浮腫の発生や増悪因子の一要因として脂肪細胞の分泌過剰が関与している可能性を基礎医学の視点から導くことができた。
一方,臨床場面では,私達が実践する複合的治療や生活指導は,リンパ浮腫発症後の治療として重要であるが,今後は更に高いエビデンスの構築を目指し,リンパ浮腫発症予防や治療に対する知識・技術を深めていく必要がある。今回は臨床医学の視点から理学療法士として日々携わっている乳癌患者やリンパ浮腫患者を対象に理学療法士の役割を考察する。
「肥満とリンパ浮腫」をテーマに挙げているが,基礎医学と臨床医学を同時に学ぶ貴重な経験から,理学療法士が秘めるさらなる可能性について報告したい。