第50回日本理学療法学術大会

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ヤングインパクトプレゼンテーション

ヤングインパクトプレゼンテーション8

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:沼田憲治(茨城県立医療大学)

[Y-08] 神経科学的知見に基づいた中枢神経損傷後の歩行機能再獲得への挑戦

山口智史 (慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

中枢神経損傷後の歩行機能を再獲得するために,どのような理学療法を提供していくかは,重要なテーマである。近年,リハビリテーションに関わる神経科学の知見により,中枢神経損傷後の運動機能回復には,中枢神経系における可塑性変化が深く関与していることが明らかになってきている。そのなかでも,神経科学による『脊髄可塑性』という基礎的研究の知見は,中枢神経損傷後の歩行機能を再獲得する上で重要であると考えられている。しかしながら,この脊髄可塑性という知見について,臨床応用されることに期待が高まっているが,脊髄可塑性を誘導する効果的な手法,その効果の射程や作用機序は明らかではない。
申請者は,歩行機能の再獲得に関わる脊髄可塑性を促すメカニズムを明らかにするため,ヒトを対象として,運動と電気刺激療法の併用による歩行能力への効果と治療メカニズムを,運動機能改善の観点と神経生理学的な手法を用いて解明する研究を遂行してきた。その成果として,随意運動などにより皮質運動野の活動を賦活させた状態で体表から電気刺激を行うことで,それぞれ単独より効果的に脊髄可塑性を誘導し,下肢運動機能を改善することを明らかにした。
この脊髄可塑性が下肢運動機能の改善に関わるという基礎的な知見を臨床応用するために,ペダリング運動と電気刺激療法の併用が回復期脳卒中患者の歩行能力に与える効果について,多施設間共同研究により検証した。その結果,3週間のペダリング運動と電気刺激療法の併用は,それぞれ単独と比較して,回復期脳卒中患者の歩行能力を改善することを明らかにした。
これらの結果は,神経科学による基礎研究と臨床研究が融合して得られた成果である。今後さらに神経科学の基礎的な知見を活かすことで,臨床において中枢神経疾患患者の歩行機能が改善されることが望まれる。そのためには,臨床家と研究者が協力し,神経科学により得られた知見を応用することで,その効果を検証していくことが必要であると考える。また両者をつなぐ人材の育成が,今後の理学療法をさらに発展するために重要であると考える。